−日記帳(N0.1444)2005年11月27日−
小惑星「イトカワ」のこと(2)
(探査対象として選ばれた事情)
−日記帳(N0.1445)2005年11月28日−
小惑星「イトカワ」のこと(3)
(探査機「はやぶさ」の優れた性能)


「イトカワ」、「はやぶさ」、地球、太陽の位置関係
(クリックして拡大して見てください)

太陽系の起源を探るには、星の卵と言われる星間雲を採取してその成分を分析すればいいのですが、具体的に星間雲が存在する場所を特定することは難しく、例え特定できたとしてもそこにまで探査機を飛ばすことは事実上不可能と思われます。また地球以外の火星、水星などの惑星は質量が大きいため重力による凝縮や地殻変動などを繰り返し、惑星を形成する物質が創成時からはかなり変質しておりますので、サンプリングしても太陽系の起源を探ることは無理と考えらます。

そこで、目を付けられたのが昨日の日記で触れました、惑星になり切れなかった落第生の星たちとも言うべき小惑星と彗星でした。しかし彗星は「汚れた雪だるま」のような形をしていて探査機を軟着陸させるのは難しいので、結局小惑星が選ばれました。そして、多くの小惑星の中から、JAXAは「イトカワ」を選択したのでした。その理由は次のように考えられております。

1.大きさが適当であること。
2.地球からの距離が適当であること。

最初に発見された小惑星は、1801年1月1日にイタリアのピアッチ(G.Piazzi)によって発見されたケレス(最大直径約930kmで、その直径は月の直径の約1/3に及びます。次いで1802年3月28日にドイツの天文学者ハインリヒ・オルバースにより パラス(最大直径約570km)が、1804年9月1日にドイツの天文家カール・ハーディングによりジュノー(最大直径約234km)が、1807年にヴェスタが相次いで発見され、これら四つの小惑星は4大小惑星と呼ばれております。

この4大小惑星は、探査機の軟着陸は容易と考えられますが、やや大きすぎて重力による凝縮や地殻変動が起っている恐れが有るのに対し、4大小惑星より数千分の1から数百分の1の「イトカワ」ならその恐れは無いと考えられたようです。その代償として軟着陸が難しくなることが考えられますが、JAXAは、それを独創的なアイデアと高度な技術により克服して軟着陸を)成功させております。このことは明日の日記で触れてみたいと思います。

こうして、1.の「大きさが適当であること」の条件は満たされました。ところで、「イトカワ」は地球の軌道と似た軌道を持っていることから探査機を打ち上げてから「イトカワ」の軌道に乗せやすいこと、「イトカワ」への到着時点での地球からの距離が3.2億km(地球と太陽の平均距離の約2倍)で充分到着可能な距離であることから2.の「地球からの距離が適当であること」の条件も満たされて「イトカワ」が探査対象の小惑星として選ばれたものと推定されます。(私の勝手な推理ですが)


「イトカワ」から投下されたターゲットマーカ−

何時も思うことですが、日本のメディアは自国の実態をよく知らないまま外国に目をやりすぎるように思います。教科書問題、歴史問題では逆に他国(中国、韓国)の実態を知らないまま日本の実態に目をやりすぎるように思います。その傾向は宇宙開発のジャンルでも見られ、中国の有人ロケットを過大評価する反面、日本でのH2ロケットに関する失敗を過大評価して、いかにも中国の方が宇宙開発の分野で日本より進んでいるような印象を視聴者に与えているような気がしてなりません。

今回の「はやぶさ」による「イトカワ」への軟着陸、そして岩石の試料採取は世界に冠たる高度の技術によるものであるのに、日本のメディアはそのことには触れるものの、やや疑問符を含めて論調しているように思えます。むしろ、2ちゃんねる等の掲示板でのレスに、かなり専門的な立場からの精確な論評が見られるようです。このことは、日本のメディアの科学専門の記者やメディアが評論を委託している科学評論家のレベルが低さを物語っているように思われます。

私も宇宙開発の分野では全くの門外漢ですが、それでも今回の「はやぶさ」の軟着陸と試料採取が如何に難しい技術であるかは、理解できます。今日はそのことを解説してみたいと思います。その難しさは次のように分類して纏めることが出来ると思います。

