−日記帳(N0.1509)2008年01月21日−
オバマ新大統領の就任式演説に思う(1)
−日記帳(N0.1510)2009年01月22日−
オバマ新大統領の就任式演説に思う(2)


国会議事堂前の演壇から聴衆に向けて演説するオバマ大統領

バラク・オバマ第44代米大統領(47)は、現地時間で20日、正午(日本時間21日午前2時)ワシントンの連邦議会議事堂前特設広場で宣誓後、国民に向けて就任演説を行ないました。その様子は全世界にリアルタイムで生中継され、日本でもNHKと民放により同時通訳入りで生中継されましたので、19分間の演説が終わるまで視聴しました。

演説で、新大統領は、選挙の時のキャッチフレーズになった「Yes, we can」などの派手な言葉こそ一切使いませんでしたが、現実の厳しさを訴え、大統領と国民を含めて「We」とし、常に主語として「We」を使うことで大統領と国民が一体となって厳しい現実を克服する図式を醸成し見事な演出でした。

その内容も具体策に欠けるとの批判も有りましたが、それは就任後の課題であり、就任演説としてはこの程度のマクロな内容で充分であり、演説のパフォーマンス、演出、内容ともに歴史に残る名演説であったと私は思います。演説内容については明後日の「オバマ新大統領の就任式演説に思う(3)」で触れるとして、今日はこの演説が行なわれた会場について触れてみたいと思います。


上は、オバマ大統領の就任演説を聞くために200万人もの人たち集まったとされる、ワシントンの中心部にるナショナルモールのグーグルアースによる画像です。ナショナルモールは、明確にはその区域は定義付けられておりませんが、広義には、上の画像の左端のハドソン川畔のリンカーン記念館から、画像右端の国会議事堂前までの東西に渡る長さ4kmと、南北に渡る幅0.5kmの、横に細長い長方形の区域の国立公園で、ワシントン観光のメッカにもなっております。

オバマ大統領は、上の画像に示す国会議事堂前の演壇から前に広がるナショナルモールを埋め尽くした200万の大聴衆に向けて演説したのですが、その演壇から手前の広場の様子を上の画像から拡大して下に掲載してみました。手前のこの広場で、事前に配られたチケット(24万枚)を入手した人の一部の人たちが特設された椅子に座って視聴したものと思われます。


その時の様子はテレビで下の画像で紹介されておりました。まさに想像を絶する情景です。聴衆の群れが3km先のワシントン記念塔の彼方まで繋がっていることはこの画像から確認できましたが、実際はその先のハドソン川河畔のリンカーン記念館まで続いていたことから、200万と算出したものと思われます。勿論、この辺りからではオバマ大統領の姿を確認することは出来ません。確認できるのは、国会議事堂前の特設広場が限界と思われます。姿を確認できない人たちは、携帯で視聴しながらその臨場感に酔いしれていたことと思います。いずれにしても、米国の歴史の中でもこれだけ多くの人が集まったことは無かったことと思います。それでは、明日の日記で、オバマ大統領が19分間に及んだ演説を原稿と一語たりとも間違えずに、演壇上の原稿を見る素振りも見せずに読み上げることができたのを検証してみたいと思います。




大統領選演説でハーフミラーで巧みにパフォーマンスしたオバマ候補

オバマ大統領の19分間に及んだ演説は、公開された原稿と一字一句違っていなかったと言われております。 如何に、ハーバード出身の秀才、オバマと言えども、このような神技が出来るわけがありません。報道関係での公表は控えられておりますが、オバマ大統領が演壇の左右に設置されたプロンプターを一瞥しながらも同時に視線を聴衆の方に向けて手振りしながら話していたことは事実です。

当初、オバマ大統領が常に、聴衆に向けて左右に目線を向け、一方の側から他方の側に目線を移動する際も、中央に目線を合わさないのが不思議で仕方ありませんでした。NHKなどのニュースを報道するアナウンサーは、机上の原稿に目をやらずに常にカメラに目線を合わせているのは、次の原理によりカメラから原稿を読み取ることが出来るからです。

カメラ一体型プロンプターの原理

ハーフミラーは入射光の一部を反射し一部を透過させる性質を持っておりますので、上図のようにカメラレンズの前に45度の角度で取り付けられると、アナウンサーの被写体像は、ハーフミラーを通過してカメラに入射する一方、ハーフミラーの直下に取り付けられたプロンプターから原稿がハーフミラーに反射してアナウンサーの目に入射します。従って、アナウンサーは机上の原稿に目を移すことなく、カメラに目をやれば、ハーフミラーに浮かび上がってくる原稿の文字を読むことが出来るわけです。この方式をカメラ一体型プロンプターと言います。

カメラ分離型プロンプターの原理

一方、講演会場や屋外で講演、演説をする場合は、演者の目線はカメラではなく、前の聴衆に向けられねばなりませんので、カメラ一体型プロンプターでは逆効果になってしまいます。そこで、上図の原理によるカメラ分離型プロンプターが10年ほど前から登場し、クリントン大統領が演説で採用したことから、日本では細川首相や日産のゴーン社長が記者会見の席上で採用したことから一般に知られるようになりました。

この方式では、原稿はパソコンか経由でハーフミラーの直下に取り付けられたプロンプター(プロジェクター)からハーフミラーに反射して演者の目に入射します。従って、オペレーターは演者の話すテンポに応じて原稿をタイミングよく送っていきます。演者は、マイペースで透明なハーフミラーに浮かび上がってくる原稿の文字を読んでいけば、下のゴーン社長のように、如何にも聴衆の方を向きながら話しているように見え、しかも聴衆からは、このハーフミラーが透明のためゴーン社長が原稿を見ずに聴衆にむかって話しているように見えるわけです。
冒頭の画像は、オバマ大統領が大統領選でこの方式を採用して演説している風景です。


オバマ大統領は、大統領選の時から、このカメラ分離型プロンプターを使いこなしており、今回の就任演説でも実に見事なパフォーマンスで聴衆を惹き付けました。もし、彼がカメラ一体型プロンプターを使っていたら、常に目線が中央のカメラに凝集されるため、聴衆に向かって顔を振ったり、手を振ったりするようなパフォーマンスをとることは出来なかったことと思われます。彼は、この演説の中で、時折、数秒間ほど無言のスタンスをととっておりました。これは、聴衆の反応を見極めると同時に、パソコンを操作して講演を送るオペレーターと歩調を合わせる目的も有ったように思われます。

今回のオバマ大統領の歴史的な就任演説の成功の裏には、以上のプロンプターの採用、オペレーターとの連携に加え、この原稿を作成した若きスピーチライターチームとのチームワークが有り、こうした裏方が頭脳明晰にして天才的な話術を駆使する主役のオバマ大統領を盛り立てたのですから、成功したのは当然の帰結であったように私には思えました。明日の日記では、Adam Frankel氏(26歳)をリーダーとする3人のスピーチライターチームがオバマ大統領と入念に打ち合わせて作成した素晴らしい原稿についてコメントをしてみたいと思います。


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