−日記帳(N0.1559)2008年05月10日−
体温計についての疑問
−日記帳(N0.1560)2009年05月11日−
新型インフルエンザに思うこと(1)


予測式体温計測定原理の図解
(本来なら10分かかるのを30秒で測定できるのか)

体温計に実測型と予測型の2種類が有ること、一般に普及している予測型で測定される体温は実際の体温ではないことをご存知の方は少ないと思います。かくいう私も数年前に、ある疑問をきっかけにその事実を初めて知った次第です。

その疑問とは、私の平熱は36度3分前後だったのに、何時の間にか35度8分前後に下がってしまったことでした。少なくとも1983年以前の殆どの体温計は、腋に10分間挟み込んでから読み取る水銀式の実測型体温計でした。幼少の頃、この水銀式体温計で体温を測るのは苦痛でした。

割れやすいガラス製で、割れると猛毒の水銀が肌に散乱すると脅され、脇に挟んだまま10分間もその姿勢をキープし続けるのがしんどかったからです。そして、その頃の平熱が36度3分前後だったのに、1983年以降、予測型の電子体温計を使うようになってから35度8分前後に下がったことを知った時点で体温計の型式が異なっていたことに気付いたのです。

水銀式では体温による水銀の膨張が、電子式では体温を感温センサーが感知することが測定原理となっておりますが、瞬時に膨張、感知するのではなく、測定温度が実際の体温を示すまでにタイムラグが生じます。これを図解したのが冒頭の画面です。実際に読み取られる測定温度Tは、時間tの関数 T=F(t)として表わされ、図のような曲線を描いて、約10分後に平衡体温Ts に到達します。

もし、この関数F(t)が全ての人に共通に成立するなら、短い時間、例えば30秒までの時間tでの測定値をプロットして得られる連立方程式を解けば、このF(t)の関数が求められることから10分後の平衡体温Ts を予測することができます。体温計メーカーのテルモは、数多くのモニターの体温を実測して、平衡に至るまでの曲線を描いてみたところ、共通に上図に示す曲線に帰属されることを見出しました。

そして、この曲線は近似的にF(t)という基本関数で示されることから、30秒以内に測定された、温度、時間のプロット値から連立方程式を体温計内臓のマイコンで演算させて解くことで、被測定者に適した具体的なF(t)を求め、平衡時間 t=10分のF(t)値を平衡温度Tsとして表示するシステムをテルモが確立し、1983年に電子体温計として発売し現在に至っております。


私は、自分の体温が低く計測されるのは、電子体温計に採用されている関数F(t)が私には正しく適合してないことによるものと推測しました。つまり、私の30秒後の上昇曲線は関数F(t)よりも上向きになっているため、私の平衡体温はマイコンが演算する10分後の予測値より高くなっているのではと考えたのです。そこで、実際に水銀式体温計で10分間実測したところ、36度0分でした。

つまり、予測型の電子体温計による35度8分と誤差範囲内で一致すると考えられ、残念ながら私の推測を立証することは出来ませんでした。結局、私の平熱が低下したのは、加齢によるものと結論されました。加齢によって体温調節中枢の機能が衰えてくるために、平熱が低下するものと考えられております。

でも、私は全ての人にF(t)という基本関数が共通に適用できるとは到底思えず、体毛、皮下脂肪、血管等によっては、共通性が損なわれることも有り得ると思っております。従って、一度だけ実測型体温計で計測して予測型の電子体温計での計測値と一致するかかどうかをチェックすることが必要と思います。


A型インフルエンザウイルスの電顕写真
(細胞に侵入するのに足掛かりとなる突起が表面に見られる)

インフルエンザは人類最大の不幸、少なくとも人類最後の疫病とも云われております。普通の風邪もインフルエンザもその病原体がウイルスとう点では共通ですが、感染力に大きな差が有ります。普通の風邪なら、通常の健康的な生活をしておればまず罹ることはないと思われますが、インフルエンザは飛沫感染と呼ばれる方法で感染しますので、いくら健康的な生活をしていても、インフルエンザに感染した人に1メートル以内で近づけば、その人の咳やくしゃみによって撒き散らされた空気の中のウイルスを吸い込んで感染してしまいます。

トリ、ヒト、豚等の生き物にはそれぞれに固有のインフルエンザウイルスが有り、いずれも、細菌のように細胞分裂によって増殖できない代わりに、コピーを作成することで増殖していきます。通常このコピーは正確に行なわれますので、生き物の間の垣根を越えて感染することは有り得ませんが、偶発的にコピーミスが発生して他の生物の細胞にも侵入できるようなタイプに変わることは有り得ます。

もし、トリたちの間だけで感染していたトリインフルエンザウイルスがこのようなコピーミスをして、ヒトに感染する新型のウイルスが発生すると困ったことになります。何故なら、このようにコピーミスによって偶発的にできたウイルスのため人間には抗体が無く、もしヒトからヒトに感染するようになるともの凄い勢いで全世界に感染が蔓延し、かつその死亡率も高いと言われているからです。そして、このコピーミスが豚を経由して起こり得るとの学説がここ数年有力視されておりました。

