フェルメール全35作品への我流コメント
(大好きなフェルメール作品の日本公開が今年相次ぐのを機に敢えて下手なコメントを付けてみました)

1 少女(娘の頭部)
昨年(2011)METでこの絵を目の当たりに観ました。売店にその複製が最も多く見られ人気のある作品ですが、よく比較される右側の「真珠の耳飾りの少女」に較べてフェルメールらしい色が使われてないように思われました。可愛らしさと美しさの対比をフェルメールは表現したのでしょうか。寄贈された最後の個人所蔵のフェルメール作品とのことです
2 真珠の耳飾りの少女
何時観ても観飽きることのない素晴らしい作品、今年6月「首飾り・・」と東京で同時公開されますので観賞します。青色と黄色の見事なコントラストの効果を輝く耳飾りが更に高め35作品で最高の人気を呼ぶ要因をなしております。モナリザに匹敵するこの名品が僅か3,000円で売買されながらオランダの至宝となった経緯にも興味がつのります。
3 水差しを持つ女
この作品も「少女」とともにMETで観ました。フェルメールは、金に匹敵する高価な宝石級の顔料を青色に採用しておりますが、この絵でかその青色がフェルメール作品の中で最も美しく、窓辺からの日射しによる陰影は強調されず全体に明るく表現されております。それが青色の美しさを引き立てております。私の2番目に好きな作品です
4 天秤を持つ女
この作品もMETの次に訪れたワシントンで観ました。「水差し・」とは対照的に日射しによる陰影が強調され暗過ぎてWEB画像では壁の絵や机の上の物が何か判りません。しかし実物では絵が最後の審判、机の上に真珠の首飾りと分銅が見取れ、妊婦が穏やかな表情で真珠を計ろうとしているように見えます。我が子のために真珠を売ろうとしているのでしょう
5 手紙を書く女と召使
この絵は去年日本で公開され話題になりました。画中画の内容から恋人と仲直りの手紙を書いているものと思われ、書き損じの紙くずからも真剣な雰囲気が感じられる一方で、無関心に窓辺を見詰める召使いの表情と日射しで明るく映る白いカーテンが空しさを醸し出しているようにも思われます。盗難でナイフで切り取られた跡は見事に修復されてます
6 二人の紳士と女
あの格好で紳士?、女性の正体は?女性にワインを勧める男性は騎士用の上着を着ているので紳士でしょうが如何にもスケベ風です。派手な赤いドレスを着て男性の誘いに笑みを浮かべる女性は一見娼婦のように見えますが、壁に架かる肖像画の男性像がそれを否定しているようです。しらけた風情で椅子に座る男性も含め実に物語性に富んだ描写です
7 稽古の中断
ヴァージナルはチェンバロの一種で鍵盤を用いて弦をプレクトラムで弾いて発音させるオルガンのような形の撥弦楽器で、この楽器の稽古中に誰かが部屋に入ってきたため中断している女性を描いております。光と影の技法の表現が弱い上痛みが激しく評価は高くないようです。壁にはキューピッドの絵が掛けられております
8 手紙を読む青衣の女
修復後初の海外公開が昨年6月から日本で行われ話題を集めた3作品の一つ。手紙をモチーフにした6作品の一つで唯一、高級青顔料ラピスラズリが使われていることからこの絵のモデルの妊婦はフェルメールの妻カタリーナとの説が14人も生んでいることから有力で、もう一つの椅子に夫が座るのを楽しみにして読んでるのでしょう
9 牛乳を注ぐ女
フェルメール家に仕えた実在のメイドと思われる女性が注ぐ真っ白で粘っこそうなミルクと美味しそうなパン、エプロンの青色とスカート赤色は聖母マリアを連想させ、恵みのパンやミルクからもこのメイドに逞しい母性愛が感じられ下層で働く人をモデルにしたフェルメールの優しさの一面が偲ばれます。テーブルの四角の不自然さは気になりません
10 窓辺で手紙を読む女
遠ざかるにつれライン間隔を狭める遠近法によりラインが交差する立体の中心点を画枠の中心点のモデルの頭部より平行に僅かにズラせて視線をモデルに移行させた上、日差しによる影に濃淡を付けて遠近感に立体感を加え3Dの雰囲気を演出 更にテーブルをベッドと思わせる騙し絵手法 WEBでは判別困難ですが窓枠の青色も興味深い
11 地理学者
フェルメール作品でモデルが男性単身像はこの絵と右の絵だけでいずれも学者がモデルです。当時オランダは東インド会社を拠点に貿易で潤っており地図、海図は貴重でこれらを扱う地理学者の地位は高かったものと思われます。棚の上の地球儀と机の上に丸められた海図、光と影が巧みに利用されたリアルさが素晴らしいと思いました。
12 天文学者
フェルメールが過ごした17世紀は、ケプラーが天体運動を解明、ガリレオが地動説を唱えるなど天文学の黎明期でした。署名、制作年のある数少ない作品、ロスチャイルド家の所有、ナチスによる略奪などの経緯が有ることでも知られております。モデルはフェルメールの知人で後に彼の遺産を管理した科学者と言われております
