一見、非情に見える星野監督が実は人のこころの判る優しい人である
ことは既によく知られていることですが、最近あるエピソードを知るに及
んで、それが本当であることを確信しそれ故にますます星野監督ファン
になってしまいました。
大変いい話ですので星野ファン、中日ファンに関係なくこころ打つもの
があると思い敢えて紹介させて頂きたいと思います。
この話は、中日ドラゴンズの佐藤社長がたまたま東京新聞の幹部社員
研修会でKさんという方が話された内容に感動して、中日ドラゴンズの
公式サイトの連載シリ−ズ「キャッチボール」の第33回に掲載されたもので、
原文のまま以下再掲させて頂きます。
この話を読んでいくうちに以前見た「男ありて」という名の映画を
思い出しました。
昭和29年に中日ドラゴンズを始めて日本一に導いた天知監督の物語で、
野球一筋のあまり妻の死にも立ち会えなかった父の冷たさに反発する娘
が優勝してから一人、妻の墓前で号泣する父親の姿を見て、そっと涙して
父の本心を知るラストシーンがよみがえってくるのです。
<中日ドラゴンズの公式サイト連載シリ−ズ「キャッチボール」第33回より転載>
◆最近、ある文章を読んですごく感動した。ドラゴンズ・ファンの皆さまにぜひ読んで頂きたいと願って
ご紹介します。
その文章は、東京新聞(中日新聞東京本社発行)の販売関係の幹部社員研修会で、Kさんという
方が話された内容を記録したものということである。
昨年秋、中日ドラゴンズが11年ぶりに優勝を決めた数日後のこと。北関東を担当するKさんは会合に
出て遅くなり、タクシーに乗った。運転手が『ジャイアンツが優勝できなくて残念でしたね』と話しかけて
きた。北関東はジャイアンツ一色の土地柄であり、Kさんも当然ジャイアンツ・ファンだろうと思ったらしい。
Kさんが『いや、私はドラゴンズの関連会社に勤めている者だ』と言うと、運転手は『そうですか、ドラゴ
ンズの関係者でしたか。実は、私も平成9年の暮れからドラゴンズの熱烈なファンになりました。
特に星野監督さんの男気が好きなんです』
『お客さん、もしお耳障りでなかったら、聞いていただけませんか』。運転手はこう言って、話し出した。
◆(以下はタクシーの運転手さんの話である)
私は生まれた時からジャイアンツの洗礼を受けて育った者です。両親も弟も親戚もみんな、野球はジャ
イアンツでした。私の弟は名古屋で葬儀社の運転手をしておりまして、偶然星野監督の奥さんの葬儀の
霊柩車の運転をさせて頂きました。出棺の際、監督は大勢の弔問客に涙をこらえながら『妻はナゴヤ
ドームでお父さんの胴上げを見たいね。それまで生きていたい、と言い続けていました』と挨拶しました。
いよいよ火葬場へ出発の段になって、星野さんは後続の運転手に何事か話し、霊柩車には自分一人
にしてくれと言って、出発しました。星野さんは弟に『運転手さん、ナゴヤドームヘ行って下さい』。
前例のないことに、弟は『ナゴヤドームですか?』と驚いて聞き返した。霊柩車はそぼ降る小雨の中、
ドームを一周し、雨よけのひさしのある所に止めた。
監督は『運転手さん、家内の棺を出したいので、手伝って下さい。全部下ろさなくてもいいですから、
下ろせる所まで下ろしたいのです』。弟は何事が起きるかと恐れながらも、それに従った。
棺は頭の方を車にかけ、斜めに下ろされた。
すると監督は『運転手さん、5分間だけ泣かせて下さい』と言って、棺にすがりついて号泣した。
『なぜ死んだんだ。ドームでパパの胴上げを見たいね、それまで頑張ると約束したではないか。
かあさん、なぜ死んだんだ!』
弟は感動に打ち震えながら、監督に負けないくらい泣いたとのことである。
監督は『必ず優勝して見せる。かあさん、見守っててくれ』と言って、火葬場へ向かった。
弟はその年の暮れ、正月前に休暇で帰った際、親戚が集まった席でこの出来事を涙ながらに語った。
弟はこの日のことは一生忘れないと言ったが、私たちだって星野ドラゴンズを決して忘れない』
◆この話を聞いたKさんも、それを話す運転手さんも泣いた。
『お客さん、この話は初めて人に話すことなんです。誰かに伝えたいと、いつも思っていました。
今日、やっと弟の感動をお客さんに話すことが出来ました…』
Kさんはタクシーの運転手の話を通して『男・星野』を熱く語った。会合の出席者は涙にうるんだ瞳に、
星野監督のドームでの情景を思い描き、改めて優勝を誓った闘将星野と、それを実現させた選手諸君
の執念に感激を覚えた。
(文章の筆者は『中日新聞研修センターCMC・篠原弘明氏』)
◆ドーム元年のその年、ドラゴンズは『最下位』に落ちた。ドームの広さ、華麗さに負けたと言える。
ドラゴンズ野球の甘さ、粗雑さばかりが目立った。そこから立て直し、2年目は2位へ。そして、
3年目の昨年はついにセ・リーグの覇者となった。
確かに優勝はしたが、しかし星野監督の『ドームでの胴上げ』はまだ実現していない。昨年、日本シ
リーズに勝っておれば一挙に達成できたかもしれないが、夢は今後の課題として残されたのだ。
『今年こそ日本一を!』というファンの期待は大きい。それに応えるチームの体制は相当整備されている。
しかし、決して楽観は出来ない。前途には、戦雲たなびく厳しい山坂が待ち受けている。先月、開幕前に
発した次の『警告』をもう一度繰り返したい。
−心配なのは、昨年リーグ優勝した『気の緩み』である。今年のドラゴンズには、切羽詰まったものがない。
余裕と言 えば聞こえはいいが、必死の気迫に欠けている感なきにしもあらず。『敵は自らの心中にあり』
と一言、警告して置きたい。ファンの皆さんもウオッチして欲しい−。
今年の開幕スタートは確かに厳しい。厚いカベに遮られている。だが、自らに負けない事、あきらめない事、
投げ出さない事。現実を直視し、最後の勝利を信じて1歩1歩巻き返して行けば、必ず活路は開ける。
今年こそナゴヤドームでの胴上げを!