−日記帳(N0.1513)2008年01月27日−
意義の多いH2Aの打ち上げ成功(1)
−日記帳(N0.1514)2009年01月28日−
意義の多いH2Aの打ち上げ成功(2)


1月23日、種子島宇宙センターで打ち上げられた15号H2Aロケット

サブプライムローンに次ぐリーマンンブッラザースの破綻に端を発する米国発の金融危機は100年に一度の未曾有の大不況を世界中にもたらし、日本も昨秋以来その渦中に在り、昨年10月から暗いニュースが連日メディアで報道され、憂鬱な毎日を送っているのは私だけではないと思います。そんな中でも、昨秋の、南部、下村、益川、小林4氏の日本人(南部氏のみ国籍は米国)の同時ノーベル賞授賞は、暗い中に光明を見出すような明るいニュースでした。

そんな中で、5日前の1月23日、三菱重工業(MITI)と宇宙航空研究開発機構(JAXA)によるH2Aロケット15号機の成功は、日本の宇宙開発と先端科学の技術水準が国家レベルに留まらず中小企業や大学などの民間レベルにまで及んでいることを立証する、同時ノーベル賞授賞以来の明るいニュースでしたが、相変わらずの派遣切り、企業の大幅赤字決算のニュースのオンパレードに隠れて地味な扱いでした。

15号H2Aロケットの打ち上げ成功が、同時ノーベル賞授賞以来の我々を勇気づける明るいニュースであることを、私は次の事実により説明したいと思います。

1.H2Aロケットが2005年2月の7号機以来、9機連続打ち上げ成功
2.14号機より24億コストダウンに成功し過去最低の85億円を達成
3.以上が、韓国の小型衛星打ち上げにH2Aの受注決定を後押しした
4.温室効果ガス観測目的の技術衛星「いぶき」を搭載
5.「いぶき」以外に7個の小型衛星が相乗りし6個が軌道に乗り成功
6.その7個の小型衛星全て、中小企業 大学等の民間で製作された

中でも、注目されるのは、「いぶき」が地球温暖化の主因と目されている大気中の二酸化炭素とメタンの濃度を666kmの高空から同時に高精度で測定する世界最初の衛星であること、7個の小型衛星のうち、「まいど1号」は東大阪市の中小企業と大学が開発して独自に製作した衛星であることです。明日の日記では、温室効果ガス観測目的の技術衛星「いぶき」を取上げてみたいと思います。


温室効果ガスを観測する技術衛星「いぶき(JAXAのHPより)

太陽光線は地球に入射するとその一部が地表に吸収され地表を温めて熱を生じます。すると生じた熱は赤外線を放射して再び地球から宇宙に反射されます。この場合、吸収が反射より多ければ地球は暖まり、逆に少なければ冷えます。もし、地球に太陽光のような光が届かない暗黒の宇宙に在れば地球は絶対温度の零下273℃に限りなく近い冷え切った天体になってしまます。

例えば太陽系惑星で太陽から最も遠い位置にある海王星の平均温度は零下220℃の低温、最も近い水星の平均温度は167℃の高温となっているのは太陽に近いほど太陽光のエネルギーが大きいことから理解できますが、水星より太陽から離れている金星の平均温度が464℃で水星の平均温度167℃より高くなっているのは、 太陽からの距離以外の条件が介在していることを物語っております。

その条件が惑星を取り巻く大気の成分とその濃度です。その大気による赤外線の吸収が大きいほど惑星は温められることになります。大気の成分の赤外線吸収率は水蒸気が最も大きく次いで二酸化炭素、窒素、酸素の順になっております。金星の大気の殆どが二酸化炭素であるのに対して水星の大気濃度が金星より薄い上、二酸化炭素がごく微量しか含まれていないことから、金星の平均温度が太陽に近い水星より高くなるわけです。

このように、赤外線を吸収して地表を温めることを温室効果、赤外線を比較的多く吸収する大気を温室効果ガス、その結果として地表の温度が上がることを地球温暖化と言っております。ただ、温室効果=地球温暖化 と一方的に考えることについては、私は二酸化炭素温暖化説の疑問で主張しておりますように異論を唱えております。とは言え、二酸化炭素の濃度が温室効果を通して地球温暖化に大きな影響を及ぼしていることは事実ですので、全地球レベルで二酸化炭素とメタン等の温室効果ガスの濃度分布を正確に測定する「いぶき」は、この観点から意義のある衛星と言えます。

温室効果ガス等の分子状のガスは、赤外線を吸収するとその分子によって定まる固有の波長に吸収ピークを持つスペクトルが見られますので、地表から反射されてきた赤外線の吸収スペクトルを分析することで、吸収した温室効果ガスの種類と濃度を特定することができます。「いぶき」には、この赤外線の吸収スペクトル分析装置のTANSO-FTS(温室効果ガス観測センサ=TANSO : Thermal And Near infrared Sensor for carbon Observation)が搭載されており、雲やエアロゾル等の誤差要因のない条件において、測定誤差1%以内を目標にしております。

前 頁 へ 目 次 へ 次 頁 へ
inserted by FC2 system