雑感記 第13章 魚の味について一考

愛知県の渥美半島と、三重県の紀伊半島の一部の志摩半島はお互いに握 手するかのように接近し伊良湖水道という狭い海峡を形作っています。 その水道の間に、愛知県と三重県の仲を取り持つかのように神島という小 さな島が三重県側の海の県境の島として太平洋からの荒波に耐えております。 この島は三島由紀夫の小説「潮騒」の舞台になり、山口百恵、三浦友和等が 映画ロケで泊まった民宿も現存しております。

一方この渥美半島と志摩半島のほぼ中央に愛知県のもうひとつの半島の知多 半島という小さな半島が自分も渥美半島と志摩半島に握手しようとするかのよう に突き出ております。 そして、その知多半島の先端を取り巻くように左から佐久島、日間賀島、篠島の 三つの島が浮かび、東海の松島の景観を形作っています。

これらの3島にはそれぞれおよそ2000人前後の島民が住んでおり殆どの家が 漁師、民宿、ホテル、釣り船を営んでおりますが、最近は交通が便利になったこ とと安い料金で地元で獲れた新鮮な魚介類を食べて泊まれるので名古屋の奥座敷 として賑わっております。

このようにして、三つの半島はそれぞれ自己主張しながら、その先端で見つめ合い、 その先端は渥美半島は伊良湖(いらご)、志摩半島は鳥羽、知多半島は師崎(もろ ざき)と呼ばれ、いずれも漁港として有名で現在はフェリーでお互いに結ばれ、最近 は映画「釣りバカ日誌」にも登場し、私のフィッシングポイントでもありま す。

渥美半島と知多半島で囲まれた海域が三河湾、知多半島と志摩半島で囲まれた海 域が伊勢湾ですが、特に渥美半島沿いの三河湾と知多半島沿いの伊勢湾では、何 故か獲れる魚介類の味に相当違いが有るように思います。
ひとことで言って三河湾の魚の方が美味しいのです。
私が最初にこの事実に気付いたのは、ある時同じ時期に両方の海岸での有料の 潮干狩りであさりを拾って食べたのですが、伊勢湾側のあさりは身がやせている上 ゴムを噛んでるような感触なに対して三河湾側のあさりは身がしっかり詰まって 歯ごたえよく美味しいのです。 最近は圧倒的に三河湾側の潮干狩りのお客が増え、スーパーも敢えて「三河産」の 看板を付けて売ってますからこれは間違いないようです。

次に気付いたのは、メバルとアジを自分で釣り上げて食べた時です。 伊勢湾側のメバルはやや黒っぽく、細長く身の締まりが悪いので煮魚にして身をほぐ すとベチャベチャとばらけてくるのに対して、三河湾側のメバルはやや白っぽく、 丸っこく身の締まりがいいので、身をほぐすとコロンコロンと身が鱗の形をしてまとまっ てほぐれてきます。
釣り仲間にこのことを話題にすると殆どの仲間も私の意見に同調してくれました。 アジは形は同じですが、伊勢湾側は脂の乗りが悪くパサパサだったのに対し、三河湾 のは脂の乗りがよくタタキにして美味しかったのです。
何故このような差がでるのかまだ定説は有りません。しかし、その原因が魚の住む環境の違いに有ること間違いありませんので以下私なりにその違いを考えてみたいと思います。

まず、河川から流れ込む水量に違いが有ります。 伊勢湾には北アルプスや鈴鹿山系から木曽・揖斐・長良の木曽三川を経て大量の水が流入するのに対 し三河湾には豊川、矢作川ぐらいだからです。
次に、潮流の早さに違いが有ります。 渥美半島沿いの三河湾ではその前に、神島、 佐久島、といった島々が近くに在るためか潮流が早いのに対して伊勢湾では島々が遠 方に在るためか潮流はさほど速くないからです。

目次に戻る 次 頁 へ
P−1
inserted by FC2 system