講座集 第8章 北朝鮮と原爆
−(3)マンハッタン計画(ウラン235の分離)−

ウラン235を連鎖的に核分裂させるのに必要な臨界量が判って原爆の原理が確立されましたので、後は如何にしてこの臨界量のウラン235を入手するかが問題になりましたが、実はこれが最も難しかったのです。 カナダ、豪州、カザフスタン、南アなどで含有率の高いウラン鉱石が採れますが、米国でも含有率が0.1%前後と低いながらも採れましたので、ニューメキシコ州などで大々的にウラン鉱石の採掘に取りかかりました。

この0.1%の含有率のウラン鉱石の中にウラン235は約0.7%しか含まれてませんから、ウラン鉱石中のウラン235の含有率は0.0007%、つまり1トンの鉱石から僅か7グラムしか採れないことになります。言い換えれば1Kgのウランを得るには143トンのウラン鉱石が必要となり、広島原爆にはウラン235が60Kg使われたと言われておりますので、実に4トントダンプ2145台分、8580トンのウラン鉱石が採掘されたことになります。

これは人海戦術で何とかなりますが、問題はウラン鉱石から精製したウランの中の238と235を如何にして分離するかにあり、米国は1942年6月、「マンハッタン計画」のもとで、ウラン235の分離・精製にとりかかりました。 ウラン238と235は化学的性質は同じですので、化学的手法による分離は不可能のため、238と235の僅かな質量差を利用する物理的手法しか有りません。これには、遠心分離法、ガス拡散法、電磁分離法の3種類が有りますが、いずれも高度の技術と莫大な費用を必要としますので、現在の北朝鮮ではこれを実用化することはなず有り得ないと考えられます。それ故に、北朝鮮は後述するプルトニウム型原爆を志向したと思われます。

遠心分離法は、ウランを六フッ化ウランにして遠心分離器にかけると重いウラン238は外側に、軽いウラン235は内側に集まるので、内側分を取り出して更に遠心分離することを何回か繰り返していくと純度は徐々に向上していきます。米国は当初は遠心分離法を採用していましたが、ガス拡散法に移行したのに対し、日本は遠心分離法に特化し、現在でも世界有数の遠心分離法によるウラン濃縮施設を六ヶ所村に持っております。

この施設がフル稼働しても日本の原発の全てに燃料を供給出来ず不足分を輸入しておりますが、濃縮ウランの輸入価額を抑制するメリットと、この施設で原爆用クラスまで高濃縮化可能のためウラン型原爆製造可能国としてのデメリット(?)を日本は有していることになります。そのため、この施設には常時、IAEAの監視を受け、従業員には厳重な守秘義務が課され、施設は強固にガードされていると言われております。

今年の3月のNYタイム紙は、イラン中部ナタンツに建設中のウラン濃縮施設には数百基の遠心分離器が濃縮ウラン製造用に設置され更に1000基分の部品が用意され、2月に同国の核関連施設を査察したIAEAは、イランが実際に六フッ化ウランを遠心分離装置に入れてウラン濃縮実験をしたと結論づけたと報道しております。

ウラン化合物をイオンにして電磁石の間に入れると、円弧を描いて走りますが質量の違いで軽い235のイオンの円弧の半径が238に較べて僅かに小さくなることを利用するのが電磁分離法、六フッ化ウランをガス化して超微細な孔が無数に有る隔膜を通すと軽いウラン235の方が238より僅かに早い速度で通過するため通り抜けやすくなることを利用し4000回以上も繰り返すことで濃縮する方法で、マンハッタン計画ではテネシー州オークリッジに巨大なこの二つの方法によるウラン濃縮工場が秘密裏に稼働していました。

この方法で最も問題になったのは、六フッ化ウランが腐食性が強く、金属、セラミックス、ガラスが使用できなかったことでしたが、このサイトの「講座集」でも紹介しておりますように米国・デュポン社が偶然発見して開発に成功した4フッ化エチレン樹脂(テフロン)を機器類に採用することで見事に解決しました。まさに、テフロンは原爆の生みの親になったようです。こうして遅ればせながらも1945年7月24日に広島に投下される原爆1発分の高濃縮ウランがロスアラモス研究所に発送されました。


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