雑感記 第17章 魚の味について一考

しかし、一番影響しているのは潮、つまり潮流だと思います。 何故なら全国で美味しい魚の産地に共通しているのがこの潮流だったからです。

佐多岬と佐賀関半島に挟まれて潮流が早いことで有名な豊予水道の関アジ・サバ、 鳴門市と淡路島とをつなぐ大鳴門橋周辺の鳴門海峡の鳴門鯛、そして豊後水道や来島海峡の 魚等の美味しい魚に共通しているのは早い潮流です。 私にとって日本海の魚が今一なのは、日本海が閉鎖海域のため潮の干満差が小さく 潮流が遅いからと思っております。

実際、北陸で釣ったメバルを三河湾で釣ったメバルと比較すると、北陸産は伊勢湾産と同様に身の締まりが悪くベチャベチャしているのに対し、三河産は身が締まってコロンコロンで実に美味しいのです。

日本海では、潮流の影響を殆ど受けない海底に生息している蟹、海老、烏賊等は確かに美味しいのですが 寒ブリ以外では、鯛、平目、鰈、鯵、鯖で鳴門鯛や関アジに匹敵するような名産品は聞いたことが有りません。 ハタハタ、ホッケ、マタラは日本海名物ですが刺身に不向きで焼くか、干すか、鍋物にするしかないようです。
勿論、それはそれで美味しいと思いますが、魚を一番美味しく食べるには刺身に限ると信じて疑わない私には どうも日本海の魚には箸が向きません。

それに、マグロ、カツオと言った暖流系の魚が無いのも不満です。 寒ブリが美味しいのは高速で回遊するので潮流の影響を受けないからと考えております。 あくまでもこれは私の独断と偏見によるもので、逆に北陸の魚の方が美味しいと 言う方も大勢おられることを申し添えておきます。

しかし、以上の水、潮については三河湾と伊勢湾でそれ程大きな差はないのでこれだけであの味の違いを説明することは出来ません。 そこで、3番目の要素をいろいろ考えてみた結果ひとつ思いつきました。 それは入り浜、つまり自然の海岸線です。

入り浜が有るとそこでは波打ち際で波が砕けて空気を巻き込み海水中に空気が溶け込んだり、藻が生え たりして魚たちが住み易い環境になります。 伊勢湾沿いには四日市石油コンビナート、干拓、名古屋港湾施設、火力発電所が連なっているのに対し 三河湾沿いにはこうした人工施設が少なく自然の海岸線が多く残っております。

ただ、牡蠣(カキ)と海苔(ノリ)は逆に三河湾産より伊勢湾産の方が美味しいのです。 これは、山林の落葉樹からの枯れ葉から旨味成分として必要なマグネシウム分が雨水に溶け込み 地下水から川を経由して海に注ぐためではないかと推論しております。 伊勢湾には日本アルプス等の中部山岳地帯から揖斐川、長良川、木曽川を通して豊富なミネラルを含んだ 水が注がれているからです。

次に魚の味はその獲りかたによって違いがでてきます。 網に掛かった魚は長い時間逃れようとしてもがき苦しむ結果、筋肉に乳酸が貯まって味が落ちてしまいますので 魚を美味しい状態で獲るために、関アジのように一本釣りが行われます。

釣った魚を船内のイケスで活かし活魚の状態で刺身にして食べるのが最高です。 我々の釣りでは活かして家まで運ぶことは出来ませんので、釣り上げた魚を直ぐに急所をひと突きしてシメ(殺し)て クーラーに格納する方法を採っております。

無理に網の中で活かしておくと、網で獲った魚と同じように乳酸が筋肉に貯まって不味くなってしまいます。 このように同じ魚でも住んでる環境や獲りかたによって味が大きく変わることをお判り頂けたら幸いです。

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