−日記帳(N0.2195)2020年05月05日−
人類の進化の歴史を研究する長谷川眞理子さんの講話より
−日記帳(N0.2196) 2020年05月06日−
コロナ問題で安倍首相と京大・山中教授がネット対談


長谷川真理子さん

ネット対談する安倍首相と山中教授


総合研究大学院大学学長・人類学者の長谷川真理子さんの講話をここで転載させて頂きます。


およそ250万年前に、人類の祖先がサバンナに進出して、狩猟採集生活を始めますが、
狩猟採集生活をしていたころは、これほど新しいウイルスが出現することはありませんでした。
一つのグループは3人から数十人。それがぽつぽつとあって、集まってもせいぜい150人ほどで
したから、動物から人にウイルスが感染しても、集団の多数に免疫ができればウイルスは行き
場を失って、それ以上増えません。

1万年ぐらい前に農耕牧畜が始まると、たくさんの人が集まって生活するようになります。
インフルエンザウイルスが出現したのはそのころで、アヒルとブタを一緒に飼うことによって
出現したと言われています。麻疹(はしか)ウイルスや天然痘ウイルスも、家畜から人へ伝染
して、人のあいだだけで増えるように変わったウイルスです。

都市文明が興ると、集団の人数は指数関数的に増えていきます。
1千人、1万人の単位で人が住むようになる。
現在では、100万人以上の都市が世界中に370もあります。
人類史の99%は狩猟採集生活ですから、現代文明は人類にとって当たり前ではないんです。


──今回、世界規模で感染が拡大しています。人間の行動にどう影響すると考えていますか。


14世紀に流行したペストや、第1次大戦のあとのいわゆるスペインかぜ(A型インフルエンザ
ウイルス感染症)など、人間はさまざまな感染症に見舞われてきましたが、それらと、
いまの新型コロナウイルス感染症の決定的な違いは、人間の数がものすごく多いことです。


いま、地球上には80億近い人間がいて、そのうちの53%が都市に住んでいます。人の移動が
簡単になり、1年間で海外旅行に行く人の数はこの30年間で4億人から14億人になりました。
グローバル化で、経済も政治もすべてつながっています。こういう状態でパンデミックになっ
たのははじめての事態だと思います。

エボラ出血熱や高病原性鳥インフルエンザでは、先進国のど真ん中は襲われませんでした。
都市の住民にとってはどこか「対岸の火事」だったんです。今回、主要先進国がすべてこう
いう状況になって、はじめて、現代文明の問題が自分事になったんだと思います。


──現代文明の問題とは、具体的にはどういうことでしょうか。


人間はこれまで、森林を伐採して農地にし、そこに大量の肥料をまいてきました。あるいは、
地球の表面をコンクリートで埋めて、都市に変えてきました。人が世界中どこにでも、野放図
に移動するようになりました。
これは行きすぎで、おかしいことだとずっと言われてきましたが、本気にしてこなかった。
そうやって文明をまわしていくことでお金が儲かるからですよね。経済を優先して、地球環境
問題はつねに先送りにしてきた。それをグレタ・トゥンベリさんは怒ったわけでしょう?


私たちホモ・サピエンスが誕生した20万年前から現在までをグラフにして、人獣感染する新型
ウイルスの出現をプロットすると、右端にぎゅっと固まっているはずです。それはやはり、
人間が生態環境を改変していることの直接の結果だと思います。


「意外性」を維持できるのか


テレワークが推奨されて、ウェブ会議システムの利用が増えるなど、
働き方の変化が生まれています。


うち(総合研究大学院大学)は全国にあるたくさんの研究所をたばねている大学なので、
こういうことになる前から、テレビ会議はしょっちゅうあったんですよ。だけど、テレビ会議
では、ちゃんとしたコミュニケーションになかなかならないんですね。


ふだんからお互いに顔を合わせていた人とだったら、テレビ会議もうまくいくんです。冗談を
言ったりしても通じますしね。だけど、初対面の人と、「これから会議でございます」なん
てやっても、ダメなんですよ。
オンラインでは新しい関係をつなげていくのは難しいのかなという気はしています。


──今回、世界規模で感染が拡大しています。人間の行動にどう影響すると考えていますか。


14世紀に流行したペストや、第1次大戦のあとのいわゆるスペインかぜ(A型インフルエンザ
ウイルス感染症)など、人間はさまざまな感染症に見舞われてきましたが、それらと、いまの
新型コロナウイルス感染症の決定的な違いは、人間の数がものすごく多いことです。


いま、地球上には80億近い人間がいて、そのうちの53%が都市に住んでいます。人の移動が
簡単になり、1年間で海外旅行に行く人の数はこの30年間で4億人から14億人になりました。
グローバル化で、経済も政治もすべてつながっています。こういう状態でパンデミックになった
のははじめての事態だと思います。


