講座集 第7章 地球温暖化と京都議定書について思うこと

(5)EC側に有利で日米側に不利な議定書の内容
日本は京都議定書作成の議長国でありながら、オランダ・ハーグでのCOP6では米国、カナダ、豪州とともに京都議定書での森林による二酸化炭素吸収分の取り扱いを巡ってEC側と対立し会議を決裂させているとEC側の批判を受けておりますが、これは日米側の事情を無視したEC側の一方的な言い分と私は思います。

決裂は既存の森林による二酸化炭素吸収分を削減量としてカウントしたい日米と、森林による吸収は1990年以降の植林によるものだけと主張するEUとの対立が原因でここに日米共通の思惑が有ります。
日米は森林による吸収分としてそれぞれ、3.7%、8.7%を認めるよう主張しております。((6)で説明)
実は、先進国の98年の二酸化炭素等の温室効果ガス排出量が90年に比べ7%増えておりますが、国別では各国の事情で大きな差が有り、日本が10%、米国が11%、カナダが13%とそれぞれ増加したのに、ドイツは旧東独との統一で16%減り、英国は石油や石炭から天然ガスへの転換が進んで8%減少し、フランスは原子力発電が全発電源の60%を占める等でEU全体では2%も減っているのです。

従ってECの8%削減は容易であるのに対し日米では後で述べるように不可能と言っていい程容易ではなく、この点で議定書の内容はECに有利で日米に不利であると言えます。
このように理不尽な要求をするEC側の狙いは、これによって日米の製造コストを上昇させることで輸出を有利に展開させ、発足以来ドルと円に押されて値下がりしたままの通貨ユーロの失地挽回を図ろうとしていることは明白と私は思います。

ここで日米とECとの立場の違いが明確に分かれ、日本がECに対抗して米国と共同歩調をとる背景が有ります。
議長国の千年の古都で決められたからとの面子にこだわって、この理不尽な議定書をEC側の言うがままに受入れてしまったら、百年どころか千年の国家の計を誤る元と私は危惧します。

(6)現行の議定書案では日米が目標達成出来ない事情
日本政府は規準年度の90年以前にかなりの削減を行ってきたため、これ以上の削減には森林の温室効果ガスの吸収などを認めるよう主張し、6%の削減目標のうち3.7%を森林での吸収でまかなうことを提案したのです。
一方米国でこの方式で森林による削減量を計算すると、8.7%となり目標の7%はなんら削減努力しないで達成できるので議定書の意味が無くなってしまいます。

そこで、米国は作戦を変え森林による吸収は主張せずに、中国、インド等の途上国に削減義務が課せられないのは不公平、削減は米国企業にとって不利、温暖化の科学的根拠に乏しいとの3点を主張するようになり、日本の主張から乖離するようになり、米国と協調する理由が無くなってきました。

一方、政府の地球温暖化対策により現行の削減計画を実行したとしても、2010年には排出量は減らず、逆に5〜8%増加することが環境省の検討会で示された推計で明らかになりました。
その原因は、1998年の計画で化石燃料などによる二酸化炭素の排出分を増減ゼロとする目標を掲げたのに原発の増設数を2010年までに20基としていた想定を7〜13基に下方修正したためプラス9.4%になるからです。 更に日本は議定書の6%の削減目標のほかに、90年から98年までの10%の増加分、更に2010年までの10%程度の増加見込分の合計26%を削減しなければならず日本が主張する吸収分3.7%を全量認められたとしても日本に22.3%もの削減義務を課すことになりEC側の主張の理不尽さが浮き彫りされます。

この点米国も似たようなもので、7%の削減目標のほかに、98年までの11%増加分、更に2010年までの増加見込分11%を合わせると29%も削減しなければならず、米国が主張する吸収分8.7%が認められたとしても20.3% もの削減を米国に要求することになりますので、米国が反対するのも当然と思われます。


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