北朝鮮のロケット発射に思う(1)
(ロケットからの落下は事実上、心配不要)
北朝鮮のロケット発射に思う(2)
(ロケットからの落下より怖い宇宙ゴミ)


北朝鮮が事前に通告してきた危険区域

今日は、朝から北朝鮮の人工衛星打ち上げに関連するニュースが目白押しで、プロ野球開幕などのニュースが吹き飛んでしまった感が有りました。この件に関する日本の政府とメディアの取上げかたは過剰で、いたずらに国民の不安を煽り立て、北朝鮮の思う壺にはまっているように思われてなりません。

そこで今日は、実体が人工衛星であれ、弾道ミサイルであれ、核兵器さえ搭載されていない限り、我が国に対して生命・財産等に甚大な危害を及ぼすことは有り得ないことを確認しておきたいと思います。
その根拠は次の点にあります。

(1)人工衛星として成功すれば落下物はエンジンと燃料タンクのみ。
(2)失敗しても落下物が衛星の分、増えるだけ。
(3)ミサイルとして成功すれば空弾頭が太平洋上に落下するだけ。
(4)失敗しても落下物が空弾頭の分、増えるだけ。

人工衛星、ミサイルのいずれでも共通する落下物は使用済みのエンジンとその燃料タンクです。人工衛星の打ち上げは、衛星軌道の高度まで上げるための第1段エンジンと衛星軌道に乗せるための速度を確保するための第2段エンジンから成る2段ロケットによって行なわれるのが一般的で、日本も北朝鮮もある高度に達すると第1段エンジンを切り離して軽量にしてから第2段エンジンを稼動させることでは共通しております。

この切り離しを地上100km以下の大気圏で行なうか、100km以上の宇宙空間で行なうかによって落下物の形態が異なってきます。大気圏で行えば、発射点から近距離の狭い区域に落下しますので危険区域の設定が容易です。但し、落下速度が遅いため大気との摩擦で燃えてバラバラに分解されることはなく殆ど原形を保ったまま落下しますので、人体や器物に当たると大変なことになります。

日本は、確実に日本領海に落下しかつ落下に伴う危険区域が狭いことから安全を確保しやすい、この方式を採用し鹿児島県・種子島から打ち上げ、地上50km前後で切り離しております。下図が落下予定の危険区域(=海上警戒区域)として関係先に事前通知し、この区域に立ち入らないよう要請しております。図の左上が種子島で、危険区域は30km×50km 程度で、発射点から近くかつ狭い範囲であることが判ります。幸い、事前通知等の安全対策が奏功してこれまで一度も落下に纏わるトラブルは発生しておりません。

日本の人工衛星打ち上げ時の海上警戒区域

一方、地上100km以上の宇宙空間で切り離すと、発射点から遠距離の区域に落下しますので、上述のように、危険区域が他国の領土や領海になる恐れが有ることから日本はこの方式を採用しておりません。しかし、北朝鮮は日本の領土や領海に落下する恐れが有り得るこの方式を敢えて採用し、第1段エンジンを日本海上空、第2段エンジンを日本の東側の太平洋上で切り離すとし、冒頭のモデル図に示すように危険区域を国際海事機関(IMO)を通して通知してきました。

この場合は、落下速度が速いため大気圏に再突入して摩擦熱で燃え尽きるかまたはバラバラに分解されて海上に落下しますので、不幸にして船に落下しても船に甚大な損傷を与えたり、船内に居る人に危害を及ぼすことは考えられません。日本にとって最も危険なケースは、失敗して秋田県と岩手県の陸地に落下する場合です。

この場合、第1段エンジンは既に切り離されているので、落下するのは第2段エンジンとその上の部分(第3段エンジン?と衛星または弾頭等)で、大気圏に再突入し摩擦熱で燃え尽きるかまたはバラバラに分解されて落下します。米粒ほどの小片と言えども人体に当たれば危険ですが、その確率は極めて小さく事実上心配要りません。ただ、政府、メディアは立場上そうも言えず、万一のことを考えて通過地域の人々に注意を喚起し、関係先に対策を指示しております。


地球を周回中の人工衛星による宇宙ゴミ(デブリ)のモデル図

昨日の日記で、北朝鮮が打ち上げたロケットによる落下物は大気圏再突入により摩擦熱で燃え尽きるか、バラバラに分解して落下してくるので、その危害、損害の程度も甚大ではなく、また何時、何処に落下してくるかの情報も事前に判っておりますので対策を打つことも出来ることから事実上心配無いと解説しました。

