−日記帳(N0.2004)2007年06月16日−
消えた年金記録に思うこと(1)
(本当に消えた年金)
−日記帳(N0.2005)2007年06月17日−
消えた年金記録に思うこと(2)
(年金記録の名寄せ)


破綻して津南町に買い取られたグリーンピア津南

「消えた年金記録」が大きな社会問題となり、来る参院選にも影響を与えることから最大の政治問題にもなって国会、党首会談等でも取上げられ、否が応でも関心を持たざるを得なくなっております。
しかし、多くの国民は私も含めてこの問題をあまり理解していないのではないかと思います。その知識が軽薄なために、野党議員やマスコミの言葉に踊らされた揚句、洗脳されて、場合によってはとんでもない誤解をしておられる方も居られるのではないでしょうか。そこで、当日記では、消えた年金記録を私自身の勉強を目的として取上げていくことにしました。今日は「本当に消えた年金」の巻です。

例えば、予算委員会などで野党議員が「消えた年金」という言葉を引用するので、社会保険庁の人たちが勝手に年金を流用したために積み立てられていた年金の一部が消えてしまったと解釈した友人がそのいい例です。確かに積み立てられた年金が勝手な流用されたという点では同じですが、ここで問題にしている「消えた年金記録」では、お金が消えて無くなってしまったわけではありません。あくまでも年金の受給記録が消えた、というよりも行方不明になっているという意味です。

では、年金が消えていないのかと言われたら、そうではありません。
消えているのです。それは年金資金運用基金で全国の13ヵ所に無計画に建設されて悉く経営破綻したグリーンピア事業と、野放図に年金の被保険者に貸し付けて不良債権化して破綻した年金住宅融資事業の失敗による損害金合計4.4兆円は、積み立てられた年金から本当に消えてしまい、国民にツケとして回されているからです。実に有権者1人当たり4.5万円もの負担になっております。

グリーンピア事業は、旧厚生省の事業として1980年代に全国13カ所に建設した年金保養施設ですが、上の写真のグリーンピア津南のように冬は豪雪で陸の孤島となってしまうような利便性の悪さなど利用者の意向を無視して13ヵ所中8ヵ所を歴代厚生大臣の出身地にしたり、格好の厚生官僚の天下り先にしたことなどの原因で赤字続きななったことから政府は2001年12月、施設廃止を閣議決定し、05年12月にグリーンピア三木の兵庫県三木市への売却を最後に処分が完了しました。建設に要した総額3,730億円に対し、地方自治体への売却総額は僅か48億円でその差額3,682億円の年金が消えてしまったのです。

年金住宅融資は年金被保険者への住宅ローンとして1973年から始まり、403万件、25.8兆円の融資を行なったものの回収が思うようにいかず、これも2001年の閣議で2005年度末での廃止が決定しました。そして、グリーンピア事業と併せて債務として残っている6.3兆円を17年度中に一括返済することが新法によって決まり、自己資金で返済する1.9兆円を差し引いた上述の4.4兆円が国民にツケ回しされたわけです。

この「本当に消えた年金」は、例えば、証券会社に預けておいた株を証券会社が勝手に運用して差損が生じたとしてその差損を私に負担させるのと同じで詐欺行為です。民間なら刑事事件として処罰されますが、彼らを処罰する法律は有りませんから被害者の国民は泣き寝入りするしかありません。そしてその詐欺を行なった官僚たちは、裁かれることもなく、謝罪することもなく、天下りして得た巨額の退職金を返納することもなく、涼しい顔をして悠々自適の生活を送っております。

私は、「消えた年金記録」も当事者にとっては大変なことですが、一般の国民としては「本当に消えた年金」の方が腹立たしいと思います。中川自民党幹事長は、「消えた年金記録」に関与した歴代の厚生大臣の責任を今後追及するとしておりますが、「本当に消えた年金」の方こそ、厚生大臣だけでなく次官以下の天下り官僚の責任を追及して欲しいものです。野党も、マスコミも「消えた年金記録」を「本当に消えた年金」と混同させるような紛らわしい表現をしないで、その両方を徹底的に追求すべきだと思います。


