イージス艦と漁船の衝突に思う(3)
イージス艦と漁船の衝突に思う(4)


衝突12分前からの漁船の船団と「あたご」の位置関係

イージス艦「あたご」と衝突した「清徳丸」は他の僚船6隻と船団を組んで伊豆大島沖を目指して南西方向に15ノット前後の速度で統一行動を取りながら航行しておりましたので、衝突前後の「清徳丸」と「あたご」の行動は「清徳丸」の前後を航行していた他の僚船のGPSプロッター等の航行記録と船長の証言から精度よく推定することが出来ます。昨日の日記では、その経緯を追って衝突の瞬間の「清徳丸」と「あたご」の位置関係を上図のように結論付けました。

残念ながら、防衛省の発表は二転三転してその精度を欠いておりますので、今日は、船団側の情報に基づいて作成されたこの図に基づいて私見を述べていきたいと思います。船団側の情報と、この情報に矛盾しない防衛省の発表内容を併せて「清徳丸」と「あたご」の行動を整理すると次のようになります。

1.「あたご」が午前3時55分に先方に「清徳丸」等の灯火を視認した。
2.その約5分後に僚船「金平丸」が左に舵切って「あたご」を回避。
3.その約7分後に僚船「幸運丸」が右に舵切って「あたご」を回避。
4.その約12分後に右に舵切った「清徳丸」に「あたご」が衝突。
5.「あたご」は警笛を鳴らして停船しボートを下ろして捜索開始

以上の経過から疑問が残るのは次の2点です。

(1) 12分前に灯火を視認しながら自動操縦を続けた「あたご」の行動
(2) 回避した僚船の後に続き早めに回避しなかった「清徳丸」の行動

上図のように「あたご」から見て「清徳丸」が右側に位置していたため、「あたご」に回避義務が有ることは明白で、例え「清徳丸」の回避行動が遅れたとしても法的には「あたご」に責任が有ると考えられます。
しかも、12分前に「清徳丸」等の灯火を視認しながら、衝突2分前まで自動操縦を続け、警笛を鳴らすなどの衝突予防処置も行なっておりませんので、道義的にも許されない面が有ると思われます。

ただ、どうしても判らないのは(2)で取り上げた「清徳丸」の行動です。前を航行していた僚船が相次いで左右に大きく舵を切って回避行動を取っておりますので、「清徳丸」がこのことに気付かないはずはないからです。実は私も海釣りで右側から接近してくる大型船を回避するのが遅れて危ない経験をしたことが有りました。大型船の回避に遅れると大型船が造る「引き波」と呼ばれる造波で私のボートのような小さい船は大きく揺れて横転の危機に曝されるからです。

その時の以来、私は大型船が接近してきた時は早めに回避行動を取って、この「引き波」による危険を回避することにしております。「清徳丸」にとっても、重量で1,000倍以上の「あたご」からの「引き波」の影響は無視できないはずですので、例え法的には回避義務は無いとしても、自らの安全を考えて早めの回避行動を取ることが必要だったはずです。留守家族や関係の方々には言い辛いことではありますが、同類の事故を防ぐためにも漁船側にもこのように自省を促すこともメディアの責務と私は考えております。


大型船の前を横切る(回避)二つのケースの図解

強者が加害者で弱者が被害者の事故や事件では、メィデアは強者をより悪く(不利に)、弱者をより良く(有利に)に報道するのが常であります。従って例え、弱者側に不利な事情が有ったとしても、新聞・ラジオ・TVでは取り上げようとしません。しかし現実には、その原因が加害者に100%有って、被害者側には皆無ということは有り得ず、被害者側にも必ず原因が潜んでいるものです。

メィデアとして、そのような事故や事件の再発防止を期すために、加害者側に基づく原因を社会悪として大々的に報道することが最優先されますが、同時に被害者側に潜んでいる原因についても勇気をもって報道し、場合によっては被害者側にも自省を促して警鐘を打ち鳴らすことも必要ではないかと思います。