13 信仰の寓意
METでこの絵を観た時、何のことかサッパリ判りませんでした。太った女が胸に手を当て地球儀に片足を置いて上を見詰めることがカソリック信仰の寓意であることを後に知り、絵の意図は判りましたが、これまでの絵のようにフェルメールの素晴らしさを感じとれませんでした。ただ服の青色と地球儀のリアル感にフェルメールを感じ取りました。
14 合奏
左の女性がチェンバロ、中央の男性がリュートを弾いて合奏し右の女性が右手で調子を取りながら歌っております。男性は前に架かっている絵を見ているようです。その絵を「取り持ち女」としたところに寓意が認められます。そのような絵を見ながらの合奏にフェメールは? フェルメール35作品中、唯一盗難に遭ったまま行方不明のため実際に観ることの出来ない作品です
15 音楽のレッスン
ヴァージナルを弾く女性を男性教師がレッスンしてます。フェルメールは光と影を巧みに利用してモデルをクローズアップするのに、この絵では光が届くはずのない遠方まで届くなど光が強調され、更に消失点が二人の間に設定されるなどして二人に視線を集めさせ、壁のイーゼルの鏡では女性の顔が教師の方を向いてるなど工夫が凝らされております
16 女と召使 
モデルの上着は 黒点状の紋章が描かれたアルメニアネズミの白い毛皮の縁取りが付いたアーミン服で フェルメールの所有物であることが遺産目録から判明しております。35作品中でこの絵と右の17と32〜35の計6点で取り上げられております。女主人の怪訝な表情は右の「恋文」と同じですが嬉しいのか困っているのかどちらでしょう
17 恋文
メイドから手紙を受け取って怪訝な表情をしてますが題名どおりとすれば内心は嬉しいはず。箒や洗濯物を放置したままギターを弾いている様子、壁に揺れ動く女心を表す海景の絵を描から女性の人物像と手紙の内容が覗い知れるようです。二人が描かれている空間が鏡のように見えるのも妙です。1971年ベルギーで盗難に遭いましたが無事戻りました
18 兵士と笑う女
陽を浴びてほほ笑む表情の素晴らしさに圧倒される、光と影の芸術家、フェルメールの傑作です。主人公より大きく描きながらも背中を向けて表情が見えないように兵士を黒子にして彼女を引き立てております。特に黒い大きな帽子が対照的に彼女の顔を明るく見せ、消失点を彼女の顔に設定しているので否応なしに視線は彼女に集中します
19 ヴァージナルの前に立つ女
構図が左の絵と対照的です。同様に差す左窓からの陽に左では向いているのにこの絵では背にしているからです。そのため左では光で顔が輝いているのにこの絵では顔の半分が影になり表情も冴えません。背景にキューピッドが1の数字が書かれたカードを掲げている絵が掲げられているので「愛する人は一人だけ」と女性の貞節さを暗示する寓意と受け取れます
20 ヴァージナルの前に座る女
ど素人の私にも判る程、フェメールらしさに欠けた出来の悪い作品と思います。最盛期のフェメールなら、カーテンやテーブルクロスを厚みと色彩により布の質感を見事に精緻に表現しているのにこの絵のカーテンは雑に描かれ質感が感じられません。らしさはドレスの青さだけのように思います。創作意欲が萎えた晩年のの作品なのでしょうか。
21 眠る女
METで観た覚えは有るのですが印象は強く有りません。フェルメール独得の光と影の描写や青色の配色が見られないことがその理由だったように思います。この絵がフェルメール初期の作品であることを後に知って納得しましました。ただテーブルクロスの色と厚地の質感にベッドを思わせるフェルメールならではの「騙し絵」の技法を感じ取りました
22 絵画芸術
その素晴らしは現物でしかと判らないと言われるこの絵の評論は専門家の藤田令伊さんの評論に委ねさせて頂きます。この絵は寓意が満ちており、画家の様子に「伝統」、机上の石膏像に「模倣」、モデルの少女から「女神の教え」等がその事例とのことです。シャンデリアは光と影の技法により精緻に描かれているのが現物を観てない私にも判ります
23 取り持ち女(遣り手婆)
絵の主人公は黄色の服の娼婦ですが絵のタイトルは「取り持ち女」のお婆さんです。赤い服の男性から娼婦がお金を受け取るのをお婆さんがほくそ笑んで見ております。このような行為は恥ずべきこととフェルメールは訴えているのでしょうか。左端の若い男性が誰なのか気になります。尚この絵には制作年が記入されております
24 ディアナとニンフたち
フェルメール作品としては、ギリシャ神話を題材とした唯一現存するもので初期の作品のため未だ光と影の技法は用いられておりません。ディアナは月の神、ニンフは若く美しい女性の精霊で、足を洗ってもらっているのがディアナ、ニンフの1人は横に座りもう一人は足を洗っております。黄色と赤色の表現にフェルメールを感じます。1999年に修復作業が実施されました