その理由は、 豚にはヒト、トリ両方のウイルスが感染します。その豚がトリインフルエンザウイルスに感染し、更にヒトインフルエンザウイルスにも感染すると、その豚の体内でヒトとトリのウイルスの遺伝子の一部が置き換わる(交雑)と、ヒトにも感染する新型のウイルスが発生します。これが新型ウイルス発生のメカニズムで今回の新型ウイルスもこのメカニズムで発生した可能性が有ります。

インフルエンザウイルスは全てトリインフルエンザからきていることが判っております。1997年に香港でトリインフルエンザに18人が感染して6人が死亡した事件は、トリからヒトにトリインフルエンザが感染することが初めて確認された事例で、続けて更にベトナムでトリインフルエンザに7人が感染し6人が死亡する事件が発生しておりますが、死者はいずれも鳥とのコンタクト密度が高く、ヒトからヒトへの感染事例は有りませんでした。

しかし、トリインフルエンザウイルスが、上述のように豚を経てヒトに感染するタイプになった場合は、ヒトからヒトに感染するタイプに変異する可能性は充分有り、まさに今回のメキシコ発の新型ウイルスはこのタイプと思われます。実は、今から90年ほど前にも今回と同じように、トリインフルエンザウイルスが豚を経てヒトからヒトに感染するタイプに変異して新型インフルエンザとして世界中に蔓延したことが有りました。

この新型インフルエンザが「スペイン風邪」と呼称されて今日に至っているのは、当時は第一次世界大戦中でたまたま中立国で情報制限の無かったスペインで大流行したことによります。米国発の上、欧州に参戦した米国人兵士によって欧州に広まった可能性大であることを考えれば「アメリカ風邪」と呼称するのが相応と思われます。

当時は、今日のような疫学知識が無く、トリインフルエンザウイルスから変異した新型インフルエンザであることは判っておりませんでしたが、アラスカの凍土から1997年8月に発掘されたスペイン風邪で死亡した4遺体から採取された肺組織検体からウイルスゲノムが分離されたことによってようやく明らかになり、その正体は今回と同じ「H1N1亜型」であることが判明しております。

トリインフルエンザウイルスにはA、B、C の3種が有り、ヒトに関与するのはこのうちA型が殆どです。A型ウィルスの表面には、この頁の冒頭の写真に観られるように突起で覆われております。この突起により細胞表面にスパイクを打ち込むようにして固着して細胞内に侵入し、コピーを作って増殖していきます。この突起にはHA型として15種、NA型として9種有りますので、15×9=135種類の ○H○N型が存在することになります。「H1N1」はそのうちの1種で、これに亜種が派生することから「H1N1亜型」と呼称されます。

WHOは、全世界で200万人〜700万人の死者がでると推計してい それでは、これまでにどのようなタイプのA型インフルエンザが人類を脅かしてきたのでしょうか。主要な事例として、米国(H5N2:1983)メキシコ(H5N2:1993)豪州(H7N7: 1975、1976、1983、H7N3: 1992、1994、1997)、イタリア(H5N2: 1997、H7N1: 1999)オランダ・ベルギー・ドイツ(H7N7: 2003)香港(H5N1: 1997、2001、2002、2003)パキスタン(H7N3:2004)北朝鮮(H7N7:2005)等が有ります。

このうち、1997年に香港で発生したインフルエンザは、18人が感染して6人死亡する強毒型のH5N1型でした。H5○N型やH7○N型ウイルスは、トリペストと呼ばれる程、重い症状をもたらすことがあり、ほとんどのトリは感染して1〜3日で突然死亡してしまいます。2004年1月に山口県で発生したトリインフルエンザはH5N1型で、高病原性トリインフルエンザA(H5N1)亜型と呼ばれ、幸いヒトへの感染は有りませんでしたが、世界的にはこの資料に見られるように2003年以降424名が鳥に直接接触することで感染し261名が死亡(死亡率=62%)するという強毒性を示しております。

幸い、今のところ、このH5N1型でヒトからヒトへの感染例は報告されておりませんが、今回の新型インフルエンザH1N1亜型のようにヒトからヒトへ感染するように変異を来たすと大変な事態になるため、WHOの指示のもと世界各国で厳重に監視を続けており、わが国でも感染症法の四類感染症に指定しております。

新型インフルエンザ感染者の大半が軽症か無症状ですむ弱毒性といわれていますが、4月下旬に流行が確認されてから1カ月程度で、H5N1型の年間死亡者数を超える死亡者が確認されつつあることから、死亡率が低くても多数の人が感染すれば強毒性ウイルスに匹敵する被害をもたらす恐れが有ることを示しております。世界全体での新型インフルエンザ感染者数は、5月末時点で10,000人、死亡者100人程度(死亡率=1%)と見込まれるようです。


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