エボラ出血熱や高病原性鳥インフルエンザでは、先進国のど真ん中は襲われませんでした。
都市の住民にとってはどこか「対岸の火事」だったんです。今回、主要先進国がすべてこう
いう状況になって、はじめて、現代文明の問題が自分事になったんだと思います。


──現代文明の問題とは、具体的にはどういうことでしょうか。


人間はこれまで、森林を伐採して農地にし、そこに大量の肥料をまいてきました。あるいは、
地球の表面をコンクリートで埋めて、都市に変えてきました。人が世界中どこにでも、野放図に
移動するようになりました。

これは行きすぎで、おかしいことだとずっと言われてきましたが、本気にしてこなかった。
そうやって文明をまわしていくことでお金が儲かるからですよね。経済を優先して、地球環境問題
はつねに先送りにしてきた。
それをグレタ・トゥンベリさんは怒ったわけでしょう?

の出現をプロットすると、右端にぎゅっと固まっているはずです。それはやはり、人間が生態環境
を改変していることの直接の結果だと思います。

「意外性」を維持できるのか

テレワークが推奨されて、ウェブ会議システムの利用が増えるなど働き方の変化が生まれています。

うち(総合研究大学院大学)は全国にあるたくさんの研究所をたばねている大学なので、こういう
ことになる前から、テレビ会議はしょっちゅうあったんですよ。だけど、テレビ会議では、ちゃん
としたコミュニケーションになかなかならないんですね。


ふだんからお互いに顔を合わせていた人とだったら、テレビ会議もうまくいくんです。冗談を言っ
たりしても通じますしね。
だけど、初対面の人と、「これから会議でございます」なんてやっても、ダメなんですよ。オンラ
インでは新しい関係をつなげていくのは難しいのかなという気はしています。


──自宅で仕事をするようになって効率が上がったという人もいますが。


タスクのやりとりだけでは、発展性がないんです。場を共有しながら、対面で一緒に何かをやって
いくと、意外なことが連続して起こるのね。


たとえば学会なんかでも、発表や質疑応答は進行が決まっていて予想外のことは起こらないけれど、
そのあとの懇親会で誰かとしゃべっているときに何か着想を得る、ということはよくあります。
それは、あらかじめ何かを計画したからできることではないんですよ。


人間のアイデアのやりとりは、そういう、意外性に対して360度オープンになっている状態の中で
、発展してきたと思うんですね。テレビ会議やその他のツールでは、その意外性がかなり減って
しまうと思っています。


──すべてをITで補完するのは難しい?


難しいと思います。

──たしかに今回、医療や介護、小売りや物流など、私たちの生活がリモートで代替できない仕事に
どれほど依存しているかということに気づきました。


それはほんとにね、気がついてほしかったの。「Society 5.0」とかね、ITでなんでもうまくいくと
宣伝しすぎていたと私はずっと前から思っていて。リアルにみんながお互いに接触しながら、
対面でいろんなことをやることこそが人の基本なんだからね。技術に可能なことはどこまでかを
ちゃんと考えずに、技術だけで「経済発展と社会的課題の解決が両立できる」というのは、言い過ぎ
だったと思っています。


──恋人にも会えないのかとか、キスもハグもできないのかとか。


それをやめさせることはできないしね、それで会うのをやめると判断するのはずいぶん打算的な人
だと思いますよ。二人の人間が会うことは禁止されてないわけでしょう。人と人がわかり合うため
には、対面でいろんなことを話したり共有したりしないとダメですよ。過剰に反応してもいけない
わけで、恋人同士に限らず、人と会わずにい続けることはできないと思います。

情報不足が人を理不尽な行動に走らせる


──緊急事態宣言(4月7日)が出るまでは、若い人たちが外出をやめないという批判がありました。
先日も週末の観光地に人が集まったことが報道されています。


若者もそんなにみんな脳天気なわけじゃないからね、3月ごろは情報が限られていたし、たいしたこと
ないというメッセージを受け取ったから、無視したんだと思う。


私が思うには、正確な情報があれば、みんなけっこうまともに行動します。情報が限られていて
危機感だけがあると、人は理不尽な行動に走ります。買い占めに走るとかね。
反対に、それほど危機的ではないと思えば、勝手なことをします。


人間は、他者に「共感」できる生き物です。みんな、自分自身をリファレンスにして、自分がこう
思っているから相手もそうだろうなというふうに類推しますよね。自分が嫌なことは相手も嫌だろう
なと思える。言葉にしなくても、表情やしぐさから無意識にわかり合える。人間はお互いのことを自
分に引きつけて理解できるので、全員のためにいい解決点はどこにあるかをみんなが考えると思います。
ただし、そういう状況を搾取しようとする悪いやつは
絶対にいるから、それは警戒しなければいけないけれど。