1.10億kmの長距離を僅かな燃料で航行すること:
2.無重力に近い地表への軟着陸:
3.地表の岩石からの試料採取:
4.地球への帰還:

現時点での地球から「イトカワ」までの距離は約3億kmで、地球から太陽までの距離の約2倍に相当し、もし新幹線なみの速度で航行すると20年以上かかってしまいますので、せめて2年程度にするには音速(1,200km/h)の2倍程度の速度で航行させる必要が有ります。そのためには、まずエンジンを加速して地球の軌道に乗せることで一時的に人工衛星にすることでエンジン停止のまま地球を一周させ、地球をかすめるように再接近した時に「スイング・バイ」という方法で地球の引力を利用して加速し、今度は「イトカワ」の軌道に乗せて接近させる方法を採用したため「イトカワ」までの航行距離は10億kmと、直線距離の3倍以上、時間も打ち上げから2年4ケ月を要しました。

そして、通常の燃焼ガスの排出による推進エンジンでは、それに必要な燃料を小さな「はやぶさ」に積載することは出来ません。そこで、「はやぶさ」は、キセノンをイオン化した後、その粒子から電気を取って中性プラズマとして高速噴射しその反作用を推進力とする、「イオンエンジン」を世界で最初に探査機に採用したため、その燃料は米俵2俵程度の大きさで済んだと言われております。「スイング・バイ」と「イオンエンジン」の技術によって、1.の課題である「10億kmの長距離を僅かな燃料で航行すること」をクリア出来たわけで日本が世界に誇れる高度の技術と言えます。

せっかく、「イトカワ」に接近できても、軟着陸出来なかったら目的を達成できません。ところが、「イトカワ」の質量が小さいため、その表面上では殆んど無重力の状態ですので、ゆっくりと目標めがけて降下させる必要が有ります。ところが地球上から「イトカワ」への電波は16分もかかるため地球上からの電波指令では降下に必要な微小制御ができません。そのためには、探査機の「はやぶさ」自身が制御して着陸しなければなりません。そのために、先にターゲットマーカーを落としておいて、そこからのフラッシュを頼りに着陸するわけです。

ところが、これを単純に「はやぶさ」から投下するとバウンドしてはずみ宇宙の彼方に飛び去ってしまいます。そこで、技術者がヒントにしたのがお手玉でした。しかし、お手玉も形状が完全に球体でなければはね返ってしまいます。薄いアルミ板で球体を作る技術が要求され、これを東京の下町の零細企業が優れたアルミの絞りの技術を駆使してターゲットマーカーの製作に成功し、「はやぶさ」に搭載されました。そして、11月20日にこのターゲットマーカーが「はやぶさ」から「イトカワ」に32mの高さから投下され見事に成功し、上の写真に見られるように「イトカワ」の表面に着地しているのが確認されました。

このターゲットマーカーには、打上げ前にISASと日本惑星協会が実施した「星の王子さまに会いに行きませんか ミリオンキャンペーン」に応募した88万人の人々の名前がアルミ箔に刻まれています。半導体の微細な構造を作っていく特殊な技術を駆使して、0.03 mm角の大きさのアルファベットで綴られているのです。そして、一昨日の、11月20日にこのターゲットマーカーめがけて、秒速10cmの微速で「はやぶさ」はゆっくりと着地し2回バウンドしてから見事に着陸に成功しました。

着陸と同時に、「はやぶさ」から金属弾を「イトカワ」に発射し、着弾によって舞上がる岩石粉を採取しようと試みましたが失敗し、地球からの指令で30mの高さまで離陸しました。そして、一昨日の11月26日に再挑戦して見事に、世界で始めて小惑星からの試料採取に成功しました。しかし、その後通信が確保されない事態が発生し、更にイオンエンジンの推力が低下するトラブルが発生するなどして、地球への帰還に問題が生じており、その解決には一定の時間を要するとJAXAは説明しております。「はやぶさ」の位置は、JAXAの関連サイトより知ることが出来ます。確かに地球に試料を持ち帰って初めて成功と言えますが、これまでのプロセスの成功だけでも世界に誇れる技術の成果であることを日本のメディアは報道して欲しいものです。

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