−日記帳(N0.774)2004年01月13日−
風邪とインフルエンザ
(インフルエンザに関する解説(1))

先日、「かぜは人類最大の恵みか」と言うタイトルの日記を書きましたが、誤解が有るといけませんので、ここで言う「かぜ」は、当たり前のことですが、インフルエンザではないと言うことを改めてお断りしておきたいと思います。逆にインフルエンザは人類最大の不幸、少なくとも人類最後の疫病なのかもしれません。

英語では、かぜのことを 「cold」、インフルエンザを 「flu」 と言って明確に区別しております。しかしその症状に共通点が多いので素人が自分で正確に区別して診断することは難しいので、私は明らかに異なる点が有ればかぜとみなして休養して自然治癒を待ち、判らない場合は直ちに医師の診断を受けることにしております。

インフルエンザが流行している時期は医院や病院の待合室でインフルエンザウイルスに感染する確率が高いと考えこの時期に不要不急に医院や病院に行かないようにしております。診察を受けたら逆に酷くなった事例をよく耳にするので間違っているかも知れませんが勝手にそのように信じているわけです。

かぜは正確には「風邪症候群」と呼ばれ同じ症状を示す多くの病気の集合体で、この症状を引き起こす病原体は200種以上有り、その90%以上がライノウイルスやコロナウイルスなどのウイルスと言われております。インフルエンザウイルスもかぜ症状を引き起こすウイルスのひとつですからインフルエンザもかぜの一種とも言えます。

普通のかぜの症状は、のどが痛む、鼻がむずむずする、水のような鼻汁が出る、くしゃみや咳が出るなどが中心で、全身症状はあまり見られず、発熱もインフルエンザほど高くなく、重症化することも滅多には無いようです。一方、インフルエンザは38℃以上の発熱、頭痛、関節痛、筋肉痛など全身の症状が強い点が普通のかぜと 少し違いますが、のどの痛み、鼻汁などの症状は普通のかぜと共通で区別できません。インフルエンザの怖い点は、気管支炎、肺炎などを併発し、重症化することで高齢者や幼児の場合は死亡に到るケースも有りますので注意が必要です。

普通のかぜなら、通常の健康的な生活をしておればまず罹ることはないと思われますが、インフルエンザは 飛沫感染と呼ばれる方法で感染しますので、いくら健康的な生活をしていても、インフルエンザに感染した人に近づけば、その人の咳やくしゃみによって撒き散らされた空気の中のウイルスを吸い込んで感染してしまいます。

例え、吸わなくてもそのしぶきが付着したもの、例えば電話の受話器やつり革、カラオケのマイク、タオルなどを触ったりすることによって感染し、感染して2日間くらいで症状が現れ、その後1週間くらいは他人にうつす恐れが有ると言われておりますので、インフルエンザの疑いが有るのに無理して出勤したり、登校することは反社会的行為と言われる由縁です。

インフルエンザウイルスは湿気や高温に弱い、逆に言えば乾燥した冷たい空気中では強く長生きしますので、インフルエンザは冬場に、まずは寒冷地から流行することになります。今年も北海道から流行する兆しが見え始めているようです。昨年SARSが中国での小正月の民族大移動を契機に広がったように、日本では年末の帰省による大移動を機会にウイルスが広がるため1月から2月頃が流行の最盛期となっております。 特に寒くて乾燥した空気によって上気道の粘膜の抵抗力を弱まりますので、のどの炎症から病状が顕在化することが多いように思われます。

インフルエンザの予防法には一般的な予防法とインフルエンザワクチンによる予防法が有ります。一般的には 人ごみを避け、外出後はうがい、手洗い、洗顔を励行、室内の湿度を保ち、 睡眠、食事を充分とって体力を維持することにつきます。一方、最近はワクチン接種が2,000円前後で出来るようになり、その効果もあがっているようです。但し、副作用の心配が有りますので事前に医師とよく相談して、特に高齢者や幼児はインフルエンザに罹ると重症になる恐れが有りますのでワクチン接種が奨められるようになりました。  

