我が闘病記

第14章 間一髪!ことなきを得て:

たまたま、二人ともコールされているので間もなく戻るだろうと思うことで気を落ち着かせ、 5分ぐらいの間隔でボタンを押しましたが30分程過ぎても応答有りません。 我慢し切れなくなったので、必死に今度はボタンを押し続けました。

耳をすますと、看護婦さんが廊下を走っていく靴音が時折聞こえてくるのです。 走るのは禁止行為ですから、緊急事態が発生したとの予想はつきますがそれにしても、 病室とセンターを往復しているはずですから連続して押し続けていればコールのブザー音 に気付くはずです。

気付かないのは断線か電源オフになっているかも知れないと思い、大声で「誰かー!  居ませんか!」と必死に叫び続けました。 その時ほど、個室にいることの怖さを感じたことはありません。 大部屋だったら、同室の誰かが起きて助けてくれるはずだからです。 それでも応答が無いと判ると恐怖感で身体が震えだしはじめました。 もし、再手術になったらと悪いことばかりを走馬燈のように思い巡らしておりました。

もう我慢出来そうになかったので、そのままの姿勢で放尿することを覚悟し、少しでも背中の 縫合跡に尿がまわらないよう、テイッシュにしみこませようとして枕元のケースに手を延ばそ うとした、その時、看護婦さんが飛び込んで来てくれたのです。 何とかかろうじて間に合ったのですが、「どうして来てくれなかったの?」との思いがこみあげ、 つい「何してたの!」と大声で怒鳴ってしまいました。
その看護婦さんは、6章で紹介済みの娘と同じ学部出身の副主任のAさんでした。 彼女はかがみ腰で私の目線に合わせながら私の手を握りしめて直ぐ来れなかった事情を 小声で諭すような口調で語りかけてきたのです。
私が興奮して涙声だったことを察知した彼女は、少しでも落ち着かせようとして手を握りしめた と聞かされて、逆に怒りが益々こみ上げてきたのです。 まずは開口一番謝って欲しかったのです。

「ボタンは一度押せばセンターに赤ランプが灯るのでそれ以上押しても無駄です。」 と諭された時は怒り心頭に発し顔も見たくないから帰ってくれと突き離しました。
しかし彼女は手を握りしめたまま「このままでは私は看護婦として失格です。 気が落ち着かれるまでここでお話を続けさせて下さい。」と懇願するのです。

暫く、無言の時間が流れていきましたが、その間もじっと私の手を握りしめて私の名を呼び続け るのです。
握りしめられた彼女の手から熱意が伝わってくる程に不思議なことに興奮が収まっていったのです。。
そして、関係の無いよもやま話をしてるうちに、お世話になっている看護婦さんに暴言を吐いて いる自分が恥ずかしく情けなく思えてきたので、そんな思いを伝えると彼女は安心したのか笑 顔で退室していきました。

そして、まもなく私は深い眠りにはいり、ぐっすりと眠ることができました。 翌朝、医師の看護長、婦長、そして当事者の副主任の3人が部屋を訪れ、昨晩のことについて、 お詫びとともに状況説明をしてくれました。 私は、彼女の将来のことも考慮して内密にするつもりだったのですが、彼女はキチンと上司に 報告していたのです。

昨晩は、重傷の患者さんの容態が悪化して苦しみだしたので看護婦二人で緊急対応したため、 私のコールを確認しながらも30分近く駆けつけるのが遅れてしまったとのことでした。

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