講座集 第2章 資源回収・リサイクルに役立つプラスチックスの知識

(15)急増するPET樹脂とPVA樹脂

今や、ボトルはペット(PET)時代です。明治時代から第二次世界大戦までは、液体容器はガラス瓶全盛の時代でした。お酒、ビール、ラムネなどは全てガラス瓶でした。スチール缶も有ったのですが、戦時下では兵器への用途を優先したため実用化されませんでした。 しかし戦後、アルミ缶が実用化されるに及んで、金属缶がガラス瓶に代わって、飲料水に使われるようになり、塩ビ、ポリエチレン等のプラスチックス製ボトルが醤油、酢、オイルなどに実用化されましたが、コーラ、コーヒーなどの飲料水には中味が浸透して外に漏れてしまうため実用化されませんでした。

しかし、ペットボトルが実用化されると、コーラ、ジュース、お茶、醤油、つゆなどアルコール類を除いて飲料、調味料等に幅広く利用されるようになりました。そして、つい最近、ビール瓶にPETボトルが採用される動きが有り、試作されましたがPETの酸素ガス遮断性の悪さ、リサイクル等の問題が有って、いまだ実用化に至っておりません。実用化されれば、コーラのように軽くて飲み分けできるビール瓶として用途が広がると思うのですが、ビール会社はあまり乗り気でないようです。

PETは、PolyEthylene Terephthalate の略で、ポリエチレンの仲間であるとともにポリエステルの仲間でもありますので、両者の性質を兼ね備え、透明性、耐衝撃性、ガス遮断性、成形性に優れるためボトルとしては最適の特性を持っており、今後益々その用途は拡大していくものと思われます。従って、そのリサイクルが社会的問題になっております。何故なら、PETのリサイクル率は現在 55% 程度でアルミ缶の 82% よりも相当低いからです。その理由はボトルのまま使用すると高温多湿の日本の気候のためカビが生えやすく、溶かして再びボトルに再生すると透明度が落ちる等の問題が有ってそのリサイクルが進まず、溶かしてポリエステル繊維として再生するとコストがかかることからリサイクル率が頭打ちになっているのが現状です。消費者の理解を得てボトルのままのリサイクルを進めていくのが必要で、下の表示がされているボトルは「燃えるゴミ」ではなく「資源ゴミ」として排出しましょう。

最近、赤ちゃんや要介護老人の使い捨ておむつや女性の生理用品の水分吸収剤としてプラスチックスのPVAが使われるようになり、使う側からすれば後で洗濯する必要が無くて大変便利なのですが、使われた後でゴミとして処理するのに、量的に多いことと、リサイクルが出来ないこと、汚物を除去せずに排出される場合に不衛生になること等の諸問題が出ております。

(CH2=CH)n
     |  
     OH 
      ・
      ・
     HOH
      ・
      ・
     OH 
     |  
(CH2=CH)n


PVAは Poly Vinyl Alcohl の略で側鎖に水酸基(OH)を持っておりますので水(HOH)と馴染みやすく、水分子が接近すると、上図に示すように水酸基中の水素原子と水分子中の酸素原子が点線で示すように弱い水素結合を起こし、水分子をPVAの分子の中に」取り込みます。これが水分吸収の原理です。PVAは線状パルプ、不織布、防水コーティング材と共に使用されますのでPVAだけを分離できず、また吸収した汚物の分離も技術的に困難ですので、リサイクルは事実上不可能とされております。したがって、消費者としては出来るだけ効率よく使って、後は汚物取りパッド等で汚物を除去して排出するしか有りません。


(16)プラスチックスの親類のゴム、接着剤、塗料

ゴムも接着剤もプラスチックスの一種です。これらを解説するだけで相当の頁を要しますので、ここでは簡単に概要を述べるに留めておきます。まず、ゴムには天然ゴムと合成ゴムが有り、年々、合成ゴムの比率が増大しておりますが、総合的な性能に於いて天然ゴムに優る合成ゴムはまだ現れておりません。

天然ゴムの生産地は、赤道を中心に南・北緯15度圏内の高温多湿地域で、タイ(36%)、インドネシア(22%)が世界生産の6割弱を占め、次いでマレーシア・インド・中国が各6〜12%のシェアを持っています。主要国の天然ゴムの消費量は788万トン(03年)で、主要消費国は中国(19%)・米国(14%)・日本(10%)などで、その80%以上が自動車用タイヤ・チューブ用として消費されております。尚、タイヤの場合、天然ゴムと合成ゴムの比率は通常55対45程度で、相場によって若干変動しております。

合成ゴムには多くの種類が有り、その概要はこの資料を参照願います。敢えて四大汎用合成ゴムを挙げるなら、次のとおりです。

・SBR  スチレンとブタジエンの共重合体である。天然ゴムの代替
      品として乗用車タイヤに最も多く使用され合成ゴムの中で
      最も生産量が多い。しかし、トラック用、航空機用などの
      発熱の激しい条件には天然ゴムが使用されます。

