−日記帳(N0.1302)2005年07月04日− −日記帳(N0.1303)2005年07月05日−
太陽系起源を探る壮大な計画(2)
(彗星に弾丸を撃ち込むディープ・インパクト計画)
太陽系起源を探る壮大な計画(3)
(太陽風を集めて地球に持ち帰る「Genesis計画」)


金属体の突入により閃光を発するテンペル第一彗星

今日は米国の独立記念日です。この日に合わせて米国・NASAは壮大な宇宙ショーを全世界にTV画像を通して発信してくれました。このショーが壮大な宇宙探査計画によって実行されていることを理解して頂くために、昨日、太陽系の起源に関する仮説とその仮説を立証して地球誕生の謎に迫ろうとする数々の探査計画が日米で計画されていることをご紹介しました。

今日は、そのうちの「ディープ・インパクト」計画を採り上げてみたいと思います。、タイミングよく、独立記念日の今日、この計画のクライマックスとも言うべき、テンペル第一彗星への銅製の弾丸の打ち込みが見事に成功し世界中が湧きました。今年一月に打ち上げられた「ディープ・インパクト」の探査機は、4.3億kmの行程を順調に飛行して、今日地球から1.3億km(地球と太陽までの距離に近い)離れたテンペル第一彗星に500kmまで接近しました。ここから370kgの銅製の衝撃弾(直径1m、長さ1m)を500km先の彗星の核に向けて発射し、見事に命中しTNT火薬5トンに相当する大爆発を起こさせることに成功しました。

彗星は小惑星と同様、地球や火星のような惑星になれなかった星くずで、言わば惑星の落第生のようなものです。しかし、生まれも、育ちも地球などの惑星と同じで、原始太陽系を構成したガスやちりが凍りついた汚れた雪だるまのような小天体で大きさも一般的に数km 程度です。今回、目標となったテンペル第1彗星は1867年にドイツのテンペルによって発見され、縦約5km、横約15kmのマンハッタン島ぐらいの大きさの彗星です。

彗星は太陽から遠い時は地球からはほとんど見えませんが、太陽に接近すると太陽の熱で汚れた雪だるまが解け始め、青緑色をしたコマを伴い、更に接近すると、彗星独特の尾が発生します。尾は、青く見えるイオンの尾と、白く見えるチリの尾があります。尾の見え方や出かたは、彗星の位置や種類によって様々です。一般的には、大きな楕円軌道を描いて太陽への接近を繰り返すうちに、「汚れた雪だるま」のように表面は焼けただれ、炭のように黒っぽい殻ができます。この殻を壊して、中に保存されているはずの新鮮な氷の成分をサンプリングして分析すれば、太陽系や惑星の起源を解き明かすことが出来るはずです。

米国NASAは、これを実現するために1999年に「ディープ・インパクト」計画を作成しました。 この計画では、まず探査機を打ち上げて、テンペル第1彗星(9P/Tempel-1)に向かわせ、2005年7月4日の独立記念日、つまり今日、目標の彗星に接近した探査機から370kgの銅の弾丸を、秒速10キロメートルという速度で、テンペル第1彗星(9P/Tempel-1)に打ち込み、表面の黒い殻を打ち破ってそのときにはね飛ばされる氷の破片と、彗星内部から堀り起こされる新鮮な内部物質を、探査機に搭載した赤外スペクトルカメラで撮影し、また地上望遠鏡によっても観測しようという壮大にして緻密な計画です。

私が凄いと思いましたのは、東京、大阪間にも相当する500kmの彼方の最長15km程度の物体に弾丸を命中させると言う素晴らしい精度と、実物をサンプリングすることなく爆発時の閃光のスペクトル分析することで、元素名を確定できる分析技術です。いずれ、発表される分析結果が楽しみです。


回収に失敗し地面にめりこんだカプセル

太陽の表面から「太陽風」と呼ばれる微粒のイオンが吹き出されており、その組成が太陽の組成を反映しております。従ってこの太陽風をサンプリングすれば、地球を含む太陽系の原料物質の組成が判りますので太陽系の起源を探ることが可能と考えられます。この考え方により太陽風のサンプリングを計画していたのが、米国・NASAの「Genesis」計画で、ディスカバリー計画の一環でもあります。

この計画により、2001年8月8日に、ケープカナベラル空軍基地からデルタIIで、太陽風探査「Genesis」が打ち上げられ、約4ケ月後の2001年12月3日に地球から月までの距離の約4倍に相当する160万キロのラグランジュポイント(L1)と呼ばれる空間に到着しました。ここは、地球の重力と太陽の重力が釣り合っておりますので、重力に邪魔されずに太陽風のサンプルを集めることが出来ます。太陽風を集めるのには、地球の磁気圏外まで行くことが必要ですが、あまり太陽に近づきすぎると集めたサンプルを地球まで持ち帰ることが困難になりますので、ラグランジュポイント(L1)は理想的な空間と言えます。

探査機「Genesis」は2004年4月1日までのこので30ケ月間、ここにとどまって太陽風を集め、2004年9月8日にヘリコプターでカプセルの回収を試みましたが、カプセルのパラシュートが開かず地面に激突してしまいました。当時、この回収の様子は全米にテレビで生中継され、「300億円をかけたGenesis計画は壮大な失敗に終わった」とマスコミから報道され、TVの生中継で、写されているのは破壊されたカプセルの画像だけでした(上の画像)。

大気圏突入までは計画のとおりで順調でしたが、肝心のパラシュートが開かず、地上に叩き付けられてしまったわけです。砂粒の数粒ぐらいの貴重な太陽風のサンプルがその後どうなったかは、公式にNASAから公表されておりませんので判っておりません。失敗の原因は予算不足のため、空中で猛烈な速度で落下してくるカプセルをヘリコプターの乗員が捕捉するという曲芸のような方法しか採れなかったためと言われております。しかし、もしこのサンプルが地球にとって有害な物だったら大変なことになったはずですのでもっと慎重に回収して欲しいものです。


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