−日記帳(N0.775)2004年01月14日−
人類とインフルエンザ
(インフルエンザに関する解説(2))

電顕によるA型インフルエンザ像(東京都立衛生研究所資料より)
(周囲にHA型、NA型の突起が有り、これにより分類される)

16世紀のころにイタリアなどで、「星の影響」が原因とされる病気がまん延した。後には「寒気の影響」からとみる人もいた。今で言う「インフルエンザ」で、「影響」のイタリア語インフェルエンツアが元だ。「新参者」とも言われたがギリシャ・ローマ時代に同じような流行病があった。古くから人間につきまとい、同時に「人類最後の大疫病」とも言われるやっかいな病気だ。(ビバリッジ「インフルエンザ」岩波新書より)

人類は有史以来、数多くの疫病に苦しめられ、恐らく一時的には全人口の半分以上が病死すると言った悲惨な歴史を繰り返しながら今日に至っているものと思います。記録に残っている人類史上最大の疫病は中世ヨーロッパの人口の約四割を死に至らしめたと言われる「黒死病」でした。しかし、この黒死病のペストに代表される法定伝染病からは開放されましたが、どうしても開放してくれない最大の疫病がこのインフルエンザだと私は思います。

特定のウイルスに感染して回復すると私たちの体にはそのウイルスに対する抗体ができて、二度と感染しないのが普通ですが、このインフルエンザウイルスはウイルス側が生き延びるために遺伝子の配列を少しずつ変え、免疫の網の目をくぐりぬけるため、せっかくワクチンで免疫になっても数年後には新種の出現によって無効になってしまうからです。

インフルエンザウイルスはRNAウイルスと呼ばれるウイルスの仲間で、A型、B型C型の3種類が有りますが、重要なのはA型とB型で、大流行を引き起こすのはA型インフルエンザでB型は散発的に小流行を繰り返しています。A型が大流行するのは前述のように遺伝子配列を変えることで姿を変えるのが得意で、小さな変化の場合には以前かかった時の免疫や予防接種の効果が有効ですが、大きく姿を変えたときにはこれらが期待できません。A型は10〜30年おきに大変身し、その時には、世界規模の大流行をもたらします。

その決め手のなるのが、上の写真に見られるウイルス表面に有る突起状のスパイクです。HA型スパイクはヘマグルチニン(hemagglutinin:HA)と呼ばれ、赤血球や血清中の糖蛋白や感受性細胞と結合することで、N型スパイクはノイラミニダーゼ(Neuraminidase:NA)と呼ばれ細胞表面などから遊離することで未感染の細胞に広がっていくことで、それぞれウイルス感染を進める役目を果たし、これが微妙に変化することでいろいろな種類のウイルスが派生することになります。

現在までに、15種類のHA型が確認されておりその内容はこの資料のとおりです。トリでは15種類全て、ヒトではH1、H2、H3、H5の4種類、ブタではH1、H3、ウマではH3、H7、アザラシでは、H4、H7のそれぞれ2種類で、限られた種類のヘマグルチニンしか確認されていません。一方、NA型は9種類が確認されており、その内容はこの資料のとおりです。トリでは9種類全て、ヒトではN1、N2、ブタではN2、N3、ウマではN7、N8、アザラシではN6、N8とやはりそれぞれ2種類か確認されていないのはHA型と同じです。

インフルエンザウイルスの命名法は国際的に決められており、例えば、A/swine/New Jersey/8/76 (H1N1)のように表します。A型で、豚(swine/)から、New Jerseyで、1976年に8番目に分離され、HAが1型、NAが1型のウイルスということを表します。ヒトから分離された場合は、分離動物名が省略されますので、1999年に東京で初めて分離されたAH3型ウイルスでは、A/東京/1/99(H3N2)となります。過去に大流行さたもので有名なものに次の4種が有ります。

1918年  スペイン風邪 (H1N1)
1957年  アジア風邪  (H2N2:Aアジア型)
1968年  香港風邪   (H3N2:A香港型)
1977年  ソ連風邪   (H1N1:Aソ連型)

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