25 聖女プラクセデス
フェルメール作品では珍しい宗教画、聖プラクセディスは2世紀頃の人物で、殉教者の遺体を清めることに努めたとされており、殉教者の血をスポンジで絞っている様子が描かれております。1969年にMETでこの原画作者フィケレッリの作品として出品されたものの「Meer 1655」の署名が見付かったことからフェルメール作品に加えられました
26 赤い帽子の女
「窓辺でリュートを弾く女」とともに非真作論が専門家の間で交わされる作品として知られております。フェメールらしさに欠けていることは私にもわかりますが技術的なことは判りません。ただ背景に寓意を示す絵が無いこおと、椅子の正面にある獅子像の向きが女性が座っている姿勢に対してがあまりにも不自然で冷静に観賞することができません
27 デルフトの眺望
マウリッツハイス美術館にはこの絵と向かい合わせに「真珠の耳飾りの女」が展示されているとのこと、フェルメール作品で人気を二分する2作品が一同に会する様子は夢見る思いがします。文句なしに素晴らしい作品、雲の色、空の色、そして川面の色全て素晴らしいです。ここはフェルメールの故郷、現在の風景と殆ど変ってないのも驚きです
28 小路
フェルメールの風景画はこの作品と「デルフトの眺望」だけですがこの作品も素晴らしいと思います、一見単純に見えますが実は複雑で多く謎が暗示されているように思います。何故か明るい入口のお婆さん、不思議なな空の色、正面の建物左側の黒い部分などがその例です。建物だけでなく人の姿が描かれることで街の香りが伝わってくるようです
29 マリアとマルタの家のキリスト
METでこの絵を観てその色彩の美しさにに感動しました。ベタニヤ村の自宅に泊まった主キリストを懸命にもてなすのに主の足許に座ったまま主の言葉に熱心に聞き入るだけの妹に不満を抱き彼女をどう思うか主に尋ねるマルタの有名なシーンが描かれております。マルタの白いスカート、マリアの青いスカートのひだにフェルメールらしさが感じとれます
30 紳士とワインを飲む女
フェルメールの作品では珍しく横長に描かれております。画枠に収まらないので左側をカットしておりますが実際はこのようになっております。このカットされた部分にステンドグラス風の窓、白い柱、カーテンが描かれておりました。この三つに光と影の技法が巧みに使われこの絵の魅力になっておりました。この窓は「 二人の紳士と女」にも描かれております
31 レースを編む女
神経を集中させて小さなピンを型紙の上に刺している彼女の姿に観る人の視線も集中してしまいます。机と質素なクロスがかけられたテーブルだけの簡素な風景が静寂さと緊張感を引き出しているように感じます。光と影による机の木質のリアル感にフェルメールのらしさを感じました。この絵では珍しいことに右の窓辺から陽が射しております
32 真珠の首飾りの女
ここから4作品続けて黄色いアーミン服を着る女性がモデルの絵を取り上げます。拡大すると真珠の首飾りと耳飾りに髪飾りまで確認出来ます。その姿が写る鏡を両手を広げて見つめる女性、妊婦だとすればフェルメールの妻、カタリーナが横の席に座るフェルメールを迎えようとしているのでしょうか。壁に塗り潰された額画の痕跡がX線で確認されております
33 ギターを弾く女
モデルを中心から右にズラし、モデルの右肘をカットし、モデルをボカすなど敢えて下手な写真のような構図をとったフェメールの意図が私には判りません。右の絵と同様にこの絵も右から陽が射してますが、顔を日射しに背けており、フェルメール独得の光と影が表現されてないように思えてなりません。ただギターの端とアーミン服の描写は流石です
34 窓辺でリュートを弾く女
板に描かれている上、保存状態が悪く画面の傷みが激しかったことから非真作論も有りますが来歴、署名が明確なことから現在は真作と認められてます。リュートを弾いているのではなく調弦しております。画面の痛みのため机上の楽譜など細部の詳細は不明で今後の調査研究が期待される作品です。壁の絵はヨドクス・ホンディウスによる地図のようです
35 手紙を書く女
窓辺からの日射しを受けてある方向を見入る女性の姿が鮮やかにフェルメール独得の光と影の技法により表現されており、この技法による描写は全作品中で最高傑作と私は思います。白いアーミンの縁取りのふくよかさが見事に表現されてます。この絵 8の「青衣」16の「女と召使い」とともに「ラブレター展」で昨年末から先日まで日本で公開されておりました
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