−日記帳(N0.2036)2007年07月23日−
気宇壮大な講演に感動して(2)
(見えない分子雲からの電波を捉える電波望遠鏡)
−日記帳(N0.2037)2007年07月24日−
気宇壮大な講演に感動して(3)


チリの4800mの高地に移設された電波望遠鏡「なんてん2」
(この施設は、東海地区財界等からの資金援助等によって完成)

最初の宇宙は、全宇宙が詰まっていた粒だったと福井教授が昨日の講演会で話されて驚いたのですが、その宇宙を形作っている物質の最初が水素だったと言うのもまた驚きです。夜空に輝く星たちは、水素原子等の核融合によってそのエネルギーを得ており、その結果、水素→ヘリウム→酸素→鉄というように次第に重い元素が作られて星の中心部に集まっていきます。すると、密度の高くなった中心部は重力も強くなり、ついには自身の重力によって星は内部から崩壊し、超新星爆発と呼ばれる大爆発を起こしてこの星は死に絶えます。

太陽系はこの超新星爆発によって作られておりますので、地球も元をただせば、この死に絶えた星の残骸だったとも言えます。従って、地殻を形作っている珪素もアルミニウムも鉄等も、また我々の体を形作っている水素も炭素も窒素等も、この死に絶えた星が約46億年も前に核融合の過程で作ったものであることを考えると、これまた気宇壮大な気持ちになります。同時に、宇宙を形作っている物質の最初が水素だったと言うのも頷ける思いがします。

従って、星の誕生には、核融合の出発原料の水素や、その結果できた比較的軽い炭素、窒素などの元素が関与しますので、広大な宇宙空間の中でこのような元素が存在しているところを探しだすことで、星のたまごを見つけることが出来るはずです。そして、その後の研究によりこうした元素が原子の状態ではなく原子と原子が結合してできる分子の形で宇宙空間に分子雲として存在することが判りました。例えば夜空に点々と輝く天の川の星と星の間は真っ暗で星などの天体が存在しないように思えますが、福井教授によれば見えないだけで実際にはそこに物質が存在していると言うのです。

そのような分子雲と共存している塵が後方にある星の光を吸収してしまうために真っ暗になるのだそうです。そして、その星と星の間の物質、つまり星間物質こそが宇宙の起源を探る手掛かりになり得ること、その物質こそが上述の分子雲であると福井教授は語られました。このような分子雲の分子から電波が出ていることはベル研究所の28歳のカール・ジャンスキーによって1932年に発見されておりますので、この電波を捉えれば、上述の星のたまごを発見することが出来るとのことでした。

私も、一応化学を専攻しましたが、分子から電波が発射されることは知りませんでした。分子は正電荷と負電荷が釣り合って中性ですが、電場にさらされると正電荷は電場の陽極、負電荷は電場の陰極に引き寄せられて回転し、ある周波数の電波を受けると分子の回転の速さと電波の周波数が一致して共振して分子の回転が加速され、一定時間後に元の速さの回転状態に戻る時にそれぞれの状態のエネルギー差(量子化)が電波として放射され遥か彼方の地球にまで届くとの福井教授の説明は難解でしたが一応理解できました。この電波は極めて微弱なためより大きな回転放物面のアンテナ(パラボラアンテナ)で集めて受信して電流に変換して増幅して得られるデータを解析して画像化する電波望遠鏡が必要になり、開発・建設が各国で競われるように行われるようになりました。

このような微弱な電波を受信するには、晴天日数が多く、空気が出来るだけ薄く乾いていることが必要で、これらの条件を満たすのは南米チリの高地が最適であることから、福井教授等は1996年までは名大構内にあった電波望遠鏡を、チリのラスカンパナス高原(標高2400m)に移設し、更に2004年にリニューアルして標高4800mのアタカマ高原に移設しました。上の画像はその電波望遠鏡の「なんてん2」です。これを使って、これまでに、数々の世界的な発見をされており、その業績が認められて今週の紫綬褒章を受章されたのでした。特に、恒星が生まれる直前のガス塊「分子雲コア」、銀河系中心部に存在する分子雲の巨大な「ループ」はいずれも世界ではじめての発見で、また天の川(銀河系)の電波地図を完成し、銀河系で未発見のブラックホールを発見するなど、このところの観測実績は目覚しいものがあります。

「なんてん2」は口径4mですから、日本最大の野辺山電波天文台の45m、世界最大のプエルトリコにあるアレシボ天文台の305mに較べれば小さいほうの部類に属します。 それなのに、これらの大型電波望遠鏡にひけをとらない観測実績を挙げているのは、微弱な電波をより有効に捉えるために、受信機の導電部を超伝導にして、雑音のもととなる電気抵抗を殆どゼロにする必要が有ります。そこで、「なんてん2」には絶対温度に近い零下269度に冷やされた自作の超伝導受信機が装備されており、これと優れた環境、そして福井教授の研究室の院生たちの努力が、こうした優れた観測実績を支えていると言えます。


チリ・アタカマ高原で撮影した天の川
(原画は福井教授著「大宇宙の誕生P-132」より)

夜空に輝いている星は自ら光を放っている恒星です。 太陽もそのような恒星のひとつに過ぎないのですが距離が近いためにあのように光り輝いております。 太陽と地球の距離は約1億5千万kmでこれを1天文単位(AU)と呼びます。しかし、広大な宇宙からすれば、 1天文単位など点でしかありませんから、1秒間に30万kmの速さで進む光が1年かかって到達する距離を 1光年(h)としております。
(30万km/秒)×(60秒/分)×(60分/時間)×(24時間/日)×(365日/年)≒9.5兆km すると、1AU=0.000016h これは、地球から太陽に光速ロケットで僅か500秒で着くことを意味しております。

