−日記帳(N0.1312)2005年07月14日− −日記帳(N0.1313)2005年07月15日−
ディスカバリー打ち上げ延期
スペースシャトルとISS


打ち上げが予定されていたディスカバリー

今日、打ち上げられるはずだったスペースシャトル・ディスカバリー号(STS-114)は、液体水素枯渇センサの誤作動が発見されたため、7月26日に延期されました。スペースシャトルはこの図のように、打ち上げ後地球を周回する周回機オービタ1基(長さ=37.2m)、固体ロケットブースタ2基(直径=3.7m)、外部燃料タンク1基(直径=8m)お三つの要素から構成されております。固体ロケットブースタは打ち上げから約2分間燃焼し、切り離されインド洋上に落下後、回収され再利用され、その後 外部燃料タンクが打ち上げ後約9分で燃焼し切り離されます。(再利用不可)そして、その後はオービタにある3基のエンジンで軌道に乗り、宇宙国際ステーションISSに接近してISSの組立て作業を始めることになっております。

中学の理科の授業で、水素ガスを発生させ、点火して燃やす実験が行われますが時折爆発して生徒さんが怪我をすることがニュースになることが有ります。発生した水素が空気中に拡散する前に点火すれば安全に燃焼しますが、空気中に拡散して酸素との混合比がある範囲になった状態で点火しますと爆発的に燃焼し極めて危険になるからです。スペースシャトルでもこれと同じで、外部燃料タンクから液体水素と液体酸素がオービタのメインエンジンに供給されますが、酸素が過剰な状態で混合されないように、タンク内の液体水素の残量をセンサーで監視してメインエンジンを異常燃焼から保護しております。従って、このセンサの誤作動は致命的な事故を招きかねないとの判断で延期になったわけです。

この外部燃料タンクはこの写真のように巨大で、上部に零下253℃の酸素、下部に零下183℃の液体水素が充填されるためタンク表面は極低温に晒されます。もしこの極低温が接続先のオービタに伝わりますと大変なことになりますので、タンク表面にはポリウレタン系の断熱材が吹き付けられております。実は、先回のコロンビアの帰還時の墜落事故はこの断熱材が剥がれた際に、オービタの断熱タイルを傷付けたのが原因とされたため、今回のディスカバリーでは改良された断熱材が採用されております。そして、今回もまたこのタンクに装着されているセンサの不具合で延期になるなど、外部燃料タンクが続けて問題となりました。

このように、オービタは回収されて再使用されますので、コロンビア、チャレンジャー、ディスカバリー、アトランティス、エンデバーと、五つの名前が付けられております。しかし、このうち、チャレンジャーは、1986年1月28日に打ち上げ73秒後に爆発、コロンビアは2003年2月1日に大気圏再突入時に空中分解を起こし、いずれも搭乗していた飛行士全員が死亡しております。従って、現在NASAが保有しているオービタは、ディスカバリー、アトランティス、エンデバーの3機しかなく、今回はその中から、飛行日数(242日)、軌道周回数(3808回)、飛行距離(1.59億km)でいずれも実績ナンバーワンのディスカバリーが採用されたわけです。


成功してたら野口さんが乗り込んでるはずの昨晩のISS

スペースシャトルは殆どの人がご存知ですが、意外とスペースシャトルの打ち上げ目的の国際宇宙ステーション(ISS)をご存知の方は少ないようです。かく言う私もその一人でした。そこで、ISSのことをいろいろと調べてみましたので、ここでご紹介しておきたいと思います。上の写真はそのISSが人工衛星となって北の空を東へ飛行している様子を、昨晩21時20分頃、岐阜県の川上紳一 さんが撮影されたもので、見事にISSが捉えられております。(CANON EOS 20Da。露出時間6秒)

ISSは、地上約400kmの上空で静止するように地球を約90分で一周することで重力に見合う遠心力を得て静止衛星となっている東京ドームぐらいの大きさの巨大な有人施設です。ISS計画は、ISSに人を常駐させて宇宙だけの特殊な環境を利用したさまざまな実験や研究を少なくとも10年間行うことを目的とする国際共同プロジェクトで、米、露、加、日、ベルギー、デンマーク、フランス、ドイツ、イタリア、オランダ、ノルウェー、スペイン、スェーデン、スイス、イギリス、ブラジルの16国ケ国が参画しております。

ISSは、上記各国が分担して製作した構成成パーツ(部分)を40数回に分けて米国のスペースシャトル、ロシアのソユーズロケット(部分的に日本のH2、A欧州のアリアン)などの輸送機で運搬し、現地でこれらの輸送機で宇宙飛行士の船外活動によって段階的に組み立てていきます。最初の構成パーツの「FGB」は1998年11月20日にロシアのバイコヌール宇宙基地から打ち上げられて宇宙ステーションの建設が始まり2008年以降の完成を予定しております。

その大きさは約108.5m×約72.8mで、ほぼサッカー場程度、重さは約450トン、太陽電池による発電能力は75kW、居住空間は1303m3でボーイング747型ジャンボジェット旅客機 2機分の客室分、実験棟は米国の「ディズニー」、ロシア研究棟(2棟)、日本実験棟「きぼう」、欧州実験棟、その他の国の実験棟「セントリフュージ」の6個の実験棟に、2個の居住棟が予定されております。

ISSの組立には1260時間(約200回)以上の船外活動(EVA)が必要とされ、米国製のEVA用宇宙服(EMU)を着用したクルーメンバーは国籍にかかわらず、米国、日本、ESA、カナダが製作に係わったISSの部分で組立作業をし、ロシア製の宇宙服(オーランスーツ)を着用したクルーメンバーは国籍にかかわらずロシアが製作したISSの部分で作業するということになっております。

7月26日の打ち上げられるスペースシャトル・ディスカバリー号(STS-114)には日本の野口宇宙飛行士等3人が乗り込んで行われる予定になっており、このULF1ミッションで、野口宇宙飛行士は主に船外保管プラットフォーム2号(宇宙空間に直接曝されている曝露機器の予備品を保管するためのパレット状の装置:External Stowage Platform-2: ESP-2)をISSのクエスト(エアロック)に船外活動により取り付けることになっております。

つまり、サッカー場程度の大きさの実験室、作業場、住宅からなる巨大な建物を宇宙に建築するために、その建築資材を建築現場に運んで、しかもそこで組み立て作業まで行うのが宇宙飛行士です。宇宙飛行士は、地上で例えるなら建築資材を現場まで運んでからそれで佐官仕事したり、大工仕事したり、タイルを張ったり、瓦を敷いたりする大型トラックの運転手のようなものです。従って、華やかに脚光を浴びてはおりますが、その仕事内容(ミッション)は過酷なものと思います。

このように、ISSは米国だけのものではなく16国ケ国共有の施設であり、既に宇宙飛行士としてスペースシャトルに搭乗した毛利 衛 向井 千秋 土井 隆雄 若田 光一 の各氏、これから搭乗する野口 聡一 古川 聡 星出 彰彦 山崎 直子の各氏も、NASAではなく日本のJAXAに所属しております。いずれ、日本のロケットで米国人やロシア人の宇宙飛行士を乗せてISSに飛び立つことも考えられますが、残念ながら現在の日本最大のH2ロケットでは小さすぎる上、有人飛行の実績が無いため実現は無理です。せめて、無人のH2ロケットでISSに資材を運ぶことで日本としての役割を果たしてもらいたいものです。


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