講座集 第8章 北朝鮮と原爆
−(1)原爆の原理と開発の歴史−

元素は原子核から構成され、その原子核は正の電荷を持つ陽子と中性子から構成され、その電荷を中和するために原子核の周囲を負の電荷を持つ電子が廻っております。その陽子の数を原子番号、陽子と中性子は質量が1でほぼ同じですので陽子と中性子の数の和を重さを現す質量数と呼んでおります。

原子番号が大きくなると陽子の持つ正の電荷による反発力のため不安定になり核分裂を起こしてより安定な原子核になろうとするため原子番号には上限が存在し、理論的には102以上の原子核は存在し得えません。また93番以上の原子核は、有ったとしても地球ができてから45億年の間に崩壊して92番以下の原子核になり自然界に存在する原子番号が最も大きい大きい元素は92番のウランです。

そこで、1930年代に学者たちは92番のウランに中性子を吸収させれば93番の原子番号を持つ人工元素ができるはずと考えてトライしたのですができず、逆に原子番号の小さい別の元素に変化している可能性が有ることが示唆されるようになりました。 ナチス・ドイツがオーストリアを併合し世界大戦前夜の時期だった1938年の12月、当時の放射線化学の最高権威、ベルリン・カイザー・ウイルヘルム研究所長オットー・ハーンと若手研究者のフリッツ・シュトラウスマンは、この別の元素が56番のバリウムと36番目のクリプトンであることを突き止め、この事実についてかって同研究所の部下でユダヤ人でスウエーデンに逃れていた女性物理学者のリーゼ・マイトナーに意見を求めました。

マイトナーは甥で、デンマークのコペンハーゲン研究所の物理学者オットー・フリッシュとともにハーン等の研究成果を検討した結果、ウランが核分裂を起こしその際、中性子等の結合エネルギーに相当する分、質量が僅かに減ると言う質量欠損が起こり、アインシュタインの相対性原理により同じ重量の化学反応に較べ、E=Mc2 により何百万倍という莫大なエネルギーが得られることを計算によって推論し、ここにウランの核分裂による原爆の基本原理が確立されました。

翌1939年の1月、物理学の大御所でコペンハーゲン研究所のニールス・ボーアが米国に渡って、ハーン等の実験結果とマイトナー等の核分裂に関する解釈を米国の物理学者たちに伝えたことで大反響を呼び、イタリアから米国に亡命したコロンビア大教授のエンリコ・フェルミ等は追実験してウランの核分裂を確認し、更に核分裂を起こしたのはウランの同位元素ウラン235であることも確認しました。

ハンガリーから米国に亡命中の物理学者のレオ・ジラードは、このボーア等の成果から、ウラン235が核分裂する際に1個以上の中性子を放出すれば、その中性子が別のウラン235の原子核に吸収されて核分裂を起こし、更に中性子が放出されて核分裂が持続する連鎖反応が起こる可能性が有ることを示唆しました。そして、フェルミたちの実験でこの示唆のとおり連鎖反応が起こり得ることが実証されました。こうして原爆の基本原理は実証実験によって裏付けされ確固たる理論として確立され、あとはその実用化の段階に移行していきました。

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