−日記帳(N0.1978)2007年05月19日−
防弾チョッキのアキレス腱
−日記帳(N0.1979)2007年05月20日−
交流戦までのセの戦跡を振り返る


凶弾の弾道のモデル想像図

一昨日の愛知県長久手町の立てこもり事件での、愛知県警機動隊員でSAT所属の林一歩警部(23:殉職後2階級特進)の凶弾による殉職は何とも悲しい出来事でした。ただ、私が危惧するのは、防弾チョッキを着用していながら死に至った経緯について詳細にして精確な報道が行なわれないまま、明らかに事実と異なる意見などが取上げらているため一般市民に誤解を招く恐れが有ることです。

例えば、大林容疑者によって発射されたピストルの弾丸が林警部の防弾チョッキの隙間から左胸に入ったことから、大林容疑者の射撃の腕を評価する声を訂正することなくそのまま紹介した報道が有りましたが、明らかに事実と異なるので訂正すべきでした。この場合、大林容疑者は林警部補を特定して射撃したのではなく、機動隊の陣列めがけて撃ったのがたまたま林警部に命中したに過ぎなかったからです。

また現地からの報道で、ある記者が、弾丸が上側から防弾チョッキの盲点の隙間に着弾したため防弾チョッキが役立たなかったとも取れる説明をしておりましたが、これも正確な報道ではないと思います。
確かに防弾チョッキの盲点とも言うべき繋ぎ目から弾丸が入っておりますが、弾丸は上からストレートに繋ぎ目に入ったのではなく着用していた保護マフラーもしくは防弾ヘルメットに着弾した後に跳ね返って角度を変え防弾チョッキ繋ぎ目に入ったことが後の県警捜査本部の調べで判明しているからです。

防弾チョッキの盲点を云々することが今後の同類の犯罪行為を有利にするとの配慮が有るとすれば、それは間違いと思います。防弾チョッキは、日本では警察、自衛隊、セキュリティー関係での使用が殆んどで、会社、学校、家庭等では購入されることすら稀れですが、米国等の銃社会では一般市民にも広く浸透していることから一般市民も有事に備えて防弾チョッキの知識を持ち合わせているようです。従って、我々も防弾チョッキについて今回の事件を契機に正しい知識を持つことが必要と考えるからに他なりません。。

そのような観点から今回の事件で、防弾チョッキが役立たなかったのは、防弾チョッキが不良品でもなければ、林警部が誤った着用をしていたわけでもなく、全く不運にして偶発的な出来事によることを、私なりに推測し、通常であれば今回のような事態にも防弾チョッキは充分役立つことを敢えて言及しておきたいと思います。

通常の防弾チョッキは、防弾盾のように着弾した弾丸を跳ね返すのではなく、超高強度繊維で作られた布地にめり込ませながら衝突エネルギーを減衰させて貫通させない仕組みになっております。その超高強度繊維が1970年に米国・デュポン社で開発された「ケプラー繊維」です。この繊維を構成する高分子は芳香環(ベンゼン環)とNHCOのアミド基が連鎖した剛直なモノマーの重合体で学術名をポリアラミドと言い、芳香環が脂肪鎖のポリアミド(商品名:ナイロン)の親戚筋に当たります。

この繊維は防弾用の他に、手術時の縫合糸、釣り糸等にも使われますが、明石大橋建設時に、この吊り橋を支える鉄製ロープをケプラー繊維製のロープでヘリコプターで吊るして運搬したことから一躍有名になりました。比重が鉄の1/5程度ですので同じ太さでは鉄のほぼ5倍ぐらいの強度になることから、ヘリコプターの負担を少なくしてその分より多くの鉄製ロープを運搬できるメリットが生かされたのでした。

防弾チョッキの表層の繊維は弾丸の衝突エネルギーに耐えられず切断されてもそれ以降の繊維は伸びても切断されることなく原形を保って防弾の役割を果します。この場合、棒で胸を突かれたようなものですから着弾時に強い衝撃を感ずるとともに着弾点の肌面には痣などの衝撃痕が残ると言われておりますが、口径大のマグナム弾やトカレフのような高初速度のピストルなどを除け貫通されることはなく、今回も38口径弾であったことから防弾効果は充分に有ったと考えられます。

この画像は、5月19日付けの中日新聞に掲載された、凶弾に倒れる1分前の林警部の貴重な写真です。フルフェースの防弾マスクと防弾チョッキを着用しサブマシンガンを構えている林警部の姿勢は全く問題無いはずです。玄関から大林容疑者のピストルから発射された弾丸は、上のモデル図のようにほぼ水平に近い軌道をとるはずで、ほぼ上側に向いている防弾効果の無い繋ぎ目に直接着弾することは物理的に考えられません。

