−日記帳(N0.2002)2007年06月14日−
日本海を渡ってきた脱北者(4)
−日記帳(N0.2003)2007年06月15日−
日本海を渡ってきた脱北者(5)


脱北者4人が出国した北朝鮮・清津港の風景

北朝鮮からの脱北者4人について、6月2、3日4日の日記で取上げましたが、私にはどうしても理解できないことが有りますので、今日はこの点について述べてみたいと思います。その疑問点は次の3点です。

1.船の私有が禁じられているのにどうして調達できたのか。
2.給料の16年分もの軽油をどのようにして調達できたのか。
3.一介の北朝鮮人が片言ながらどうして日本語を話せたか。

北朝鮮では基本的には個人で船を所有することは禁じられていると言われております。それが事実なら、次男がこの船をタコ漁のために購入したとの説明は不可解です。ましてや、「生活が苦しく、1日おきにパンを食べるのがやっとだった」と述懐するほどに貧乏だった彼等が例え、ボロ船と言えども船一隻を購入するのは大変なことと思われるだけに尚更です。

積まれていた軽油は200リットルで、その値段は給料16年分とのことです。これを基に彼らの月収を計算すると60円になってしまいますので、単位が一桁以上違うと思いますが、それにしても高額です。貧乏な彼等にとってこれを購入するのは至難と考えざるを得ません。また、旧式のエンジンも北朝鮮では高価ですし、ましてや船の購入で手持ちの資金は底をついていたはずですので尚更のことです。

以上の2点の疑問から、このニュースを知った時、私は母船で日本領海寸前まで運ばれた偽装工作船と思いました。しかし、その後の情報からその疑いは晴れましたが、偽装難民の疑いは依然として晴れません。つまり、難民のふりをして日本、韓国などに出て情報を収集することは充分有り得ると思われ、現に麻生外相も5日午前の閣議後の会見で「武装難民でなかったことははっきりしているが、偽装難民でないという保証はない。きちんと捜査当局が調べた上での話で、今の段階でいつかは分からない」と述べております。

3.についてはいまだに疑問として残っております。北朝鮮政府は「日本が野蛮で下劣な民族である」として国民を洗脳している建前から日本の実態を国民に知らせるようなことはしないはずです。従って、日本語や新潟などの地理を教えることは考えられないからです。そのように考えていくと、彼らはごくありふれた北朝鮮人ではなく、1.と2.が出来ることも考慮して、かなりの教育、経済的にハイレベルの人たちではないかと思われます。もし、そうでないなら、1.と2.の調達は購入ではなくて窃盗など非合法的な手段によるものとしか考えられません。

また、彼らが出発した清津は北朝鮮第3の都市(人口が約70万人)で、軍港であり現在でも何隻かの工作船が係留されていることは米国の偵察衛星で確認されており、横田めぐみさんを拉致した工作船もここを拠点としておりました。従って、当然ここは警備が厳しくここから国外に脱出することはかなりの危険を伴うものと思われるだけに、偽装難民の疑いが残るわけです。

ただ、母船の援護無しにあのボロ船で日本海を横断することは極めて危険な行為ですので、偽装難民ではないのではとの思いも有ります。北朝鮮本国や朝鮮総連が、この件をあたかも無視しているかのように全く報道していないのは、これを報道すると、容易に脱北者の出国を見逃すほどに北朝鮮の沿岸警備体制が甘いこと、日本海横断の脱北ルートが有り得ることを内外にPRすることになって北朝鮮側として国益に反するとの思いが有ったのではないかと思われます。

もし、この件が世界的に注目を浴びて報道せざるを得なくなった時には、「日本が漂流していた我が同胞を拉致・連行した」として逆に反日キャンペーンに利用するのではないかと思います。その意味でも、この4人は早く彼等が希望する韓国側に引き渡してしまった方が日本としては得策のように思います。


当日出動した青森海保所属巡視船「おいらせ:335トン」

今回の日本海横断による北朝鮮からの脱北事件は、我が国の沿岸警備の問題点を浮き彫りにした点で反省材料を残してくれたと思うのですが、マスコミはあまりこのことを取上げていませんし、野党側も追求しておりません。6月2日の日記で、私が太平洋岸の三河湾でボートで釣りをしている折にわずか数時間の間に二度も海上保安庁(以下、海保と略)の巡視艇の臨検を受けたのに、日本海側の敦賀湾や富山湾などで釣りをしている釣り仲間が一度も臨検を受けたことが無いことから海上保安庁の日本海での沿岸警備に不安の念を抱いていることを強調しましたが、改めてこの問題点を取上げてみたいと思います。問題点は次の2点です。

1.海保による挙動不審の小型船舶の監視と臨検:
2.民間による挙動不審の小型船舶の警察への通報:

