講座集 第2章 資源回収・リサイクルに役立つプラスチックスの知識

(19)プラスチックスのリサイクル

貴重なエネルギー資源である石油は有限であり、いずれは枯渇して無くなってしまいます。そしてその石油の大半は、ガソリン、ナフサ、軽油、灯油、重油等として燃やされて炭酸ガス、水等に分解されてリサイクルされることなく大気中に放散されてしまいます。石油、石炭、天然ガスは化石燃料と呼ばれ、動物や植物の死骸が地中に堆積し、長い年月の間に変成してできた有機物の燃料です。これらの燃料は有限であるとともに、燃焼によって地球温暖化の原因とされる二酸化炭素、大気汚染の原因物質である硫黄酸化物、窒素酸化物等のガスを発生することからも問題になっており、化石燃料に代わる新エネルギーの開発が急務となっております。

ところが、石油は燃料以外の用途として、ナフサを出発原料としてこれからエチレン、プロピレン、ブタジエン等の脂肪族、更にはベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族などのの基幹物質に分解され、これら基幹物質から、ゴム、接着剤、塗料を含む有用なプラスチックスが作られております。広義の解釈ではプラスチックスと言える、ゴム、接着剤、塗料等は残念ながらリサイクルすることは技術的には不可能ですが、狭義のプラスチックスである成形品やフィルムは技術的にリサイクル可能です。従って、こうしたプラスチックスのリサイクルは、新エネルギーの開発とともに人類に課せられた義務とも言えると思います。

プラスチックスの資源リサイクルには次の方式が有ります。

1.そのままの形で再利用する。
2.溶融、再成形して再利用する。
3.熱分解して基幹物質にして有効活用する。
4.燃やすことで燃料として有効活用する。

1.が最もリサイクル効率が高く理想的で、後にいくほど悪くなり、4.は最も悪く、「燃えるゴミ」として燃やすのと基本的には変わりません。

1.のケースは、PETボトルで行われる以外は殆ど行われていないようです。ガラス製のビール瓶は約30回ぐらい洗浄するだけでそのままリサイクルできますがPETボトルのようにプラスチックスは柔らかく、またガラスほどの表面高度が有りませんので、透明度が落ちるだけでなく表面がザラザラになって衛生上問題にならないレベルまで洗浄するのが難しいとの問題が有り、清潔を重んずる日本での実用化は難しいようです。

2.発泡スチレン、ABS等のスチレン系樹脂を再溶融後プラモデルなどに成形、ポリエチレン等を再溶融後ホンコンフラワー等の造花などに成形して再利用するケースが有ります。この場合は過熱により性能低下、色調を整えることが出来ないことから、色調をグレーないし黒に統一してガーデン用品等に再利用されるケースが多いようです。PETボトルの場合は透明の上、クリ−ンな状態で回収できますので溶融、紡糸することでポリエステル繊維に再生できます。

3.は、プラスチックスを非酸化雰囲気で溶融温度以上に制御して熱分解すると、気化してその出発原料のモノマーの状態になることを利用しております。例えばポリエチレンならエチレンガスになります。これを精製すれば再度重合してポリエチレンにもなりますし、それ以外の用途にも利用できます。ただ、この場合はその純度が低かったりたの不純分が複製するのでコスト高になることが多くその適用は限られ、その実用例を私は知りません。

4.が最も多く行われているリサイクル法ですが、これですと「燃えるゴミ」と同じことになりますが、それでも「燃えないゴミ」と一緒に埋め立てられるよりはましです。例えば、金属製のスプレー缶にプラスチックス製の蓋が付いている場合が有りますが、そのまま「燃えないゴミ」として排出するとプラスチックスは燃やされないまま埋められてしまう恐れが有りますので、容易にプラスチックスとして分離出来る場合は、「資源ゴミ」「燃えるゴミ」のいずれかにして排出を心掛けるべきでしょう。代表的な利用例として、廃タイヤをセメント製造時の補助燃料と利用しているケースが有ります。


(20)汎用プラスチックスの識別法

プラスチックスの識別は、赤外線吸収、ガスクロマトグラフ、質量分析等の分析機器を使えば殆ど全て可能ですが、ここでは家庭で、本格的な分析機器を使わないで簡単に識別する方法を解説したいと思います。

(1)ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)の識別:
サンプルを水中に投下して浮いてくるのはPEかPPのいずれかです。数有る実用プラスチックスの中で、比重が最も小さいのはPP(約0.91前後)、次いでPE(0.94前後)で、いずれも1未満ですので水に浮きます。フィルムの場合、透明度がよくてやや堅めのものが PP、柔らかめのものがPEです。但しPEでも高密度ポリエチレン(HDPE)のフィルムは半透明でゴワゴワしております。成形品では堅いのがPP、柔らかいものがPEです。どうしても判らない場合は、濃度45%以上のウイスキーに入れて浮くのがPP、沈むのはPEです。

(2)塩ビ(PVC)の識別:
塩ビは塩素を含んでいるため燃やすと有害ガスが発生することに加え、5度C以下になると堅くなって脆くなる欠点が有るために成形分野ではPP、PE、ABS等に代替され、現在では水道、ガス用のパイプや屋根材としての波板、サッシュ等の建材等に利用されるに留まっており、以前醤油用に使われていたボトルも殆どPETに代替されており、殆ど台所、居間では見ることはありません。ただ、その柔軟性を利用して電気絶縁、粘着テープ類やシート類、人工レザー類にはまだ幅広く使われております。従って、塩ビの識別はその形態でおよそ見当ががつきますが、燃やして発生するガスを硝酸銀水溶液に導入して白く濁ることから識別できます。