新聞報道では、保護マフラー(註:防弾マフラーとの報道も有りますが、私の調査では防炎マフラーは確認できましたが、防弾マフラーの存在は確認できませんでした)に着弾した弾丸が跳ね返って角度を変えて繋ぎ目から体内に入ったとしております。仮に防弾マフラーだったとしても、弾丸を跳ね返すほどの剛性が有るとは考えられませんので、金属やポリカーボネートのような剛性の高い防弾ヘルメットに着弾した可能性が考えられます。いずれにしても、弾丸が間接的に繋ぎ目に入ったことは事実と考えられます。

今回のような事故が起こる確率は、着弾してある角度で跳ね返える確率とその角度が防弾効果の無い繋ぎ目に向く角度と一致する確率の積算になりますから、極めて小さく何百、何千分、何万分の一のオーダーと推定されます。本当に、本来なら考えられないような偶然による悲しい事故でした。トロイ戦争の際にトロイの王子パリスから、全身に鎧などの護身具を纏ったギリシャの将軍、アキレスに向けて放たれた弓矢が唯一無防備だった足の腱に刺さり、それが基で戦死したとのギリシャ神話の故事から「アキレス腱」という言葉が生まれましたが、まさに繋ぎ目は防弾チョッキのアキレス腱でした。今後は、繋ぎ目部分の防弾対策等の対策も必要と思われます。故林警部の冥福を心からお祈りします。


順位 球団 試合 勝利 敗戦 引分 勝率 G差
巨人 45 27 18 0 .600 -
中日 44 25 18 1 .581 1.0
広島 42 21 21 0 .500 3.5
横浜 41 20 21 0 .488 0.5
阪神 42 19 22 1 .463 1.0
ヤクルト 40 14 26 0 .350 4.5


今日で交流戦までの全日程が終了しましたので、今日はセ・リーグについて戦跡を振り返ってみたいと思います。各チームの成績を上表に掲げてみました。戦前の予想と大きく外れているのは次の3点と考えます。

・阪  神の不振:
・横  浜の躍進:
・ヤクルトの不振:
・広  島の好調:

中日を軸にして中日、阪神、巨人のAクラスを予想していただけに阪神の不振は全くの予想外でした。その原因は、安藤の欠場と福原、下柳の不調で先発陣が揃わないことに尽きるようです。逆に巨人は、上原、パウエルを欠きながらも、高橋、内海、金刃の左腕TUKトリオの好調、高橋と移籍組の谷、小笠原の活躍で番首位で折り返し、中日も川上、山本が不調ながら、福留、ウッズ、森野のクリーンアップがこれを補って巨人に1ゲーム差で2位につける展開となりました。

横浜は、多村とのトレードで得た寺原の活躍に加え、土肥の成長で弱体だった投手陣が整備され、4月末に中日を3タテして一時は首位に立つほどに好調を維持しましたが、流石にエース三浦の不振、那須野の裏金問題発覚等から昨日まで7連敗して一気に広島と入れ代わって4位に後退してしまいました。しかし、移籍の工藤、エース三浦の復調如何では再びAクラス入りも夢ではないと思います。

ヤクルトは、主砲岩村のMLB移籍により戦力低下が心配されましたが、これまでも石井(一)や高津のMLB移籍が有ってもそれなりに戦力を整備してきたチームだけに、今季もAクラス入りも充分有り得るとみていました。しかし、守護神の石井(弘)、セットアッパーの五十嵐、昨年9章のゴンザレスの故障離脱によって投手陣がガタガタになり、特に対阪神6連敗、対中日3連敗等が響き、現在最下位に低迷しております。ここは、前述の3人の投手が戻れば侮れない存在になることは間違いないと考えられます。

広島は、主力に離脱者を出さずにスタートしましたが、4月末までは四つの借金を抱えて今年もBクラス定着と思われたのですが、5月に入って二度の4連勝を重ねて一気に借金をゼロにして5割に戻すとともに、横浜を抜いてAクラス入りしました。黒田に加え、大竹の急成長、守護神永川健在により弱体だった投手陣が整備された上、前田、栗原、新井の強力打線がその威力を発揮しだしたのが好調の原因です。しかし、現在が120%実力を出し切った状態と考えられますので、阪神、ヤクルト、横浜の巻き返しに耐えられるか否かは微妙なところです。


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