今回、脱北者たちが接岸した青森県の沿岸は、釜石に本部を置く海保第二管区の青森海保部が担当しております。今回の事件について、同部のある幹部は「パトロールを行っている海域に入った後、ある程度の時間はあったはずなのに、捕捉できなかったことはショックだ」と述べておりますが、ショックなのは国民の我々の方です。かって、日本海沿岸で数々の拉致事件が発生しましたが、当時の警察、海保は日本海沿岸に接岸してくる工作船に対して全く手がでず、なすがままでした。あれから数十年経過した現在でも、今回の脱北に使われたような小船を偽装した工作船なら堂々と接岸・上陸できることが立証されたことが国民にとって大変なショックなのです。

海保は、99年の能登半島沖不審船事件をきっかけに、速力・航続距離を大幅に伸ばした高速特殊警備船を導入して11隻が就役し、日本海を中心に哨戒活動を続けております。また新潟県や福井県の原子力発電所のある沿岸にはにはテロ対策として巡視船を常駐させております。通常、巡視船は、半径約45〜90キロの範囲を映すレーダーを使って不審船を哨戒しておりますが、船の高さが低い船や小型木造船はレーダーに映り難いため、今回の長さ約7.3m、高さ約4mの小型木造船だったため、捕捉できなかったと釈明しております。

しかし、こんな釈明はナンセンスです。今や、偵察衛星から人間1人1人の姿まで追尾出来る時代です。現にイラク戦争で米軍はフセイン大統領の所在を偵察衛星で監視し最終的にはそれが奏効して身柄拘束に成功しております。」また、今回、脱北者たちが出発した北朝鮮の清津港内に停泊中の工作船を偵察衛星で監視しております。レーダーの精度を上げることも結構ですが、領海線に沿って小型船舶の越境を偵察衛星を使って監視出来ないものでしょうか。テレビ、映画で「海猿」が公開されて、人命救助に関しては海保はよくやっているとの印象を得ましたが、沿岸警備に関しては、海上保安庁は社会保険庁と同じように怠慢の謗りは免れないと思います。 地元の漁業関係者、釣り人、住民たちは、あんな小さな船でいとも簡単に日本海を横断し同町の沿岸までたどり着いたことに動揺し、海保に監視強化を求める声が相次いでおります。「あの程度の小さな船で誰にも気付かれずに、日本の沿岸まで来るとは。もし北朝鮮の工作員が乗っていて、拉致事件に発展していたなら…」。深浦町の三十代の公務員男性は最悪の事態を想定し、神経をとがらせており、同町では過去に三回、北朝鮮工作員が逮捕された密出入国事件があっただけに一層の手だてを講じてほしい」と訴えております。

五十代の女性は「小さな船でも日本に簡単に来られることが北朝鮮に知れ渡ると、今後はもっと脱北者が来る可能性があるのでは、今回は朝だったから見つかったものの、夜中ならば分からなかったのでは」と表情を曇らせておりました。今回の事件は、所轄の鯵ケ沢署管内の関係者にも大きな衝撃を与えており、同署幹部は「予期していなかった」とし、署員の一人も「二十−三十年前まではこういった話はあったけど、まさかまた起こるとは」と驚く始末です。管内には鯵ケ沢署、漁協、自治体などで構成する鯵ケ沢・深浦地区沿岸防犯協力会があり、週一回ペースで沿岸付近をパトロールしておりましたが、たまたま当日の夜は行っていなかったとのことでした。

私にとっては、2.が大変ショックでした。この日、脱北者たちが乗っていた不審船は警察に通報した釣り人Aさん(57)以外に、漁船、有漁船などの関係者にも目撃されており、その挙動が不審であることに気付いていたこともその後のマスコミの取材で判っております。しかし、警察に通報したのはAさん(57)ただ1人でした。正しくは実際に電話したAさん(57)と仲間の釣り人2人の計3名でした。Aさん(57)たちは、彼等が日本人でないことを確認したことから、必然的にあとは工作船、脱北目的の密航船、密輸船等が考えられることから、国防上の非常事態と判断されたようでした。

私は、同じ釣り人としてAさん(57)の取られた行動に敬意を表したいと思います。もし、彼の通報が無かったら、脱北者たちは上陸していた可能性は充分考えられます。その場合、彼等日本国内に潜伏し犯罪事件を巻き起こしたかも知れません。そうなると、彼らは犯罪者となってしまい容易には日本から出国できなくなる恐れも有ります。そして、日本の沿岸警備の甘さが海外にニュースとして伝わり、日本としても恥の上塗りになるところでした。海の上で仕事をしたりレジャーを興じている人たちはこのような不審船を発見した場合は何はさておいて118番に通報して頂きたいものです。彼らは、海の最先端にいる民間の海の監視人でもあるわけです。

 


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