ビール四方山ばなし(1)
(鮮度と保存、賞味の関係)

昨日の新年会で、私がビールについて蘊蓄(うんちく)を傾けたところ、座が盛り上がりましたので、その内容の一部を2日間に渡ってご紹介してみたいと思います。

以前、あるビール会社の幹部との仕事上のお付き合いが有り、よく彼等とビールを飲む機会が有りました。彼等のビール工場で仕事の打ち合わせする場合は決まって午後3時からでした。何故なら、 打ち合わせが終了するのが退社時刻の5時頃になりますので、工場内でその日ボトリングされたばかりのビールをご馳走して頂くことになっていたからです。そのビールの旨さは今でも忘れることが出来ません。

瓶ビールなのに、生ビールと少しも変わらないほど美味しいので、彼等にその理由を聞いたら、鮮度がいいからだと言うのです。そこで、ビヤホールなどで飲む生ビールとどう違うのかとお聞きしたところ、元は全く同じで生ビールは専用のアルミ製ボトルに詰めて即出荷し、ボトリングしてから数日以内でお客様に飲んで頂くようになっているのだそうです。ビールも鮮魚と同じように鮮度が商品価値を決めることになります。

通常、日本のビール会社は賞味期限をボトリング後約8ケ月としておりますが、私の経験からすれば3ケ月以内に飲むならそれほど味は落ちないように思います。それでも新しいのにこしたことはありませんので、ビールを買う場合、缶なら底面、瓶ならラベルに、例えば「賞味期限 2004 09 製造 2004 01下J」のように記載されております。これは、ボトリングされたのが2004年1月下旬で、賞味期限が2004年9月との意味です。

スーパーで売られているのは、ボトリング後1〜2ケ月後が多く3ケ月以上過ぎたものは殆ど見かけません。ビール会社もあまり古いビールを店頭に置いていると、ライバル会社品と比較されたり、味が落ちて評判を落とす恐れも有りますので売れ残った長期流通品はある程度は回収しているように思います。かって、アサヒビールが会社存亡の危機を脱出すべく起死回生を期してスーパードライを市場に出した時、3ケ月以上流通しているものを回収するよう当時の樋口社長が厳命したとの噂を聞いたことが有りますが真実のほどは知りません。

そんなわけで、私の場合は銘柄よりも、製造年月を優先して購入することにしております。ただ、メーカーの言う賞味期限はビールを冷暗所に静かに静置しておくことを条件にしておりますので、夏場猛烈な暑さになる場所や、逆に冷凍するような低温の場所に保管した場合は鮮度は急激に落ちてしまいますので要注意です。

これは、あるビール会社の品質管理課長さんの品質管理セミナーでの方のお話です。ある時、団地住まいの主婦の方から瓶ビールの栓を開けてコップに注いだら濁っていたとのクレームが有りました。早速お宅にお伺いして調べたところ、問題のビールはまだボトリングして2ケ月以内で新しいのに明らかに濁っております。ビール瓶は24本入りのケースに収納されておりましたので、問題のビールの周辺のビールを抜き取って開栓したところ同様に濁っていたのに、最も離れた隅に詰められたビールは異常無かったのです。

この調査結果からその課長さんはある推理をしてみました。たまたま台所のグリルで沸かしていたやかんの湯が沸騰したので鍋と取り替えようとしたのですがテーブルが手狭になっていたので、一時的にグリルの横に置いて有ったビールケースの上に仮置きしたのではないかと言うのです。そして、改めてその可能性についてその主婦の方にお聞きしたところ、その方はそのようなことをした覚えが有ると答えられたそうです。

この結果、白濁した原因が判りました。瓶ビールの場合、王冠の裏に以前はコルク製、現在はポリエチレン製のリング状の栓が取り付けられてビール液をシールしております。ところが、このポリエチレンは樹脂ですので、高温状態のやかんの底から熱が伝わり60度C以上になると軟化変形してシール性が低下して空気が混入してビールが変質することが再現テストで立証されました。

このビール会社は、このようなことは日常有り得ることであるにもかかわらず事前に代理店・消費者にその防止についての説明・PRが徹底していなかったのはビール会社側にもPL法からみても責任の一端が有ったとして、そのお宅のビールをケースごと引き取って新品に交換した上、謝礼されたとのことでした。

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