心配無いとする、もう一つの理由は有史以来、宇宙から落下してくる隕石によって人類が死傷したとの記録が残されていないことにあります。隕石は、小惑星や彗星、更には大気との摩擦で燃え尽きなかった流星が地上に落下したもので、ある人の計算では、有史以来全世界に落下した100g以上の隕石は2万個以上に達しており、地球上の人間に当たる確率は、約200年に1回だそうです。

しかし、100年ほど前の1908年6月30日朝7時2分にシベリアの奥地、ツングースカ地方に落下した隕石は、空中で大爆発を起したのか明確なクレーターは形成されておりませんが、約2150平方kmの範囲の樹木がなぎ倒され、爆風で1000km離れた家のガラスが割れ、キノコ雲は数百km離れた地点からも見え、ロンドンなど欧州各地で白夜のような現象が起きたことが記録され20世紀最大の謎として今に語り継がれております。

この時の爆発エネルギーは、TNT火薬にして100メガトンで広島級原爆の1000倍ほどと言われ、クレーターも無い上、爆発時の状況が原爆に酷似していたことから、異星人による核攻撃だったとの説も出て、謎に包まれておりましたが、昨年、イタリアのボローニャ大学の研究者たちの調査により、ツングースカ地方にあるcheko湖がクレーターの跡であるとの可能性が高まってきました。下の画像は、その証拠として作成されたCheko湖を3D画像です。

隕石が上空で爆発して発生したと推測されるCheko湖の3D画像

当時のツングースカ地方は人が住んで居なかったので、死傷者が出たとの記録は残されておりませんが、もしこの隕石が日本列島に落下していたら、500〜1,000万人の人々が死傷するという有史以来最大の災害をもたらしていたと思われます。月面に見られる無数のクレーターも隕石落下によるものとされておりますが、地球上にも多くの隕石落下によるクレーターが存在していることが最近、人工衛星や航空機からの観察で判ってきました。

上述のツングースカ級の隕石が落下する確率は数世紀に1回程度ですが、人口密集地域に落下すれば想像を絶する大災害になります。ところが、人工衛星が打ち上げられるようになってから、人工隕石とも言うべきスペースデブリと言われる無数の宇宙ゴミが地球を彷徨いながら周回し失速して次々に落下するようになってきました。

積んできた人工衛星を切り離して軌道に乗せることで役目を終えて人工衛星になった最終段エンジンは他の人工衛星との衝突を避けるため、故障したり寿命が切れた軍事偵察衛星は他国に落下するのを避けるため、地上からの指令で爆破されることが有ります。 2007年1月12日、中国は地上約850kmの上空にある中国の気象衛星「風雲1号C」に中距離弾道ミサイルを使った衛星攻撃兵器(ASAT)による破壊実験に成功した結果、高度約200kmから同約3,500kmの楕円軌道上に10cm以上の破片が少なくとも517個がデブリとなって周回するようになりました。

米国のリベラル系団体「憂慮する科学者連盟」(UCS)は、この事態を受けて、他の衛星に当たれば損傷を与える1ミリ以上の大きさのデブリが200万個を超える公表し国際宇宙ステーション(ISS)を含む低軌道上の衛星と衝突する可能性を指摘しました。ISSの機体側面にはデブリの衝突痕が無数に有り、昨年8月にはロシアの軍事偵察衛星と思われる巨大なデブリとの衝突を避けるため、逆噴射をかけて高度を一時的に下げるという非常事態が発生しております。

現在、地球を周回中の人工衛星と10cm以上のデブリの数は、およそ次のように推定されております。

・運用中の人工衛星              3,000
・ロケット(主に最終段エンジン)        7,000
・運用停止の人工衛星            10,000
・ロケット、人工衛星からの放出物      6,000
・衝突、爆破によって生じた破片      44,000
        計                70,000

その分布状況を、NASAはモデル図(この頁の冒頭の画像)として公表しております。発展途上国も人工衛星保有を目指しておりますので、その数は更に増加していくことが予想されます。従って、落下の時刻と場所が特定されないという点では、その確率は低くても 今回、北朝鮮が打ち上げたロケットからの落下物より怖いとも考えられます。

従って、打ち上げられるロケットからの落下物を恐れるなら、同時に隕石やデブリの落下物をも恐れることに繋がります。そうなると、一生涯家に閉じこもっているしかありません。しかし、これらの落下物によって命を落とす確率よりも、交通事故やガンや脳梗塞、心筋梗塞などの病気で死亡する確率の方が遥かに大きいのですから、落下物を恐れることはナンセンスと云わざるを得ません。


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