今回のイージス艦の衝突事故についても、昨日の日記でも触れましたように、漁船側の回避行動に疑問が残り、法的な義務・権利にこだわらずに自衛を優先すれば、あのような悲惨な事故は起らなかったはずです。私が20年ほど前に小型船舶の海技免状を取得した時の講習で「大型船は進路や速度を変えずに航行し、小型船はその進路を妨害しないように航行する」と教えられておりましたので今回の衝突事故は漁船側に非が有ると当初思っておりました。

私が日頃、釣りをする海域では漁師さんたちの船が高速で駈け巡っており、私のマイボートのような吹けば飛ぶような小さい船は、漁師さんたちの船に近づくとその引き波で転覆する危険が有るため海上衝突法に関係なくこちらから早めに回避することにしております。殆どの場合、漁師さんたちは回避義務を守らずに直進し引き波を受けて大揺れする私のボートを横目で見ながら通過していきます。我々は趣味、漁師さんたちは生活を賭けて海に出ているのですから彼等の航行を優先するのは当然と考えることにしております。

今回の事故の当事者の漁師さんたちは、上述のような横暴な航行はしていないと思いますが、疑問が残る共通する意識的な回避行動の遅れについては、それなりの理由が有るはずで、それこそが今回の被害者側に潜んでいる原因になっているように思われてなりません。そこで、私なりにその理由を以下に推測してみたいと思います。但し、あくまでも私の想像でその科学的根拠は無く、また当事者の漁師さんがそのような考えを持っていたとの確証も無いことを予めお断りしておきます。その理由を説明するのに、基本となるのが上図に示す二つの回避のケースです。

引き波は、船舶が航行する時、船体が海水等を押しのけることによって生ずる波のことで、大型船の引き波に小型船が不適切な角度で遭遇すると極端な場合転覆する恐れが有るとされております。ここで、上図に戻ります。ここでは小型船A、Bが左から右へ航行し、右から左に航行してくる大型船を回避する場合を想定しております。

ここで、小型船Bが大型船を遠方で確認してこの図のように、B1地点で早めに回避すべく右旋回して大型船の前を横切ってB2地点で左旋回して元の進行方向に戻って大型船と平行してすれ違うようにして航行する場合を考えてみます。この場合、B1地点からB2地点までは大型船からの引き波を受けることは有りませんが、B2地点からB3地点を航行する過程では大型船と対向するためまともに大型船からの引き波を受けるだけでなく、最接近してすれ違うと吸い込まれる危険に曝されることになります。

次に、小型船AがA1地点の直前で右旋回して大型船の前を横切ってA2地点で左旋回してA3地点に航行する場合を考えてみます。この場合、大型船の引き波を受ける前にA2地点に到達すれば、A2地点からA3地点を航行する過程では大型船から離れていきますので、引き波を受けることも。吸い込まれる危険に曝されることも有り得ません。つまり、小型船Bのように遠方で回避行動を取るよりも、引き波等の影響を受けないという点では安全と言えます。問題は、如何に大型船の直近で素早く横切ることにあります。

「金平丸」も直前で右旋回して横切ろうとしましたが、間に合わないとみて急遽左旋回、続く「幸運丸」も直前で右旋回し、「清徳丸」も直前で右旋回したのですが間に合わず衝突してしまいました。何故、このように漁船は示し合わしたように直前で横切ろうとしたのでしょうか。漁師さんたちの頭の片隅に上述のような思いが潜んで、それが咄嗟の判断に繋がったのかも知れませんが、例えそうであっても、引き波を回避するための自衛行動とも言えますから責めることは出来ないと思います。ただ、その可能性に言及しているサイトが有ることも事実ですので無視は出来ないように思われます。

しかし、このような直前回避は、その理由を問わず、まかり間違えば自殺行為にもなりかねませんので今後は絶対に止めて欲しいものです。メィデアは、このような被害者側に潜んでいる原因についても取材に努めてその事実関係を検証した上で、その状況によっては報道して再発防止の立場から被害者側にも自省を促して警鐘を打ち鳴らすことも必要ではないかと思います。


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