・BR   ブタジエンラバーのことでSBRより弾性、耐摩耗性、低
      温特性に優れているため、タイヤなどSBRべース配合の
      改質のためにブレンド使用されることが多い。

・NBR  アクリロニトリロとブタジエンの共重合体であり、通称ニ
      トリルゴムと呼ばれている。耐油性、耐燃料油性に優れ、
      オイルシール、Oリング、ガスケットを 始め多くの工業
      用機能部品として使用されている。アクリロニトリロの含
      有量により、耐油性が変化する。近年、ニトリルゴムの弱
      点である耐熱性を改良したHNBRが上市されている。

・CR   クロロプレンのことで、最も古い合成ゴムである。
      他の合成ゴムと比較し、強度や弾性などの機械的特性が
      優れている上、耐熱性、耐油性、耐焔性、耐薬品性など非常
      にバランスのとれた合成ゴムである。自動車部品を始め、
      幅広い用途に使用されている。さらに、ゴム系接着剤の80
      %はCRベースとなっております。

モノが接着されるのは次の三つの原理によります。

1.機械的結合  :表面の凹凸による絡み合いで結合
2.物理的相互作用:分子間力で結合
3.化学的相互作用:原子間力で結合

紙や板などの表面には凹凸が有りますので、ここに液状接着剤が入り込んで固まれば1.の原理で接着されます。逆に平滑な表面を持つ金属やセラミックスでは液状接着剤の分子と被接着面の分子が再接近して、2.の分子間力で接着されます。以上は被接着面のぬれ性が良くて接着剤となじむ場合に有効ですが、テフロンやポリエチレンのようにぬれ性が悪くて接着剤となじまない場合は、接着剤と 被接着面の間で化学反応などを起こさせて、3.の原子間力で接着させることが出来ます。 しかし、一般に接着はそのどれかに原因を絞り込むことができない複雑さを持っています。

接着剤にはゴムのように大量に使用される天然品は無くその殆どが合成品です。 ・エポキシ系接着剤(二液混合型) :
接着前に二液(樹脂と硬化剤)を混合してから被接着面に塗り込んで固定しておくと、数分から数十分程度で硬化して接着が完了します。硬化するまでに全作業を終えるのと固定が必要ですが一般に接着力は大きく、金属やセラミックスの接着に利用されます。釣竿のカーボンロッドなどに最近多用されております。

シアノアクリレート系接着剤(瞬間接着剤):
商品名「アロンアルファ」でよく知られております。空気中の水分と反応して数秒間で硬化するとともに接着剤自体が活性に富んでいるため強力な接着力が得られますが、水や熱に弱い面が有りますので注意が必要です。また、活性力が強いため被接着面を化学的に変質させる場合が有りますのでこれも要注意です。

ポリウレタン系接着剤:
1液タイプと2液タイプがある。1液タイプは空気中の水分と反応し、2液タイプは樹脂と硬化剤に分かれております。広範な材料に対して良い接着性を示す上、硬化皮膜はゴム弾性を持ち、耐水性、耐熱性、耐寒性に優れておりますがコストはやや高めです。エポキシのように手が荒れることは少なく、ホルムアルデヒドを使用しないためシックハウス症候群にかかる危険性が少ないメリットが有ります。

ユリア樹脂系接着剤:
全合成系接着剤の40%を占め、主として、家具、住宅の造作材、住宅設備機器の面材、パーティクルボードなどの合板用に使用されておりますが、ホルムアルデヒドがが放散される恐れが有るためシックハウス症候群が心配されております。安価であることが最大のメリットです。

メラミン樹脂系接着剤:
ユリア樹脂系接着剤と同じような用途に使用されてますが、ユリア樹脂系接着剤に比べて価額は高いものの優れた耐水性と耐老朽性を有しているため、フローリング(複合材)、窓枠、壁材などの屋外建材としても使用されております。

フェノール樹脂系接着剤:
ユリア、メラミン樹脂系接着剤と同様に、その大半が建材用に使用されますが、耐水性、耐久性は最も優れる上、ホルムアルデヒドの放散量が少ないこととも相まって最近使用量が増加しております。

酢酸ビニル樹脂系接着剤
家庭でもよく使われる「木工用ボンド」でもよく知られている接着剤で、お酢に似た匂いがしますのですぐ判ります。水には溶けませんがアルコールなどの溶剤に溶けますので通常はアルコール溶液になっており、塗った後溶剤が揮発すると乾いて接着が完了します。酢酸ビニル樹脂の変わった用途としてチューインガムが有り、現在の殆どのガムに使われております。接着剤ですから、噛み終えた後で道端などに捨てるとこの上に付着したゴミなどが接着されて容易に除去できなくなることから、シンガポールではチューインガムは持っているだけでも見つかれば警察に連行されます。

他にもたくさん接着剤は有りますが、特殊用途ですので省略します。 塗料も接着剤と同様に、漆以外は全てと言っていいほど合成品ですが、ここでは省略します。


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