天の川銀河の直径は約10万光年で、我々が住む太陽系は 中心から離れたところにありりますが、何しろ太陽のような恒星が銀河には1,000億個単位でありますから、 仮にお隣のアンドロメダ銀河から天の川銀河を望遠鏡で観ても識別困難な小さな点でしかないないと思われます。福井教授は講演の中でも、何回かチリ・アタカマ高原で観る天の川の素晴らしさを強調されておりました。私がニュージーランドで天の川の中に南十字星を観たと話したら大きく頷いておられました。南十字星の近くにはこのモデル図のように南十字星より明るい星が多い上、ニセ 南十字星まであるのでその識別が案外難しかったことを覚えております。

ところで、数が多いことを「星の数ほど」と言う言葉で表しますが、それでは一体、宇宙全体で輝いている恒星はどのくらい有るのでしょうか。これは、あくまでも推測ですが、上述のように銀河には1,000億個単位の星があり、その銀河の1,000億個単位でありますので、少なくとも 1,000億×2,000億=200,000,000,000,000=200垓個 見当もつかない凄い数になります。そして、これらの星はいずれ死に絶えますがその大きさによって死に方が異なってきます。太陽は恒星としては小さい部類に属しますので太陽を基準にして死に方を分類してみます。

恒星は通常、中心部の水素の核融合反応で輝いておりますが、歳をとって水素が減って核融合反応が鈍りだすとこの星に死が訪れます。太陽の約3倍以下の質量の小さい恒星は、中心部の水素を使い果たすと核融合でできたヘリウムからなる中心核と、それを取り巻く水素の外層という構造に変わり、核融合反応は主に水素の外層で起こり、中心核では殆ど起らないため中心核は自己の重力で収縮し、この時に重力エネルギーの解放で熱が発生するため、核融合が起こっている外層部分は加熱されることで核融合反応が加速され、その熱によって外層は外へと膨張しようとし、重力による収縮を上回って星の外層は大きく膨らみ、星の表面温度は相対的に低下するため色は赤く見える「赤色巨星」と呼ばれる状態になります。

水素でできた外層は膨張の果てに、惑星状星雲の形を取って宇宙空間に放出され、残った中心核が白色矮星となります。余熱と重力による圧力のために光と熱を発しておりますが、もはやエネルギー源が無いため、数十億年かけて次第に低温の星になり、最後は黒色矮星となって電磁波による観測ができなくなるとされており、太陽もあと約50億年もすればこのような終焉を迎えるだろうと言われております。こと座の環状星雲がこの白色矮星の代表例です。中心が青く外側がピンクに妖しく光るのこの星は、天の川銀河にあり、地球から約 1600 光年の距離にあります。

次に、太陽の約3倍以上、8倍以下の質量の星では、重力の収縮圧によって温度が上がるためヘリウムの核融合反応が始まり、そのヘリウムの燃えかすの炭素が中心にたまっていきます。そのため更に重力が大きくなって収縮するため温度が更に上がり、8億度Cになると炭素の核融合反応が起こり暴走して一気に進行するため、超新星爆発起こして星の成分は四散して死に絶えます。

太陽の8倍以上の質量の星の場合は、そこでの爆発は起こらずに核融合反応が続けられるます。その結果、ネオン、マグネシウム、珪素、硫黄といった元素の“たまねぎ構造”を内部に作りながら、鉄のコアを生成するまで進み、中心部の密度が高くなる結果、重力も強くなりついには自身の重力によって星は内部から崩壊し、やはり超新星爆発と呼ばれる大爆発を起こして星の成分は四散して死に絶えます。この時の明るさは太陽の数億倍から、ときには1,000億倍にもなります。そのため、夜空に新しく明るい星が突然生まれたように見えます。超新星爆発を起こす星のなかでも質量の大きいものは、爆発のあとに中性子星(パルサー)やブラックホールを残すものもあります。また、飛び散ったガスやちりは、新たな星を生み出すための材料となります。

太陽の8倍以上の質量の星になると、中心の炭素が鉄が出来るまで燃え続けた後、鉄の芯は重力収縮を続け、やがて、原子も原子核も崩壊して中性子の芯となり、超新星爆発を起こした後には「中性子星」が残留する形となります。更に太陽の30倍以上にもなると、その重力が強すぎるために中性子の芯となった後も永久に収縮を続け、いずれはブラックホールになるだろうといわれています。超新星とは、星の生涯の最後を壮烈な爆発によって終えた星のことで、主にそれは星自身の質量による重力崩壊が原因となっています。

星は死に絶えるとガスを放出して再び星間空間に戻り、このガスが凝集して次の世代の星の材料になるという循環を繰り返すわけですが、星になった物質の全てが循環するわけではなく、燃えかすとしてガスにならずに残ってしまう部分が有るとし、それが、ブラックホール、中性子星、白色矮星の3種類であると福井教授は判り易く話されました。今日は、福井教授の講演内容を中心に私なりに学習して「星の死」として取り上げてみました。誤解している箇所が有りましたらご容赦頂きたいと思います。興味深々のブラックホールについては後日、取り上げてみたいと思います。


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