(3)ポリスチレン及びその誘導体の識別:
ポリスチレンは、ガラスのように透明で成形性がプラスチックスの中で最も優れていることから、以前は精密な形状を必要とするテレビやラジオのスイッチのつまみ類、最近は旅客機のドリンクサービスの時に出される使い捨てのコップ類などに使われておりますが脆いため、アクリルニトリルとの共重合体のAS樹脂(使い捨てライターや醤油ボトル等)、更にブタジエンを加えた共重合体のABS樹脂(旅行カバン、テレビ、ラジオ、パソコン等の電気機器類の本体、車のダッシュボード、計器パネル、シートのレザー類など)のスチレン共重合誘導体にして脆さを改善して使用されております。PE、PP、PVCと識別するのは簡単で、両方のサンプルをシンナー、ベンジン、ガソリンなどに入れると、ポリスチレン及びその誘導体は溶けるか、溶けないまでも表面ガヌルヌルしてきます。このように、スチレン系は耐油性に欠けますので、電気機器類や車の内装品等をシンナーで拭くのは厳禁行為とされております。

(4)透明プラスチックスの識別:
透明プラスチックスには次の5種類が有ります。

・ポリ塩化ビニル(PVC)  波板、
・アクリル樹脂(MMA)   波板、安全ガラス、
・ポリカーボネート(PC)  CD、DVD等の基板、哺乳瓶など
・ペット(PET)        ボトル類
・ポリスチレン(PS)     CD、DVDのケース類

以上5種類のサンプルにシンナーに浸漬して表面が曇るのがポリスチレン(PS)です。 残り4種類のサンプルを板にこすり付けて匂いを嗅ぎます。いい匂いがするのがアクリル樹脂(MMA)です。 残り3種類のサンプルにライターの火を近づけてみます。直ぐに軟化するのがポリ塩化ビニル(PVC)です。最後に残ったポリカーボネート(PC)とペット(PET)の識別は容易ではありませんが、シンナーに長時間浸漬すると透明度が落ちて劣化するのがポリカーボネートです。 ポリカーボネートは、「割れないガラス」「透明な金属」ともいわれるほどの衝撃強度を備え、更には耐候性がいいことから最近は航空機のカラス窓、波板等でアクリル樹脂に代替する傾向にあります。一方、ペット(PET)はポリカーボネートと同様に透明性には優れますが、成形性にやや難点が有り、かつリサイクルが可能なことからボトル類に多く使われております。

(5)プラスチックスフィルムの識別:
プラスチックスフィルムには次の5種類が有ります。

・ポリエチレン(HDPE)  
・ポリエチレン(LDPE)  
・無延伸ポリプロピレン(CP−PP)
・二軸延伸ポリプロピレン(OP−PP) ・ポリ塩化ビニル(PVC)  
・ポリ塩化ビニリデン(PVDC)
・ポリスチレン(PS)
・ポリエステル(PET)  

まず、水に浮くのが上記のポリオレフィンと呼ばれる上から4番目までのポリエチレン、ポリプロピレンの各フィルムです。すぐ判るのが、スーパーなどの買い物を入れるあのレジ袋の100%近く使われているポリエチレン(HDPE)です。一方、ポリエチレン(LDPE)は透明度がいい上にしなやかなフィルムになるポリエチレン(LDPE)は食品包装用に」多く使われております。ポリプロピレンフルムはポリエチレンに性状がよく似ておりますので見分けし辛いのですが、無延伸ポリプロピレンだけは直ぐに判ります。ポリプロピレンは押出成形する押出方向に分子が整うと言う配向性が有るため通常の方法で押出成形されたフィルムは押出方向の強度は強いのですが、押出方向に垂直な方向は弱くなるという偏った性質を持って持っております。無延伸ポリプロピレンはこの方法で成形されておりますのである方向が極端に弱く手で摘んで引っ張るとすぐ引き裂かれてしまいます。二軸延伸ポリプロピレン(OP−PP)は、この欠点を是正するために押出成形する時に、押出方向に垂直な方向にも延伸しながら成形することから二軸延伸フィルムと呼ばれいずれの方向にもバランスのとれた強度を示します。ポリエチレンに較べて光沢に優れますので高級感を出す包装フィルムとして使われます。

ポリ塩化ビニル(PVC)フィルムは薄くすることが難しいため厚手のフィルム、つまりシートが圧倒的に多く、免許証やパスポートなどの透明ビニルカバー、テープ類に使われますがその柔軟性に特徴がありますのですぐ見分けられます。ポリ塩化ビニリデンフィルムは以前は、商品名でサランラップ、クレラップ等のラッピングフィルムとして使われておりましたが、最近は燃やすと猛毒のダイオキシンを発生する恐れが有ることから最近はポリオレフィン系のフィルムに置換されつつあります。

スーパー、コンビニなどで利用されている惣菜、弁当、カップ麺用のポリスチレン容器などの美粧化や強度アップのためのラミネート、封筒窓貼り用に使われるのがポリスチレンフィルムですが、これらの用途以外はあまり見かけません。ポリエステルフィルムの最大の用途はビデオテープ、OHPフィルム、写真フィルムです。強度が強く手で引っ張っても破れないほど丈夫ですので直ぐ見分けられます。他に、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリイミド(PI)が有りますが特殊用途で民生用には殆ど使われておりませんので省略します。


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