−日記帳(N0.1553)2008年04月13日−
巨大船による引き波の恐怖
−日記帳(N0.1554)2009年04月19日−
4回目の釣りもボーズ同然


2人のボートが転覆遭難した地点と周囲の状況

私と、同じ街に住み、同じ趣味のボート釣りと、同じようにメバル釣りを好み、しかも私と同じように渥美裏浜を釣りエリアにされている2人の釣り人のボート遭難事故が今日、全国ニュースとして報道されました。愛知県半田市在住のAさん(67)、Bさん(57)の2人は、昨日の4月13日の午後4時頃、それぞれのボートで愛知県田原市小中山町の小中山漁港を出航し、同港東約1,400メートルほど先の防波堤付近で錨を下ろしてメバル釣りを始めました。

このポイントは、私の釣りエリアの渥美裏浜の一角で、渥美湾に面しており、この2人が錨泊したポイントは海底が天然漁礁になっていることから、釣りポイントとして知られ、私も何回か釣行しております。特に春先のメバル釣りに人気が有ります。 この日は、下に示すように、太平洋上に移動性高気圧があり、この海域では陸風となって風波が立たない南風が緩やかに吹き、最高気温が25度以上の夏日となっておりましたので、まさに絶好の釣り日和でした。

この日の天気図

従って、この日、この海域でボートが転覆するような風波が発生することは考えられず、2人の釣り人は安心してルンルン気分で出港して、防波堤の前で錨を下ろして釣りの準備を始めた午後4時半頃、突然大波を受けて2人のボートはいずれも一瞬のうちに転覆して2人とも海中に投げ出されてしまいました。

2人はお互いに声を掛け合って西側の陸地に向けて泳ごうとしたものと思われます。ところが、この海域は伊良湖海流の影響を受けて潮流が激しく、特にこの日は大潮の上、陸地から離れる方向の東向きの潮流(下の図の緑色の矢印の方向)が激しく流れていたため、どんどん陸地から離れていったものと思われます。転覆後1時間半過ぎの午後6時頃、Bさんの姿がAさんの視界から消えていきました。

2人はいずれも救命胴衣を着用しておりませんせんでしたので、恐らくBさんはまだ低い水温に体温を奪われ、疲労が限界に達し力尽きたものと思われます。Aさんはそれからも暗い海上を必死に泳ぎ続け、4月13日午後8時35分頃、愛知県田原市の渥美半島東約2.2キロ沖(下の図の緑色の矢印の先)の三河湾を航行中の船に発見されて救助され生還することが出来ました。

しかし、残念なことに、Bさんの情報に基づいて第4管区海上保安本部がへリコプターなどを使って捜索していたところ、捜索に参加していた地元の小中山漁協の潜水士が4月14日午前9時頃、遭難地点に近い海域の海底に沈んでいたBさんを発見しましたが、既に死亡しておりました。何故、このような天候が安定して穏かな条件下でボートが転覆するような大波が押し寄せてきたかを、遭難地点周辺の状況を示す下図を参考にして分析してみたいと思います。

遭難地点周辺の状況(×が遭難地点、が潮流の向き)

私は、沖を航行していた巨大船通過によって発生した引き波が堤防に当たって跳ね返って増幅され、2メートル前後の三角波になって2人のボートに押し寄せたものと推測しました。その理由は次のとおりです。

1.遭難地点の渥美湾の沖合は自動車運搬船の航路
2.遭難地点の西側は巨大船が多く航行する伊良湖水道
3.遭難地点は堤防の前だった

渥美半島の付け根に位置する豊橋港は日本一の自動車の輸出入港でここを起点として、トヨタ、スズキ、ホンダの車を積載した数万トンクラスの自動車専用運搬船が遭難地点の沖合いを毎日航行しております。また、遭難地点の西側は、名古屋港や四日市港に出入りする大型タンカーなどが多く航行する伊良湖水道があり、数十万トンクラスの巨大船がしばしば通過しており、その余波が遭難地点の渥美湾にも及んでおります。

私もこの海域に釣行しておりますので、これらの引き波はよく経験しております。この引き波が防波堤に当たり、跳ね返った波が 続いて防波堤に当たる寸前の引き波に当たり、方向の異なるこの二つの波の波長が一致すると同調されて合成波が発生します。これが三角波で、波高が2倍近くまで増幅される上、波頭が三角に近くまで鋭角になることからこの名が付けられました。

当時、潮流は上図の青い矢印で示すように西から東に流れておりましたので、ワンアンカーでボートを固定させるとボートはほぼ防波堤に平行になります。潮流が速い場合、ツーアンカーで固定するのは難しいので2人は、ワンアンカーでボートを錨泊させた結果、必然的に2人のボートは防波堤にほぼ平行の位置で固定されていたものと推測されます。

