ロシアのグルジア侵攻について(7)
(ロシアが南オセチアとアブハジアの独立を承認)
ロシアのグルジア侵攻について(8)
(グルジア侵攻に潜むロシアの真の狙い)


グルジア内で独立を要求している三つの地域

ロシアのメドベージェフ大統領は一昨日の26日、グルジア共和国にある南オセチア自治州とアブハジア自治共和国の独立を認める大統領令に署名し、「南オセチアとアブハジアの国民の自由な願いを考慮し、国連憲章の関連規定や1970年の関連会議での関係国の友好関係に関する国際法の原則、1975年に署名したヘルシンキ文書、およびその他の関係国際文書の精神に基づき、ロシア連邦は南オセチアとアブハジアの独立を認める命令に調印した」との声明を発表しました。

このニュースが、米、英、独、仏、伊などの西側諸国の反発を呼び、米・ライス国務長官は「アブハジアと南オセチアは今後もグルジアの一部だと考えている。現状を変えようとするロシアの画策を阻止するため、安保理で拒否権を行使する用意がある」、ドイツのメルケル首相は「ロシアの決定は受け入れられないもので、国際法の準則に背くものだ」、英国のミリバンド外相は、「ロシアの独立承認は理由のないもので、受け入れることはできない」と夫々に声明を発表してロシアの対応を非難しております。

日本のメディアは、ロシアのグルジア侵攻から、今回の独立承認に至るまでの一連のグルジア情勢にそれほど重きを置いてないことと、この種の国際紛争に疎い日本人の国民性もあって、大方の日本人はこのニュースが冷戦の復活に繋がるほどに重大であることを理解できないように思われ、私もその一人でした。そこで、グルジア情勢を理解するには関連する歴史を紐解く必要が有ると考えて、ネットを通して理解を深め、その結果を「ロシアのグリジア侵攻について」と題して以下のとおり6回に渡ってアップして特集を組んできました。

第1回 ソ連崩壊までのグルジアの歴史
第2回 今回のロシア侵攻に到る経緯
第3回 グルジア国内で共和国を名乗る三つの地域
第4回 カスピ海バクー油田開発の歴史
第5回 カスピ5ケ国による石油争奪戦
第6回 カスピ海原油パイプラインを巡る米ソの対立

ロシアが南オセチアとアブハジアの独立を承認した今回の行動は、北京五輪開会式の日のロシアのグルジア侵攻に端を発する「グルジア封じ込め作戦」の最終章であると思われます。この作戦の次の段階がグルジアを再びCISに引き込んでカスピ海原油を取り巻く石油利権で優位に立とうとしていることは想像に難くないところです。
以上の観点から、上の6回に及ぶ情報に今日の7回目の情報を追加して、明日の日記で、「ロシアのグルジア侵攻について」と題する特集を締めたいと思います。


周囲をCIS諸国に囲まれて封じ込まれつつあるグルジア

上の画像は、現在のロシア連邦(黒色)、CIS参加国(水色)、CIS客員参加国(灰色)を示しております。CISは、「Commonwealth of Independent States」の略で、「緩やかな国家連合体」との意味から「独立国家共同体」と訳されております。ソ連邦崩壊を受け、ロシアは、バルト3国を除く旧ソ連邦12カ国(ロシア、カザフスタン、タジキスタン、ウズベクスタン、キルギス、バラルーシ、アルメニア、アゼルバイジャン、トルクメニスタン、モルドバ、ウクライナ、グルジア)が独立国の状態で、旧ソ連時代のようにロシアの支配は及ばないまでもロシアを盟主とする独立国家共同体で、南下政策とともにロシアの伝統的な国策でもあります。

1991年の発足当時は、上記12ケ国で構成されておりましたが、グルジア、ウクライナ、アゼルバイジャン、モルドバの4ケ国には脱ロシア志向が有り、CISに留まることに積極的でなく、4ケ国の頭文字をとって反ロ親米路線の「GUAM」という名の国家連合を1997年に形成しました。その時には、ウズベクスタンも加わって「GUUAM」でしたが、2005年に起きた国民の反政府運動が欧米勢力に煽動されたものとして親露へ転じて脱退し、逆にウクライナが2004年のオレンジ革命で反ロ親米路線が確認されると、「GUAM」の中心的役割を果たすべく事務局を首都キエフに置いております。

