雑感記

第 2 章 日本人とお風呂(1)

日本人が外国のホテルに宿泊する際、苦情が一番多いのはバス(風呂)に関するトラブルで、中でもお湯の出が悪い、お湯がぬるいと言うのが圧倒的に多いようです。 しかし、現地のホテル側としては何でそれが苦情になるのか理解出来ない場合が 多く、日本式入浴との違いが原因のようです。

我々日本人は熱いお湯に浸かってリラックスし、湯船から出て洗うことが当たり前と思っていますが、このような習慣は少なくとも欧米には有りません。 民俗学的観点からみて、入浴には3種類のパターンが有ると言われております。

一番目は一生涯入浴しない場合で、そんな風習を持つ民族がおります。 チベットと南米のインカの末裔達がそうです。 これらの地方は山岳地帯で平均気温、湿度が低いので汗が出難く、また出ても直ぐ 乾いてしまうのと、垢が出来ても少し擦れば塊になって簡単に取れてくるのでお風呂に入る必要性が無いからと言われております。 よく台湾をはじめ東南アジアで垢擦りという商売が有り、日本人観光客に人気が有りますが、案外その原点はこんなところに有るかもしれません。 二番目は熱い湯ではなく、ぬるま湯か冷水でシャワーするか、バスタブをタライ桶にして身体を洗うやり方でこれが欧米をはじめ世界の主流です。 従って外国のバスルームはこの方式を基本としておりますので、短時間にバスタブ (湯船)にお湯を満杯にする必要もなく、湯温もぬるま湯の方が調節不用で便利ですから、冒頭の日本人宿泊客のクレームは彼等には理解出来なくて当然です。

逆に、ホテル側から日本人観光客に苦情が出る場合も有るそうです。 今年の5月にロスアンゼルスの有名なホテルに宿泊した際に聞いた話です。

このホテルには毎年、日本人高校生達の修学旅行の常宿だったそうですが、有る日のこと、ある部屋のバスタブが突然下の階に落下したのでホテルでその原因を調べたところ、とんでもない事実が判明したのです。

実は高校生達は普段自分の家の場合と同じようにバスタブから出て湯船から湯を汲んで洗ったので大量の湯水が床下に流れて滞留し長い時間支持材と接触したために支持材が侵食され強度低下したのが原因だったのです。 設計的に問題は有るものの、やはり宿泊者に非が有ることは言うまでも有りません。

バスの外に出ないまでも、カーテンの仕切り方が不充分なため飛散した湯水が床下から下の階に伝わって漏れてくる苦情は日常茶飯事と聞いております。

三番目が日本の場合のように熱い湯に入る風習ですが、この風習は世界的にも日本とアメリカインデイアンにしかないそうです。 勿論、東南アジア、ハンガリー等の東欧でも温浴の風習は有りますが湯温も低く、それにパンツ等の浴衣をまとって入るのでプールで水泳する感覚のようで、日本のお風呂とは似て非なるものがあります。

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