講座集 第8章 北朝鮮と原爆
−(6)プルトニウム型原爆の原理と実験−

こうして、多くのノーベル賞受賞者を含む科学者を動員し、莫大な費用と2年半の年月をかけて、プルトニウム型原爆2発分に必要なプルトニウム239数十Kgが得られましたが、これを爆弾にするには解決すべき大きな課題が待ち受けていました。

それは、プルトニウム239が「爆発しやす過ぎる」ことでした。プルトニウム239は臨界に達すると直ちに爆発を起こすのですがその際、まだ核分裂していない他のプルトニウム239をバラバラに飛散させて連鎖反応を停止させてしまうため、「未熟核爆発」と言う現象を起こし、ウラン型の場合のように臨界量以下のウラン235を二つに小分けして爆薬の力で合体させることで一気に爆発させることが出来ないことが判ったのです。

その原因はウラン238が核分裂するとプルトニウム239と同時にプルトニウム240が発生しますが、これは中性子を吸収しなくても自発的に核分裂を起こして合体しかけたプルトニウム239をバラバラに飛散してしまうのからと考えられました。ウラン型原爆ではこのプルトニウム240の発生量が小さいため問題にならなかったのでした。

一気に大規模な核爆発を起こすには、プルトニウム全体を一瞬のうちに均一に圧縮して超臨界の状態にする必要を作る必要が有り、そのために1943年44に実験物理学者ネッダーマイヤーが提案していた「爆縮式」というアイディアが浮上しました。これはプルトニウムの周囲に火薬を均一に配置しその爆発力で圧縮する方式で、当初はプルトニウムの変形の問題等で困難視されましたが、理論的計算を元に火薬の爆発による衝撃波をプルトニウムに集める「衝撃波レンズ」の技法が開発されこの問題が解決されたのでした。

しかし、このメカニズムが予想通りに作動するか否かはどうしても実際の爆弾で試験する必要があり、1945年7月16日、史上初めての「トリニティ」と名付けられたプルトニウム型原爆がニューメキシコ州の砂漠で実験され 爆縮式が予想以上に効果的であることを確認しました。

2発作られたプルトニウム型原爆の一つはこのように実験に供され、残りのひとつが長崎に投下されたのでした。その構造は このように推定されております。米国はこの成功によりウラン型原爆の製造を中止して、以後の原爆は全てこのプルトニウム型に統一されました。その理由は原子炉により容易にプルトニウム239を得ることが出来ることとこの「爆縮」を確実に実行できる技術に自信をもてたからと思われます。

北朝鮮の場合、前述の理由でウラン型原爆を作るだけの資金と技術力は有るとは思われませんので、もし作れるとすればこのプルトニウム型しか考えられず、その場合にはこの難解なこの「爆縮」と言う壁を乗り越えねばなりません。例え、「爆縮」のプロセスを開発してその装置を爆弾に組み込んだとしても爆弾として使えるか否かは実験しない限り判りません。そして、これまでのところ、北朝鮮が核爆発実験をした事実は有りません。

北朝鮮にとって、プルトニウムを得るには使用済燃料を再生するしか方法が有りませんので、実験用原子炉や原発を運転しない限り、確保できるプルトニウムは原爆1、2発分しかないはずで、もし北朝鮮が仄めかしているように1発だけでこれを実験もしないで本番に使うとしたらこんなリスキーで危険な行為はとても考えられません。何故ならもし失敗に終わったらあの猛毒の上、強い放射能を出すプルトニウムを自国内にばらまいてしまう危険が有る上、直ちに米国等から報復攻撃を受けて国家崩壊の危機に晒されるからです。


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