講座集 第2章 資源回収・リサイクルに役立つプラスチックスの知識

(9)夢の繊維ではなかったポリプロピレン

昭和35年頃、ナイロン繊維より強い「夢の繊維」の キャッチフレーズでポリプロピレンが登場しました。 当時、プラスチックスの開発は米国が独壇場だったのですが、めずらしくこのポリプロピレンはイタリアのモンテカティニ と言う会社の研究者のナッタ博士によって開発され、その製法は同社の独占特許になりました。

ナッタ博士はユダヤ人だったため第二次大戦でナチスに捉えられたものの、獄中で有機化学の合成理論を瞑想しながら研究し、解放後ドイツのチーグラー博士と共同でナッタ・チーグラー触媒を開発したことがこのポリプロピレンの開発に繋がったことで知られております。

日本では三井化学、三菱油化、住友化学が競って当時造語にもなった「モンテ参り」を繰りかえして三社三様に同社 から夢の繊維を目指して技術導入し話題になりました。
しかしポリプロピレンで作られたシャツが試着後3ケ月でボロボロになる事実が発覚し繊維には不向きであることが判明したため各社は急遽市場を繊維から成型品に変更することになり、私もプロジェクトチ−ムに参画して開発を担当した記憶が有ります。

ポリプロピレンの耐候性と染色性が悪い点が致命傷となり結局、ポリプロピレンは特殊な用途にしか繊維としては利用 されず殆どが成型品で、一部ポリエチレンを補完する用途にフィルムとして利用されております。 ポリプロピレンは汎用樹脂の中では最も軽い樹脂で比重は0.9以下ですので水に浮くことから海上ブイや一体成形のボートに利用され、とくに最近自動車の軽量化のニーズに応えて次節に出てくるポリスチレン系樹脂に変わって自動車部品に採用されつつあります。

ポリプロピレンは成型時に樹脂の流れの方向に分子鎖が揃う性質により耐屈曲性が優れることから蝶番の無い一体成形の箱などに使われ、また薄いシートにすると厚紙のような感触が有ることからビデオのカセットテープのケースに大量に使われております。

(10)ポリエチレンと兄弟のポリプロピレン

ポリエチレン(PEと略)とポリプロピレン(PPと略)は下に示す構造式から判るように、側鎖がH(水素)とメチル基と異なるだけで他は全く同じため製品の形状や性質が酷似していることから兄弟樹脂と呼ばれ、素人目には判別できません。

      (CH2=CH)n      (CH2=CH)n
           |          | 
           H        CH3
     (ポリエチレン)     (ポリプロピレン)

そしてPPが実用プラスチックス中で最小の比重(約0.9)を持ち、かつポリエチレンより高強度であることから軽量構造材料として近年自動車用部品に使われるようになりました。 ただ、耐候性がに劣るため屋外での構造材料には不向きですので、陽の当たらないドーム球場、劇場などの椅子や浴場などの腰掛けには多く使われております。一方PEは柔らかい特性を利用して食品容器などの蓋や電線、コード等の被覆材マヨネーズや歯磨き等のチューブなどに幅広く使用されております。

フィルム製品はPPの方が透明性に優れる特性がありますが成形性に難が有ることに加えしなやかさに欠けることから包装用フィルムにはPEが圧倒的に多く使われます。スーパーなどの買い物や家庭から出るゴミを包み込む袋などは全てPEが使われます。また、サランラップやクレラップで知られる食品包装フィルムも以前は塩化ブニリデンが使われておりましたが焼却時にダイオキシンを発生する危険性が有るため、最近ではPEが使われるようになりました。

このようにPEは食品、ゴミ、持ち帰り品の一時的な包装に使用される上、プラスチックスとしての消費量がプラスチックスの中で最も大きいため、その廃品処理が社会的に大きな課題となりました。以前はPEを焼却すると燃焼カロリーが大きいため焼却炉が傷むとの理由で、何故かよく燃えるのに「燃えないゴミ」として扱われ主婦たちを悩ませましたが、現在では焼却炉の改善により殆どの自治体では「燃えるゴミ」として扱われるようになりました。

但し、先年、制定された包装容器リサイクル法によりPEやPP等のプラスチックスは包装容器として使用されている場合はメーカーに材質の識別表示義務が課せられており、例えばPEの場合は次のように、リサイクルマークの下にJISで定められた材質符号のPEを書くことになっております。ポリプロピレンはPP、ポリスチレンはPS、ポリ塩化ビニルはPVCです。この場合は、「燃えるゴミ」ではなく「資源ゴミ」として分別ゴミ出しすることが自治体から要請されておりますので、特に主婦のみなさんはこのマークを理解して分別ゴミ出しに協力して頂きたいものです。その理解を深めるために、本講座集で「包装容器リサイクル法」をアップしておりますので是非お読みください。



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