満20才になると誰にでも交付される年金手帳

最近、「名寄せ」という聞き慣れない言葉がよく国会中継とか新聞の社会面などで見聞きします。この言葉の意味が判らないと、現在問題になっている「「消えた年金記録」を正しく理解することが出来ませんので、今日はこれを取上げて勉強してみたいと思います。実は、この言葉は何年か前に大手銀行が膨大な不良債権を抱えて破綻の危機に陥った時に預金者の資産保護のために政府が行なった「ペイオフ」の際にもよく使われていたことを思い出しました。

ペイオフは「1金融機関につき1人当たり元本1,000万円とその利子まで」保証されることから、例えば4人家族の場合、家族全員が個人口座を持てば保証額が4倍になることから、一気に口座数が増えて銀行が困惑したことが有りました。ところが、同じ銀行でも異なる支店に口座を開設すればその口座の数だけ保証額が増えると勝手に解釈した人たちが普段使ってない支店にも口座開設をしたため銀行は更に困惑しました。勿論、そんなことをしても、1金融機関について保証されるのですからいくら口座数を増やしても保証額は元本1,000万円とその利子までですのでそのよな行為は無意味でした。

口座開設数が増えることは、銀行側にとって手間こそ掛かかるものの業務上特に問題無いのですが、1個人の異なる支店に跨る複数の口座の預金額を合算するのは大変な作業です。コンピューターが実用化されている現在でも容易ではありませんが、これを救ったのがオンラインによる「名寄せ」でした。預金者は口座開設する際に本人であることを証明する必要が有り、氏名、住所、生年月日、電話番号等の情報が記帳・入力されますから、銀行側はこれらの個人情報を基にしてこの個人を特定化して全口座の預金額をオンラインで合算しました。この際の個人を特定化することを「名寄せ」その合算システムが「名寄せシステム」です。

1997年以前の年金番号は、厚生、国民、共済等の制度ごとに付けられていたため、転職等で厚生年金から国民年金に変わったり(あるいはその逆)、転職したりするとその都度、年金番号が変わってしまいました。その結果、1997年の時点で年金番号の総数は年金受給者数の約15倍に相当する3億件になってしまいました。それでは収拾がつかないとして、この年より基礎年金番号に統合されました。そこで、3億件の年金番号を個人情報から手繰り寄せて基礎年金番号に特定化していく作業が社会保険庁によって始められました。まさにこの作業は、上述のペイオフでの複数の口座を持つ預金者の預金を合算する「名寄せ」と全く同じでした。

そこで、社会保険庁はNTTデータの「基礎年金番号管理システム」等により、名寄せを開始し、3億件のうち1億件は直ぐに照合が完了し新たに基礎年金番号が付けられましたが、2億件は簡単には照合出来ず、結局1997年から2006年までの10年を費やして漸く1.5億件が終了しましたが、残りの約5,000件は容易には照合出来ないままになっていることが明らかになり、「消えた年金記録」として問題になっているという訳です。従って、消えたわけでもなく、また全てが宙に浮いているというえわけでもありません。

ただ、照合対象の「氏名:「生年月日」「会社名」「住所」等の個人情報に誤りや入力ミスが有る可能性が有るため、それを従来のシステムを使って逐一個別に調査して修正をかけていくと、数十年、数百年を要し当該受給者が死亡してしまい無意味になってしまうとして大きな問題となりました。そこで、安倍首相はこ安倍内閣の命運をかけて、約5,000件の名寄せを1年間で行なうことを国民に公約したのですが、その実現を疑問視する専門家の意見が相次いでおり前途多難の様相を呈しております。次回は、何故、残り5,000件の名寄せが難しいかを考えてみたいと思います。


前 頁 へ 目 次 へ 次 頁 へ
inserted by FC2 system