その場合、三角波はボートに対して横波の状態になりますので、ボートは極めて不安定になり転覆しやすくなります。こうして、2人のボートは、@巨大船による引き波発生→A防波堤に当たって三角波発生→B防波堤の直近の位置にボート錨泊→C潮流によりボートが防波堤に平行の位置に→D三角波が横波となってボートを転覆→E潮流の方向が陸地から遠ざかる方向に・・・・の悪循環によるアンラッキーが重なって遭難に至ったものと思われます。もし、2人が次の処置をしていたら2人とも無事生還できたものと思われます。

(1)救命胴衣を常時着用
(2)防水ケース入り携帯電話をポケットに
(3)第一波の引き波を受けた時点で身構える
(4)転覆しても沈まない仕様のボートに
(5)エンジン停止用安全ロープをボートにも繋いでおく

2人のボートは3メートル未満で、船外機が2馬力以下なら海技免状、船検とも不要の上、救命胴衣等の法定備品も不要のため2人が救命胴衣を所持してなかったとしても違法ではありません。逆に、これが仇になって2人は救命胴衣を着用しておりませんでした。やはり、万一を考えてせめても救命胴衣だけでも携行して欲しかったと思います。ただ、今回のように突然、大波に襲われる場合は、携行だけではなく、着用していなかったら無意味になってしまいます。

携帯で118番に電話すれば救援活動を受けられ、ナビ機能が備わっていれば、電話した時点で自動的に遭難地点が確認されます。従って、泳ぎながら防水ケース入りの携帯を取り出して118番にかければ、恐らく数十分以内に救援を受けられたものと思われます。引き波の三角波の恐ろしさを事前に知っていたら、第一波を受けた時点でオールを操作して横波を受けないようにボートの位置を防波堤に垂直になるように変えておけば転覆までには至らなかったかも知れません。

材質がFRPやアルミの場合は沈みますが、木材やPP(ポリプロピレン)なら沈みません。また、材質そのものが沈む場合でも、空気室入りの場合は沈みません。やはり、万一を考えて沈まない仕様のボートにしておくべきと思われます。また、沈まなくても、転覆してからボートに辿り着けなかったら無意味になります。従って自分の身体とボートをロープで繋いでおくことが必要になります。

実は、エンジン走行中にボートから転落した場合、エンジンが止まるように安全ロープを身体に繋いでおくことがエンジン使用者に義務付けられております。従ってそのロープの一方をボート側にも繋いでおけば、転覆してもロープをたぐり寄せてボートに接することが出来ます。但し、ボートが沈む場合は沈み行くボートに引き込まれて危険ですから、あくまでもボート沈まないことが前提となります。

この時期、低水温の中で2時間半も救命胴衣を着用しないまま漂流を続けられた67歳のAさんの体力に敬意を表するとともにBさんのご冥福をお祈りし、同じ釣り人として自戒の思いを改めたいと思います。

                 合掌


この日の気圧配置図

今年も、昨年と同様にメバル釣りは不調で、初釣りの3月16日にメバル大2尾、2回目の4月7日にメバル大2尾、3回目の4月10日にメバル大2尾といずれも貧果に終わっております。ここ数年、3月がよく、4月がよくなくて、5月に再びよくなる傾向が続いておりますので、あまり期待できませんが、今日は上の画像に示すように、この地方は広く高気圧に覆われ穏かに晴れて絶好の釣り日和になりましたので、何時もの渥美裏浜に出掛けました。

今日は、二日目の小潮で最も潮流が遅く、速い潮流が苦手な私には向いておりますので、期待して昼過ぎに家を出ました。途中で、燃料計の針が最終目盛りを切っていることに気付きガソリン補給しようとスタンドを物色したのですが、休日で休んでいる店が多くなかなか見付かりません。気付いてから30分ほどで漸く見付け、10リッターだけ補給しました。

現地に着くと、岡崎の名人の車が駐車されておりました。その名人は、西・東側の1級ポイントに係留しておりましたので、私は西・北のポイントに係留して頃合を待ちましたが当たりは遠く、結局20センチオーバーの大メバル2尾しか上げられませんでした。その後、中と東のポイントを転々としましたが、全く当たりは有りませんでした。結局、この日はこの2尾だけで11時前に早々に納竿しました。

帰り際に、名人から話し掛けられましたので、彼の釣果をお聞きしたところ、貧果だったと言いながらも、見せられたクーラーには20センチオーバーの大メバルが少なくとも10尾以上は入っていました。流石、名人だけのことは有ります。その時、先週のこのポイントの近くでボートが転覆して1人死亡した事故(左頁参照)が有った翌日の4月14日の様子を語ってくれました。

彼は、その日午前中にここに来て、ボートを出す準備をしていたところ、北の沖合いの上空でヘリコプターが旋回飛行し、海上で巡視船が航行していたのを目撃されたそうです。その時は、何のことか判らなかったのですが、その日の夕刊でボートが転覆して1人死亡したことを知ったとのことでした。彼は、転覆の原因を三角波と特定し、私にも注意するよう、アドバイスしてくれました。


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