講座集 第8章 北朝鮮と原爆
−(7)水爆から核拡散防止へ−

このような歴史を経て原爆は米国でウラン型1発、プルトニウム型2発、計3発が1943年から1945年にかけて製造され、プルトニウム型の1発は実験用に、残り2発のうちウラン型が広島、プルトニウム型が長崎への投下に使用されました。原爆の開発はドイツや日本でも試みられましたが、あまりにも難しいとが多いため途中で断念されました。

しかし、戦後米国を除く主要戦勝国で国連・安保理理事国の英国、ソ連(現ロシア)、フランス、中国は相次いで原爆を競って製造し、ソ連が1949年にカザフスタンでの核実験を皮切りに、1952年に英国が豪州で、1960年にフランスがアルジェリアのサハラ砂漠で、1964年に中国がロプノルでそれぞれ原爆実験を実施し核保有国となり米国を含めてこの5ケ国は核クラブと呼ばれるようになりました。

更にこの原爆を起爆剤にして水素を超高温にすることで核融合させることで爆弾にする、いわゆる水素爆弾の開発がこの5ケ国で相次いで行われ、1952年米国がマーシャル諸島エニウェトク環礁で世界で初めて、1953年ソ連がセミパラチンスクで、1957年英国が太平洋クリスマス島で、1968年フランスが南太平洋ファンガタウファ環礁で、1967年中国がロプノルでそれぞれ水爆実験を実施し、5ケ国とも水爆保有国となりました。この水爆は広島・長崎クラスの原爆の1000から4000倍の威力を有し核戦略は原爆から水爆に代わっていきました。

一方、東西両陣営による冷戦の高まりにより、各国の核兵器保有量が増加していきましたが、冷戦の終結により、これ以上核兵器が増え続けることに危機感を抱いた米国の主導で1970年に核拡散防止条約(NPT)が進められて1970年に発効し、2000年時点で締約国は188国となっております。 NPTについては、当サイトの1/10の日記で触れておりますので参照して頂ければ幸いです。

ところがインドは核保有を核クラブの5ケ国だけに認めるのは不公平として、NPTに加盟せず、1974年に同国のボカラン砂漠で核保有5ケ国以外でははじめての核実験を強行してしまったため、このNPTの意義が失われかけましいた。それ以降もインド以外にブラジル、アルゼンチン、キューバ、南アフリカ、イスラエル、イラン、イラク、北朝鮮などの国に原爆製造疑惑が持たれ、現実に南アフリカは数発の原爆を保有したものの保有することのデメリットを感じて廃棄宣言してNPTに加盟する経緯も有ってNPTの意義は何とか保たれておりました。

しかしその後、ブラジル、アルゼンチン、イラク、イランはNPTに加盟したものの、カシミール情勢の緊迫化に伴って、1998年にインドが24年ぶりに地下核実験を再開した上、パキスタンもこれに対抗して同年、地下核実験を実施し、イスラエルも核保有を否定せず、結局この3ケ国がNPTに加盟せず、最近になって北朝鮮も脱退したことで、NPTの意義が大きく失われてきました。

インド、パキスタンの核保有は確かに問題で、今後ともその放棄を国連、国際世論を通して訴えていくべきですが、現在のところ北朝鮮のように核保有を脅しに使うようなことはせず、あくまでも印・パ両国間での問題に留まっておりますので新たな国際紛争を引き起こす火種にはならないように思います。

また、イラクのフセイン体制は崩壊し、イランも核査察に応じており、かつ国際監視も厳しくなっている折りから原爆製造に必要な資材、機材の輸入は今後不可能と思われるので、この両国については核保有問題は起こり得ないと思われます。従って北朝鮮の核保有の問題が一気にクローズアップされてきました。

非核兵器保有国への査察を厳しくするのも必要ですが、核兵器保有国の核兵器削減が遅々として進まないばかりか、米国のように小型の核兵器を開発したり、臨界前核実験を続行したり、劣化ウランを砲弾に使用したりしてNPTの精神に逆行するような態度が目立っているのは腹立たしい限りです。

一般に原発では、ウラン235を3%、ウラン238を97%を核燃料として燃やしておりますが、ウラン235はその2%分が燃えて1%分の灰(核分裂生成物)と燃え残りの1%分のウラン235になり、一方ウラン238の2%分が燃えて1%分の灰(核分裂生成物)と1%分のプルトニウム240が燃え残ります。本来、燃えないはずのウラン238が燃える、つまり核分裂するのは原子炉内でウラン235の核分裂による中性子が減速されるからです。

このように、平和利用目的で原発を稼動しても使用したウラン約の1/3が原爆の原料となるプルトニウム240が生成し使用済核燃料の中に残ってしまいます。この使用済核燃料を再処理してウラン235とプルニウム240に分離・精製して混合(MOX)すれば、プルサーマル方式として原発の核燃料として再利用できます。資源の無い日本ではウランの有効利用と問題の多いプルニウム240を少しでも減らすことを目的としてこの官民一体となってこのプルサーマル方式を推進しているのですが東電の不祥事や住民の反対運動のために採用に至っていないのは残念です。

ただ、再処理コストが高いためMOXにするコストはウラン235の市場価額の数倍もすることもあって外国では再処理によるプルトニウム240の有効利用は殆ど実施されておりません。そのために再処理されないまま使用済核燃料として保管されておりますので、プルトニウム240は年々増加の一途を辿っております。そして、北朝鮮のように、発電よりも使用済核燃料の中からプルトニウム240を抽出して原爆を製造しようとする動きに繋がる心配が有るわけです。

いろいろ批判は有るでしょうが、核クラブの核兵器保有国は自ら核兵器削減するとともに、北朝鮮のように核保有しようとする国々に対してその阻止に一致団結して立ち向かうべきで、パキスタンや北朝鮮に対する中国、イスラエルに対する米国、イラクに対する仏・露の自国の利益優先の対応にはこれまた腹立たしい限りです。さりとて、国連もNPT非加盟国には手を出せませんので、ここはやはり核兵器保有国の自覚を促していくしかなく、それには国連・常任理事国になり得る国力を持つ日・独、中でも被爆国の日本がその役割を果たす最適の国であると思います。


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