飼育記

5 章 chasukeクンの窓越しの恋

以前、近所に三毛の野良の子猫がおりました。 私が夜中に釣りから帰宅すると、何時も「にゃーん」と鳴いて待っているのです。 釣ってきた魚の臭いを嗅ぎつけるのでしょう。 でも、だっこしようと手を差し出すと歯をむいてあとずさりして抵抗するのです。
きっと、捨てられてからも人間にいじめられてきたのでしょう。 そんなわけで飼うわけにもいかないので、この雌の子猫を「ミー」と名付けて我 が家の玄関に専用のお皿を置いて食べ物を入れておくことにしました。 釣ってきた新鮮な煮魚が好きで、中骨だけ残してきれいに食べてくれるのです。

しばらくして、長女が自分の小使いでチンチラの子猫を購入して連れてきました。 真っ白なフサフサの毛にまんまるいつぶらな瞳のこの猫の可愛らしさに、娘の 勝ってな行動を叱るのも忘れて飼育に夢中になってしまいました。

そして、屋敷内で飼う猫達の共通の宿命として去勢手術をする日がきました。 雄猫は、この手術をしないと臭い付けのスプレーを部屋中に撒き散らして悪臭 を放つので可哀想ですが手術しないわけにいきません。

看護婦さんが「お名前は?」と言うので、「はい、鈴木佐助です。」と答えました。 渡された診察券には「鈴木茶助」と記載されておりました。 佐を茶と判断されたのでしょう。 以来、何時の間にかsasukeからchasukeになってしまいました。

ところが、このchasukeが我が家に来てから、あの野良のミーちゃんが全く我 が家に寄りつかなくなりました。 猫は「ニ君に仕えず」の例えのとうり、chasukeの出現によって身を引いたのです。 近所にたむろする野良猫グループとは一線を隔すミーちゃんは食事にありつけ なくなって、日に日に痩せていくのです。

食事を与えようとしても我々を見ただけで逃げるように立ち去っていくのです。 この様子を見ていた隣の奥さんが、見るに見かねて何とか手なずけて自分の 家で飼うことにしてくれたのです。 恩義を感じたミーちゃんはすっかり奥さんになついてしまいました。

chasukeは、隣の庭にいるミーちゃんを小さい時から我が家の窓越しに憧れと 羨望のまなこで見つめることが習慣になってしまいました。 彼にとっては近くで見られる唯一の異性であり、出入り自由の放し飼いのミー ちゃんに魅力を感ずるのは無理もないことです。

そのミーちゃんも今や14才の老婆、chasukeも10才のオジサンになり、 老いらくの恋も実を結ばないまま今日に至ってしまいました。 「ミーちゃん ごめんね。何時までも長生きして
chasukeクンのマドンナになってね。」 「chasukeクン ごめんね。窓越しの恋、でも何時までもときめいてね。」

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