−日記帳(N0.1964)2007年05月05日−
ジェットコースター事故に思う(1)
−日記帳(N0.1965)2007年05月06日−
ジェットコースター事故に思う(2)


折損した車軸のモデル図
(朝日新聞の記事より)

植木のケアなどの庭仕事をしていると針金を切断する必要に迫られることがしばしば有ります。物置から電動鋸か電動グラインダーを引き出して使えば簡単に切断できるのですが、庭まで家の中の電源から延長コードを繋ぐのが面倒ですので、何時も手で切断することにしております。手で針金を繰り返し折り曲げていくと亀裂が入り簡単に切断することが出来ます。 これは誰でも知っている生活の知恵で、金属の疲労現象を応用しているわけです。このような疲労現象は金属だけでなくプラスチックスやゴムなどにも見られますし、実は人間にも見られるようです。人間も1度のストレスには対処できても、ストレスが繰り返されると疲弊して病気になってしまうということがありますので、このような疲労現象は人間にも共通しているように思われます。

今日の午後、大阪府吹田市の遊園地「エキスポランド」で、ジェットコースター「風神雷神2」(全長1,050m、高さ40m、最高時速75キロ)の車体が外れ、3人が落下し、19歳の女性1人がフェンスで体を強打し死亡するという痛ましい事故が発生しました。車体を支えている車軸ユニットの中の車体と接合している車軸が折損したため、車軸ユニットごと脱落したのがその原因で、問題の折損が上述の金属の疲労現象によるものと考えられております。(上のモデル図参照)

折損した車軸は、鉄、ニッケル、クロムからなる合金材で、直径約5cm、長さ約40cmでナットの付け根部分でほぼ垂直に破断し、破断面の半分以上に縞模様が見られるとのことですので、この縞模様は疲労破壊によく見られるビーチマーク(シェルマーク)と思われます。ビーチマークの典型的な実例はこのように線状の凹凸が波状に広がっております。この車軸は開業以来、15年間に渡って使い続けられているとのことですので、何らかの原因によりこの車軸に疲労が加わってビーチマークが徐々に進展して固有強度が車体を支持するに必要な強度以下に低下した時点で一気に破断したものと思われます。

金属疲労は、繰り返し荷重が加わることで起きることが知られており、貨物船が航行中に突然船体が破断して沈没したり、 航空機が飛行中に突然空中分解して墜落したりしたのも金属疲労が原因でした。1985年に御巣鷹の尾根に墜落して520名が亡くなられた日本航空123便の墜落事故も圧力隔壁が金属疲労により破損したのが原因と推定されております。 19世紀の中頃、欧州で馬車や蒸気機関車の車軸が使用中に突然に破壊したことから、その原因を究明する過程で金属疲労が確認され、構造設計技術者にとって重要な関心事となりました。

しかし、金属疲労を軽減することは出来ても根本的に防止することは不可能で、定期的に交換するか、あるいは定期的な検査において部材の微小な割れ目を検出したら新しい部材に交換する手法を用いるのが実態です。この検出は目視、打音などの人力、超音波検査や浸透探傷検査、X線写真などの非破壊検査を用い、検出限界と設計の余裕から検査の頻度を規定しております。従って今回事故を起したジェットコースターも、繰り返し荷重が加わることから金属疲労発生が想定されますので、当然このような定期的交換、検査の実施などが行なわれていなければならないはずです。

しかし、破断した車軸は開業以来15年間一度も交換されておりませんでした。また、法令で定められている1年毎の車軸の検査も昨年2月を最後に1年以上行われておりませんでした。更には、折れた車軸部分は外部から確認できないため、解体による点検が必要なのに今年2月の点検では、新アトラクション建設のため点検作業の場を確保できないとの理由で、解体は行なわれておりませんでした。これでは、起こるべくして起こったと言わざる得ないと思います。明らかな人災と私は断じます。


事故発生現場で検証中の調査員

今回、事故を起したジェットコースターでは、左のモデル図で示すように、車軸ユニットにある三つの車輪が上下左右からレールに接触して走行する仕組みになっております。そして、三つの車輪のうち上側からレールに接触する車輪の車軸が車軸ユニットを車体に取り付ける役割を果しております。車軸の先端に切られたボルト溝にナットを締め付けることで取り付けられます。

そして、問題の車軸の折損は左のモデル図で示すように、このナットの根元の部分で発生し、ほぼ車軸に垂直に破断しております。確かにこの部位は車体の荷重と車輪からの振動が加わわりますので、金属疲労を起しやすいところでもあります。しかし、このようなところで破断に至るほどの金属疲労が発生するとすれば、数十万kmも車軸を交換せずに走行している乗用車でも同類の事故が発生していいはずですが、そのような事故は殆んど見聞したことが有りません。

私が、パンク時のスペアタイヤ交換で苦労したのはタイヤの取り外しでした。備え付けの十字レンチをホイールのキャップナットに嵌め込んで手回しで外そうとするのですが固くてビクともしません。そこで、十字レンチの上に乗っかって体重を諸にかけてテコの原理により何とか外すのが常套手段でした。前回のパンクの際に、ホイールナットが緩んでハブボルトから外れのを恐れて、ホイールナットを十字レンチの上に乗っかって足をキックして締め付けたのがその原因でした。

実は、ハブボルトとホイールナットの締め付けトルクは 10kg-m 程度で充分ですから30cmアーム長のレンチなら30kg程度の荷重で充分で、回らなくなるまで手回しで締め付ける程度でよかったのです。必要以上のトルクで締め付けると、ネジ山を潰したり、なめたりする場合が有り逆に危険ですから、トルクレンチを使って所定のトルクで締め付けるのが正しいやり方です。しかし、締め付けトルクが不足すると走行中にホイールナットが緩んでタイヤが外れるという重大事故を引き起こす恐れが有りますので極めて危険な行為となります。パンク時には時間的な余裕が有るようでしたらJAF等を呼んで対処するのが賢明と思います。

ところで、ホイールナットを中途半端に締め付けた場合は、ナットが外れないまでも、ナットとボルトのネジ山同士が僅かながら動く余裕が有り、そこに車輪からの微振動が加わると金属疲労が起こり易くなるはずです。左のモデル図に示すように、今回の事故では、このナットの根元の部分で車軸にほぼ垂直に破断しており、破断面には金属疲労特有のシェルマークが見られるとのことですので、ナットの締め込み不足が原因で金属疲労が徐々に進展して破断に至ったものと私は推定します。他の部位の車軸ユニットを分解点検して金属疲労の兆候が見られないようでしたらこの推定が支持されるものと思われます。

事故発生後、エキスポランド側は検査で欠陥が検出される保証は無いとか、製品欠陥の可能性も否定出来ないとか、責任逃れとも思えるような発言をしておりましたが、もし、この推定が事実なら、エキスポランド側の責任は重大と言わざるを得ません。ナットは、車軸ユニットを分解しないと見えませんので、点検時に分解して確実に締め付け状態をチェックしていたならば、この事故は防ぎ得た可能性が有るだけに残念でなりません。犠牲者の若い女性のご冥福をお祈りします。


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