オバマ大統領の就任演説に感動(3)
オバマ大統領の就任演説に感動(4)


オバマ大統領が就任演説をした国会議事堂前のバルコニー

オバマ大統領の今回の就任演説は世紀の名演説だったと思います。
私は、その根拠次の3点にあると思います。

1.仕 草:
2.発 声:
3.内 容:

まず、その仕草、言い換えればパフォーマンスは、昨日の日記で触れましたように、原稿に目を移す動作をしないで、手を振り身体をリズミカルに動かしながら、それなのにプロンプターによって原稿を読みとって正確にその内容を聴衆に伝えるという、実に見事なパフォーマンスを演出しました。これが、この演説の成功を導入しました。

次に、その発声がパフォーマンスを引き立てております。彼の演説の特徴は、平易な言葉と短いセンテンスを使うことにあります。
例えば、出だしの

I stand here today humbled by the task before us,
grateful for the trust you have bestowed,
mindful of the sacrifices borne by our ancestors.

私は今日、我々の前にある職務に対して厳粛な気持ちを抱いて、
あなた方から与えられた信頼に感謝し、
我々の祖先が支払った犠牲を心に留めながら、ここに立っております

「I」から始まり、「ancestors」で終わる文章を、二つの句読点で切っております。 句読点で切った時は語気をやや弱め、暫しの短間を置いてから次の語句から強めの語気で切り出し、再び次の句読点で語気を弱めて・・・を繰り返すことで、声に抑揚を付けて、あたかもワルツのメロディーのようにリズミカルに進めております。

「Change has come」や「Yes,we can」を連呼することもなく、日本の政治家に多い、「えー」や「あー」などの繋ぎ言葉(英語では、「You know」「Let me see」の類)は一切、使わず単語の言い間違いも全くない、完璧な演説でした。

しかも、使われている文章は極めて平易で、恐らく日本でも中学生レベルでも単語の意味さえ判れば、充分理解できる内容だと思います。
米国でも、全ての米国人が英語を理解出来るわけではなく、特に貧困層の多いヒスパニック系の人たちは英語を苦手としておりますので、このような配慮は意味が有ると思います。

次に、内容は専任の3人からなるスピーチライターたちが選挙後、2か月かけて、オバマ大統領と打ち合わせを繰り返しながら練りに練っただけに、実に見事でした。スピーチライターたちは、脚本家が俳優の癖を頭に描きながら脚本を書くように、オバマ大統領の発声のトーンを見極めながら文章の構成を考えたと言われております。その結果が、に抑揚のあるリズミカルな発声に繋がったことと思います。

長さも程々でした。歴代大統領の就任演説で、最短は1793年のワシントン大統領の135語。最長は1841年のハリソン大統領の8,445語で1時間40分でした。今回の19分は、ほぼ平均的で、寒い中で立って聞いている聴衆にとっても充分我慢できる時間だったと思います。

選挙中で多用した「Change has come」「Yes,we can」などの勢いのいい言葉は一切使わず、現実の厳しさを訴え、大統領と国民を含めて「We」とし、常に主語として「We」を使うことで大統領と国民が一体となって厳しい現実を克服する文章構成を採用した点に、演説内容の特徴が窺えます。

当初、この内容について、迫力に欠けるとか、具体策が見えてこないなどと批評した評論家もおりました。しかし、現下の米国及びオバマ大統領の置かれた状況を勘案するならば、ここで、「Yes,we can」などの勢いのいい言葉を使ったり、現実性の乏しい政策を誇示したりする方が、支持率が80%を超え期待が大きいだけに、 後に反動や失望を買った場合はそのマイナスは計り知れず、一気に政権が揺らいでしまう危険をはらんでいるように思われます。

今回のように、厳しい現実を訴え、それを国民全体で共有することで必ず克服出来るとする演説文の基調は、以上の観点から当を得たものであると思います。そして、不思議なことに、演説文を読み返すほどに、その内容の素晴らしさに気付いていくように思えるのです。明日のの「 オバマ大統領の就任演説に感動(4)」の最終章では、私が感じとった素晴らしい言葉のいくつかを選んで紹介してみたいと思います。


オバマ大統領の就任演説に熱狂する聴衆の群れ

オバマ大統領の就任演説の中から、素晴らしいよ思った部分をいくつか以下に、原文と訳文を対比させて抜粋してみました。尚、原文と訳文はここにあります。

On this day, we gather because we have chosen hope over fear, unity of purpose over conflict and discord.

この日、我々は、恐怖ではなく希望を、紛争と不一致ではなく目標の共有を選んだため、ここに集まった。


主語として「We」を常に使い、オバマ大統領と、それを聞いている国民が一体のものとしてこののメッセージが共有され、聞いている国民はどんどんオバマ氏の考えに同化し、新しい大統領と国民がひとつになって、国づくりをやり直そうという意識を誘っている名文です。

Our economy is badly weakened, a consequence of greed and irresponsibility on the part of some, but also our collective failure to make hard choices and prepare the nation for a new age.

我々の経済は、ひどく弱体化している。一部の者の強欲と無責任の結果であるだけでなく、厳しい決断をすることなく、国家を新しい時代に適合させそこなった我々全員の失敗の結果である。


ウオール街で巨万の富を築いている資産家、数百億円もの年収を得ている超一流企業の経営者たちの所業を「一部の者の強欲と無責任」とし、米国経済を弱体化したと決めつけるだけでなく、米国民も結果としてこれに加担したとし、今後はこのような所業を絶対に許さないとの決意とともに、米国経済建て直しの意気込みが伝わってきます。

Each day brings further evidence that the ways we use energy strengthen our adversaries and threaten our planet.

我々のエネルギーの消費のしかたが、我々の敵を強化し、我々の惑星を脅かしているという証拠が、日増しに増え続けている。


米国の石油の浪費、地球温暖化の問題点を明確に突き、米国が今後、京都議定書締結国にに復帰する意欲が感じ取れます。

Our patchwork heritage is a strength, not a weakness.
We are a nation of Christians and Muslims, Jews and Hindus - and non-believers. We are shaped by every language and culture, drawn from every end of this Earth.

我々の継ぎ剥ぎ細工の遺産は強みであって、弱みではない。 我々は、キリスト教徒やイスラム教徒、ユダヤ教徒、ヒンズー教徒、それに神を信じない人による国家だ。 我々は、あらゆる言語や文化で形作られ、地球上のあらゆる場所から集まっている。


一見、弱みに見える合衆国の他民族性を肯定するどころか、強みとして捉えることで全体の結束力を喚起しております。

why a man whose father less than sixty years ago might not have been served at a local restaurant can now stand before you to take a most sacred oath.

なぜ60年足らず前に地元の食堂で食事することを許されなかったかもしれない父親を持つ男が今、最も神聖な宣誓を行うためにあなた方の前に立つことができるのか


この文章が、私には最も感動的に聞こえてきました。あの人種差別の時代には想像も出来なかったことが現実に起こっていることから、自由と平等の米国を浮き彫りさせるとともに、幼い頃の思いが切々と伝わってくる名文で、関係代名詞と過去分詞が巧みに使われ、大学入試英語に最適と思われます。


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