従って、GUAM4ケ国のうちアゼルバイジャンを除く3ケ国は、CISに客員参加国と、一歩引いた立場で参加していました。また、天然ガス等の資源に恵まれて経済的に豊かでロシアに頼らなくてもいいトルクメニスタンも1994年に客員参加国に移行しました。この結果、純然たるCIS参加国は、ロシア、カザフスタン、タジキスタン、ウズベクスタン、キルギス、バラルーシ、アルメニア、アゼルバイジャンの8ケ国となっております。

一方、民族的、歴史的にルーマニアと極めて近い存在のモルドバには古くから脱ロ思想が根強く、ロシアよりも日欧米からの援助が多いこともあって当初より「GUAM」に参加、またアゼルバイジャンは、バクー油田などの豊富な石油資源を持っていることからウクライナ、モルドバのようにロシアにエネルギーを依存することはありませんが、イラン系民族ということもあって脱ロ志向が強いことからやはり当初から「GUAM」に参加しており、CIS参加国の中では異色の存在になております。

そこで、問題は第四の「GUAM」参加国、グルジアです。第1回:ソ連崩壊までのグルジアの歴史第2回:今回のロシア侵攻に到る経緯、で触れましたように、グルジアには2004年1月の大統領選挙で親米路線をとるサアカシュヴィリ現大統領が圧勝することにより、脱ロから反ロ親米に傾きましたが、グルジアには建国当時から大きな国内問題を抱えておりました。それは、第3回:グルジア国内で共和国を名乗る三つの地域で触れておりますように親ロ反グルジア勢力の強い三つの地域の存在でした。

このうちアジャリア地方についてはサアカシュヴィリ現大統領の強攻策で何とか収拾できたのですが、ロシアが自国民の保護を名目に平和維持軍の名の下で駐留している南オセチア、アブハジア地方についてはその収拾に苦慮しているうちに、迂闊にも南オセチアに軍事介入する過程でロシア平和維持軍と戦闘を交えてしまい、ロシアにグルジア侵攻の口実を与えてしまいました。この結果、ロシアは 南オセチア、アブハジアの地域を越えてグルジアの首都近くまで侵攻してそのまま駐留しようとしました。

流石に、欧米諸国からの猛烈な抗議により撤退したものの、南オセチア、アブハジアには以前より増兵して踏みとどまって独立に備えて現在に至っております。この結果、グルジアはCIS参加を取りやめております。このような状況下で、ロシアのオセチア、アブハジアの独立承認が行なわれ、グルジアは窮地に立たされることになりました。

私には国際法の知識が有りませんので、その違法性の程はよく判りませんが、グルジアのように国際的に認められている国の一部を他国が勝手に独立国として承認するのは、明らかにその国の主権侵害だと思うのです。例えが悪くて恐縮ですが、例えば沖縄に中国系の人たちが集団で居住する地域が有り、彼等が中国への編入を視野に入れて独立を志向して沖縄県と対立・抗争していたと仮定します。その時に中国がこの地域の独立を承認したのと基本的に同じだと思います。

こんなことが、国際的に許されたらホスト国のなすがままに世界中には次から次へ独立国が誕生し収拾がつきません。国連はこのような事態を収拾するためにあるのに、米ロ英仏中の常任理事国5ケ国が拒否権を発動するために機能しません。結局、ロシアのような第三者の介入を排除して当事者同士で解決を図るしかありません。

ロシアの真の狙いは、南オセチア、アブハジアを独立させることではありません。究極目標はバルト3国を除いて旧ソ連邦時代のように、ロシア連邦の周囲を12ケ国のCIS参加国で固めて石油、天然ガス、鉱物資源による利権を揺ぎ無いものにうることにあります。そのために、ロシア離れしつつあるウクライナ、モルドバ、アゼルバイジャン、トルクメニスタンに対して、「ロシアに背くとグルジアのようになるぞ」と暗に脅しをかけているように思われます。

冒頭の地図で明らかなように、グルジアはトルコから続く西側のロシア連邦、CIS参加国などロシア勢力に対する最先端の位置にあります。もし、イランも含めてGUAM4ケ国がロシア側に付いたら、カスピ海は完全にロシア側に固められ、石油、ガスの利権はロシア側が支配うするようになり、カスピ海石油に投資をしている日本にとっても大きな損害に繋がりかねません。

日本は、キルギス、カザフスタンに対してもウラン鉱石、レアメタル発掘等で投資をしようとしております。このように、、CIS参加国、GUAM4ケ国との関係は日本にとっても大変重要であるだけに、一連のグルジア情勢は注目しなえればんりません。にもかかわらず、日本ではメディアであまり取り上げられず、政府もロシアの暴挙に対して欧米諸国に歩調を合わせて非難することもしておりません。これは、憂うべきことと強調して本特集を締めたいと思います。


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