人類とインフルエンザ
(インフルエンザに関する解説(2))

電顕によるA型インフルエンザ像(東京都立衛生研究所資料より)
(周囲にHA型、NA型の突起が有り、これにより分類される)

16世紀のころにイタリアなどで、「星の影響」が原因とされる病気がまん延した。後には「寒気の影響」からとみる人もいた。今で言う「インフルエンザ」で、「影響」のイタリア語インフェルエンツアが元だ。「新参者」とも言われたがギリシャ・ローマ時代に同じような流行病があった。古くから人間につきまとい、同時に「人類最後の大疫病」とも言われるやっかいな病気だ。(ビバリッジ「インフルエンザ」岩波新書より)

人類は有史以来、数多くの疫病に苦しめられ、恐らく一時的には全人口の半分以上が病死すると言った悲惨な歴史を繰り返しながら今日に至っているものと思います。記録に残っている人類史上最大の疫病は中世ヨーロッパの人口の約四割を死に至らしめたと言われる「黒死病」でした。しかし、この黒死病のペストに代表される法定伝染病からは開放されましたが、どうしても開放してくれない最大の疫病がこのインフルエンザだと私は思います。

特定のウイルスに感染して回復すると私たちの体にはそのウイルスに対する抗体ができて、二度と感染しないのが普通ですが、このインフルエンザウイルスはウイルス側が生き延びるために遺伝子の配列を少しずつ変え、免疫の網の目をくぐりぬけるため、せっかくワクチンで免疫になっても数年後には新種の出現によって無効になってしまうからです。

インフルエンザウイルスはRNAウイルスと呼ばれるウイルスの仲間で、A型、B型C型の3種類が有りますが、重要なのはA型とB型で、大流行を引き起こすのはA型インフルエンザでB型は散発的に小流行を繰り返しています。A型が大流行するのは前述のように遺伝子配列を変えることで姿を変えるのが得意で、小さな変化の場合には以前かかった時の免疫や予防接種の効果が有効ですが、大きく姿を変えたときにはこれらが期待できません。A型は10〜30年おきに大変身し、その時には、世界規模の大流行をもたらします。

その決め手のなるのが、上の写真に見られるウイルス表面に有る突起状のスパイクです。HA型スパイクはヘマグルチニン(hemagglutinin:HA)と呼ばれ、赤血球や血清中の糖蛋白や感受性細胞と結合することで、N型スパイクはノイラミニダーゼ(Neuraminidase:NA)と呼ばれ細胞表面などから遊離することで未感染の細胞に広がっていくことで、それぞれウイルス感染を進める役目を果たし、これが微妙に変化することでいろいろな種類のウイルスが派生することになります。

現在までに、15種類のHA型が確認されておりその内容はこの資料のとおりです。トリでは15種類全て、ヒトではH1、H2、H3、H5の4種類、ブタではH1、H3、ウマではH3、H7、アザラシでは、H4、H7のそれぞれ2種類で、限られた種類のヘマグルチニンしか確認されていません。一方、NA型は9種類が確認されており、その内容はこの資料のとおりです。トリでは9種類全て、ヒトではN1、N2、ブタではN2、N3、ウマではN7、N8、アザラシではN6、N8とやはりそれぞれ2種類か確認されていないのはHA型と同じです。

インフルエンザウイルスの命名法は国際的に決められており、例えば、A/swine/New Jersey/8/76 (H1N1)のように表します。A型で、豚(swine/)から、New Jerseyで、1976年に8番目に分離され、HAが1型、NAが1型のウイルスということを表します。ヒトから分離された場合は、分離動物名が省略されますので、1999年に東京で初めて分離されたAH3型ウイルスでは、A/東京/1/99(H3N2)となります。過去に大流行さたもので有名なものに次の4種が有ります。

1918年  スペイン風邪 (H1N1)
1957年  アジア風邪  (H2N2:Aアジア型)
1968年  香港風邪   (H3N2:A香港型)
1977年  ソ連風邪   (H1N1:Aソ連型)


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