火星大接近(3) 火星大接近(4)
−火星の表面はどうなってるの− −火星を見るにはどうしたらいいの−

ハッブル宇宙望遠鏡によって撮影された火星
30p反射とデジカメによって撮影された火星


火星は地球に最も近い隣同志の兄弟星ですので地球に似ている点も有りますが、残念ながら生物が生存するには余りにも過酷な環境のようです。そこで、どうしてそんな過酷な環境になるのかを考えてみたいと思います。

まず、大きさは半径で比較すると地球の6378kmに対して3397kmですので半分強ですが、月の1700kmに較べれば2倍近くあり生存するには充分な大きさです。次に重力は天体の質量に比例しますので、質量が同じなら火星の重力は地球の53%程度になるはずですが、実際は37%しかありません。その理由は火星の地殻には地球のように質量の重い金属分の含有量が少ないからと考えられております。

その結果、火星では大気が地表に充分保持されないため大気の密度は地球の1%以下しかありません。そのために地球のような温室効果が作用せず地球よりも太陽から離れていることも相まって、平均気温は地球の+27℃より遙かに低い-55℃で、-133度から+27℃まで大幅に変化しますので地球で考えられるような生物の生存はまず不可能と考えられます。

火星にも以前は地球と同様に二酸化炭素以外に水、酸素、窒素などもかなり存在していたようですが、二酸化炭素に較べて比重が小さいために前述の小さい重力によって地表に保持されず放散してしまったものと考えられます。その結果、二酸化炭素は地球の0.035%に対して95.32%、逆に水は地球の約4%に対して0.02%程度しかなく、同様に酸素は地球の20.95%に対して0.13%しかありません。

また、地球では大量に存在していた二酸化炭素は海に溶け込んで石灰藻等の生物の働きによって、また雨水に溶け込んで石灰と反応することでそれぞれ炭酸カルシウムとして固定されて減少する反面、植物の炭酸同化作用により二酸化炭素が吸収されて酸素が放出されることより酸化作用で損失する酸素を補って生物生存に適する大気が維持されているわけです。それなのに、人類は化石燃料や森林を燃やし続けることで二酸化炭素 を増やし続け、更には生物に有害な放射線をカットしてくれるオゾン層まで破壊すると言う、かって火星が辿ったのと同じ末路を辿るという愚行を繰り返しているのです。

上の左側の画像の上の南極と下の北極が白っぽく見えるのは、その二酸化炭素が冬になると凝固点の78.9℃以下になるため凍ってドライアイスになるためです。これが夏になると北極では溶けて殆ど見えなくなりますが、何故か南極の方が圧倒的にドライアイスの量が多いため夏でも残っております。何故、両極で温度がこのように違うかはまだ判っていないようです。

また、赤い模様は酸化鉄で出来た岩石や土砂です。火星が赤く見えるのはこの赤褐色の酸化鉄のためです。この赤い模様には山岳地帯が多く含まれており、上側の南半球にその殆どが分布されております。その左右の両脇が青白く見えるのは高山地帯にかかった白雲と思われます。北半球では夏になると雲が多く発生しますが、それは北極ではドライアイス以外に水氷も有りこれが暑さで溶ける時にから多量の水蒸気が供給されるからです。

特に左脇の青白い白雲の中にポツリと黒点が見られますがこれが赤道地域の西側に広がる幅800kmタルシス・リッジ高原に聳える、標高2万m級の三つのつの巨大な火山、アスクラエウス、パボニス、アルシアのうちの真ん中のパボニス山と推定されます。更にその西側には太陽系での最高峰標高25.000mのオリンパス山 が有りますがこの画像では見ることができません。

この画面の下の方に東西に延びる黒っぽい帯が見られますがこれが、これがかのローエルが運河と錯覚した有名な太陽系最大のマリナー渓谷です。上の右側の画像は左側の画像を上の南極冠が見えなくなるぐらい下側から捉えたものですが、ここではマリナー渓谷の形を確認することが出来ます。この渓谷は実に東西方向に5000km以上に伸びる峡谷系で、最大幅は200km、深さは7kmとグランド・ キャニオンの10倍もある雄大な渓谷です。 これは、グランド・ キャニオンと同じように洪水によって周囲が削られて出来たもので火星には以前、水が豊富に有ったことを示しております。また、2万mを越える高山が出来るのは、重力が地球の37%と小さいため盛り上がった凸部が自重で崩壊し難いからだと考えられております。


来る8月27日が火星の世紀の超大接近と言っても、星食などのようにその時刻限りの天文現象ではなく、 また、流星群などと異なり前後に数日ずれただけでは見た目には全くその変化は判りませんので、火星大接近は前後1〜2か月に渡って楽しめる天文現象と言えます。

当日の最接近時刻の18時51分12秒は、日本では火星が地平線の下にあって見ることはできず、地平線の上に昇ってくる午後10時過ぎまで待つしかありませんが、都会では周囲に障害物が多いため火星が中天近くまで昇る深夜まで待たねばなりません。むしろ、9月から10月にかけて、火星は宵のうちに昇ってきますので、家族揃って観望を楽しむのにはこの時期まで遅らせてもいいと思います。

また、大接近と言っても月の1/72程度ですから、せいぜい普段の倍程度で、かなり性能のいい望遠鏡で観望してもそれほど変わりばえしません。その大きさは165m先にある1円玉の大きさです。そして、1w程度の豆電球で照らされたその1円玉がその明るさと考えられます。

従って、大接近時に肉眼で見た場合は、上の左側の画像のように、点としてでしか見えませんが光度が-2.9等星ですので金星の-4等星に近い明るさの上、赤っぽい色をしているのですぐに判ります。しかし数十倍程度の双眼鏡で見れば丸っぽい状態を確認することは出来ます。

更に上の右側の画像のように口径100mm以上の家庭用望遠鏡で見れば、南極のドライアイスの氷や、明るい「ヘラス盆地、暗く三角形の「大シルチス」といった模様を見ることができます。シャッター速度調節可能なカメラに望遠レンズを付けるのが一般的ですが、最近はビデオカメラに望遠レンズを付けて録画しあとで編集する方法がよくとられているようです。

方角は東南から南で、時刻は8月なら深夜0時以降、9月から10月なら午後8時以降となります。 この機会に家族で火星を観望することで、子供さんたちが天文に興味を抱き、これを契機に科学に興味を持つようになって欲しいものです。私としては、日米欧の天文台の高性能望遠鏡がこの大接近の機会に新しい発見をすることを期待しております。


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