渡り鳥は悪魔の配達人か
(インフルエンザに関する解説(3))

昨日、解説しましたように、インフルエンザウイルスは、HA型15種、NA型9種が確認され、従って19×9=171種の組み合わせが可能ですが、問題は基本的な構造は人間を含む鳥、豚、馬等に共通していることです。幸い、基本的には鳥から人間に、豚から人間に、あるいは馬から人間にうつることはないはずですが、豚を仲介にして鳥のウイルスが人間にうつることが確認されており、これが大きな問題になっております。

通常、鳥のウイルスは人間に移りませんが、豚には人間、鳥両方のウイルスがうつります。その豚が鳥のインフルエンザウイルスに感染し、更にこの豚が人のインフルエンザウイルスに感染すると、その豚の体内で人間と鳥のウイルスの遺伝子の一部が置き換わる(交雑)と、人にも感染する新型のウイルスが発生します。これが新型ウイルス発生のメカニズムで、一昨年、香港で発生して話題になった新型ウイルスはH5N1と言う鳥のウイルスで、人には感染しないハズだったのですが、 鳥から人に感染した珍しい例です。

香港に住む家族5人が、一昨年1月下旬から中国南部の福建省の親類宅を訪問した際、8歳の二女が肺炎で死亡、更に33歳の父親も香港に戻った後、肺炎で死亡、9歳の長男と母親も発熱などの症状が出て入院したが、その後回復しております。ただ遺伝子の型は鳥の型のままでしたので大流行にならずにすみました。

この事例のように、人からトリインフルエンザウイルスが確認されたのは97年の18人が感染し、うち死者6人が出た時以来で2回目で、97年の時は、人から他の人への感染は起きなかったと考えられておりますが、この香港の事例では人から人への感染が起きた可能性も否定できないとして大きな問題になりました。

そして、先日山口県で発生した鳥のウイルスも、この香港で発生して人間にうつったのと同じで、韓国で大流行しているのとも同じH5N1型であることが昨日確認されました。従ってこのままなら人間にうつることはないと考えられておりますが、一昨年の香港の事例のように、豚を仲介として交雑により人間にうつる可能性の有る新型ウイルスが発生する恐れが有ることから日本政府も重大な関心をもって最大限の対策を行っているわけです。

これは私の想像ですが、トリだけにウイルスの全ての型が確認されていることを考えるとインフルエンザオイルスは元々トリだけに流行していたのが、豚などを仲介として交雑により人間や他の動物にもうつるように新型が派生してきたように思えてなりません。とすれば、そうした交雑が起こる確率は、ヒト、ブタ、アヒル、ニワトリが比較的密集して生活している中国南部で最も高くなるはずです。

現実に最近、世界のインフルエンザ流行の最先端が中国南部であることが判ってきました。中国南部で流行したウイルスの型がその後、渡り鳥や旅行者によって世界中に運ばれていくことになります。SARSの場合は人間の動きだけに配慮すればいいのですが世界中を飛び回っている渡り鳥などの野鳥の動きや接触にまで配慮することは事実上不可能と思われます。実際、山口県でのトリインフルエンザは野鳥の接触が可能な鶏小屋を中心に伝播していることからも野鳥が媒体となった可能性は充分有り得ると思われます。

殆どのインフルエンザウイルスは、トリに対して重篤な症状は起こさないのですが、H5やH7ウイルスだけは、トリペストと呼ばれる程、重い症状をもたらすこともあり、この場合は、ほとんどのトリは感染して1〜3日で突然死亡してしまいます。山口県や韓国でもおびただしい数のニワトリが死亡しているのはこの事実を物語っております。ところが、もしこのウイルスをもし野鳥運んできたとすれば、その野鳥には重い症状をお越していないことになります。つまり、こうした野鳥、特に中国大陸などからウイルスを運んでくる渡り鳥は悪魔の配達人とするのは言い過ぎでしょうか。山口県で確認されたウイルスが交雑を起こさずに封じ込められて絶滅することを祈らざるを得ません。

以上、3日間に渡ってこれまで取材してきたインフルエンザに関する情報を私なりにまとめて、臆面もなく解説をしてみました。専門家ではありませんので精緻な記述はできず、あるいは不適当な表現が有るかもしれません。しかし、こうした知識は我々としても是非身につけておく必要が有りますが、マスコミから伝えられる情報では判り辛い点が多々有るように思われます。この拙文が少しでもそのような点を補うものであれば望外の喜びとさせて頂きます。




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