講座集 6章 プルサーマルについての解説

物質の最小単位は原子で、その原子は原子核とその周囲を衛星のように回って いる電子から構成され更にその原子核は陽子と中性子等から成り立っております。
そしてその陽子の数を原子番号、陽子と中性子両方の重さの和を原子量と呼んで おり、例えば酸素原子は陽子が8個、原子量が16と言った具合です。
この原子核が重くなる程、陽子と中性子は仲が悪くなり中性子は陽子から離れて 核外に出ようとします。82番目に重い鉛ぐらいまでは安定ですが、86番目のラドン や88番目のラジウムぐらいになると仲は更に悪化し中性子や陽子が離れることで 原子核は不安定になり、いろいろな放射線が放射されますがごく微弱で人体に害は 無く、逆にその電離作用が体にいいとされて温泉やガンの治療に利用されているの はご存知のことと思います。

ところが、92番目のウランになるとその傾向が更に強まりますが、天然のウラン鉱石 の99.3%を占める原子量が238のウラン238では放出された中性子が更に隣接す る他の原子核にアタックする程の勢いが無いのでその核分裂はそれ以上進みません。

しかし残りの0.7%を占めるウラン235はその濃度が高まりかつ量が増えると中性子 の勢いが衰えないまま隣接する原子核をアタックし、更にアタックされた原子核から勢 いのいい中性子が飛び出して他の原子核にアタックすることで連鎖的に核分裂を進行 させます。
このように連鎖的に核分裂が進むかどうかの分岐点を臨界量、連鎖反応を 起こす現象を臨界と言っております。

従って、核分裂を有効に行わせるには天然ウランを濃縮してウラン235の濃度を高め た上でその濃縮ウランを臨界量にする必要があります。
この臨界量は濃度によって異なり一般用途の場合、濃度5%で16キログラム程度と されておりますが、濃度が高くなると臨界量が減ると言う基本原理を見落としたために 起こった東海村の臨界事故はまだ記憶に新しいことです。

あの時扱っていたのは臨界量2.4キロの15%の高濃度ウラン235と言われており、 臨界量を充分下回るように何回かに分けて調合すべきだったのに、普段慣れていた 5%ウランの臨界量16キロと錯覚し一度に調合して臨界に至ってしまったようです。

原子爆弾は爆弾の内部に超高濃度ウラン等をを臨界量以下に小分けして収納し、 起爆により一瞬に臨界に達するように仕組んであり、原子力発電は臨界に達して も核爆発を起こさせないように、核分裂で飛び出して来る中性子の速度を減速材で 落としてゆるやかに核分裂させて熱を取り出しております。
減速材は軽水(普通の水)、重水(通常の2倍重い水素からなる)、黒鉛に分かれます が日本では軽水が主に採用されております。

しかし、東海村の臨界事故では沈殿槽の内壁に接するジャケット内の冷却水が槽内 から放射される中性子を槽内に跳ね返すことで臨界を維持することになったのは皮肉でした。 この冷却水を抜いて中性子を吸収し易いホウ酸水に入れ替える言う極めて危険な作業 を志願したJCOの決死隊員の献身的な勇気、そしてこの作業を提案、承認した関係者 の見識と英断がこの不幸な事故を最低限に食い止めたと言われております。


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