政治的なリーダーたちがやらなければならないのは、危険がどのくらいあって、どういう情報がある
のか・ないのかを、ちゃんと伝えることです。それがものすごく、人の行動を左右すると思います。



──情報発信は適切になされていないと思いますか。


いまはSNSにものすごくたくさんの情報があふれていますよね。正しい情報もデマも含めて、瞬時に
発信される。
この情報環境は、人の意思決定にずいぶん変なバイアスをかけることになっていると思います。


どれが本当に正確に分析された情報なのかがわからないから、してもいいことと、してはいけない
ことを選り分けるのが難しい。顔の見えないSNSは原始的な情動による言葉も簡単に伝播してしまい
ますから、信用格付けができにくいんです。


──それもコロナ禍が発生する前からの現代文明の問題ですね。


人類は何度も感染症と戦ってきて、今回のことも永久に続くわけじゃない。どのくらい続くかは見通し
が立ちませんが、そのうち緩和されるでしょう。そのときに、全部忘れて元に戻ることはできないと
思うんですよ。


他人と接触したいし、対面で関係を持ちたいし、楽しいことをするためにいっぱい集まりたいという、
基本的な人間の欲求は変わらないと思います。その欲求を実現するために、いったいどういうオプション
があり得るのか。今回のことで、リアルに接触することがどれだけ大事かとか、ITでできることの限界
はどこかとか、いろいろ学ぶと思うので、みんな少し賢くなって、都市文明を作り替えていくところが
出てくるのではないかと思っています。


それを考えるときにね、私も含めてだけど、年寄りはもうダメだと思う。特に年寄りの男の政治家は、
どうせいままでの思考形態を変えないし、いままでどおりの枠組みしか思いつかないから、文明の方向を
変えようということには思い
至らないと思う。やはり、いまの若い世代が何を選択するかにかかっているのではないでしょうか。


はせがわ・まりこ/1952年、東京都生まれ。人類学者。専門は自然人類学、行動生態学。
イェール大学人類学部客員准教授、早稲田大学教授などを経て現在、総合研究大学院大学学長
最近は、ヒトの進化、科学と社会の関係を研究課題に据える。
著書に『世界は美しくて不思議に満ちている』『生き物をめぐる4つの「なぜ」』
『動物の生存戦略』『モノ申す人類学』など。

※取材は4月16日、オンラインで行った。


安倍晋三首相と京都大学iPS細胞研究所所長の山中伸弥教授が5月6日、インターネット上の番組に出演し
視聴者から募集した質問に答えました。
視聴者からは、2021年夏に延期された東京オリンピックまでに、ワクチンが開発されるメドがあるのか
という質問が寄せられました。

安倍首相は「開催する上で科学者のみなさんの力が大変今必要とされている」と説明。ワクチンや薬に
よる治療法の確立の必要性を訴えた上で、アビガンやレムデシビルの早期承認を目指す考えを示しました。

これに対して山中伸弥教授は、オリンピックの延期が2年後ではなく1年後だったことに触れ「これは研究者
にすごい宿題を与えられた」と戸惑いを口にしました。
「ワクチンや治療薬の開発が絶対条件」と強調し、「早いものでは海外で治験が始まっている」と説明。
その上で実現の難しさにも触れました。

「世界中から選手や観客が来る。人が大移動してくる大会で、これを可能にするワクチンの量を準備できるか
というと、幸運が重ならない限りワクチンだけでは難しい。幸運が重なればありえる」
 一方で、ワクチンだけでなく既存薬のアビガンやレムデシビルなどの効果に期待を寄せて「インフルエンザ
と同じ怖さだと持っていけたら、全然違う」と述べました。

レムデシビルは7日にも承認さましれる見込みだが、アビガンも同時に承認する「特例」を求め「首相にもう
ひと頑張りしていただけたら」としました。

山中教授はPCR検査の少なさを指摘する質問を受けて、陽性率を正確に出すために検査数を増やす必要があると
の見解を示した。「第1波は見事に押さえ込んだ」と対応を評価する一方で、欧州が由来とされる第2波が広がっ
ていると指摘。
 
「経済を再開していく鍵は、徹底的な検査と、陽性者の隔離」という見解を示した。
研究所の中には、PCR検査ができる機械が30台ほどあると説明。そうしたリソースを活用することで、PCR検査数
を増やすことができる可能性について述べました。

「研究員や技術員が何十人といるが、多くの人が実験せず在宅になっている。こうした大学や研究所の力をうま
く利用すれば、PCR検査数は2万を超えて10万くらいいけるのではないか」

また、1日どれぐらいの検査数が必要かとファシリテーター役の馬場典子アナウンサーに問われると、「件数より
は必要な人に速やかに届ける必要がある」と述べました。


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