我が闘病記

第9章 看護婦さんから聞いた怖い話

仲良しになった看護婦さんがいろいろ話をしてくれたのです。
彼女は話す時はベッドの横に座って出来るだけ目線を私に合わせようとします。 これは、患者との一体感を高めて気持ちを和らげようとする動作なんだそうです。

また床上のものを取り上げる時も腰を屈める姿勢をとるのです。 前屈みの姿勢は看護婦さんの職業病の腰痛になりやすいからなんだそうです。

彼女は小児科病棟勤務が一番辛かったと言うんです。
死亡に立ち会うことが屡々有るのですがその時の幼児の死に顔がすごくきれいで、 生前のことを知っているだけに帰宅してもその顔が目に浮かんでて眠れないことも有 ったそうです。 そこで、怖い経験談を無理に聞き出したまではよかったのですが、今度は私が怖くなっ てその夜は遅くまで携帯テレビをこっそり見て気を紛らしたのでした。
その話は次のようでした。
ある日、彼女が個室担当していた可愛い4歳の女の子が亡くなりました。 個室で亡くなった場合、その当日はその個室は空室にしておくのだそうです。 彼女は同僚と二人でその夜は夜勤でした。

すると、その空室のはずの個室からナースコールが有ったと言うのです。 不思議に思いその部屋に駆けつけてみましたが空室のままで誰も居ません。


誰かのイタズラぐらいに思ってナースセンターに戻ったのですが、それからしばらくした 寝静まった深夜にまたその部屋からコールが有ったそうです。 さすがに怖くなって同僚と二人で恐る恐るその部屋のドアーを開け懐中電灯でベッド を照らしたのですがやはり人影は有りません。
彼女は生前女の子が彼女が使っていたミッキーマウスのマスコットボールペンを珍し そうに見ていたことを思い出しそれを枕元に置いて退室したそうです。

その後、二度とコールは無く、早朝にもう一度その部屋を覗いてみたら、そのボールペ ンは無かったというのです。 以上が彼女から聞いた不思議な出来事だったのですが、その現象自体は何ら怪奇で も超常でもなく、例えば隣の人のイタズラとすれば何の変哲もない出来事なんですが、 当事者の彼女からすれば思い出すのも怖い体験だったと思います。

この話を聞いたその夜、この個室で亡くなった人がいるかもしれない、もしそうなら、 その霊魂が宿っているかもしれないと思うと急に怖くなってしまったのです。 そんなことを後日、彼女に話したら整形外科病棟で亡くなる人なんかいないし、むしろ ある有名な女優さんがこの部屋に居たこともありますよと笑っていました。
無人の個室からのコールは接触不良か、ねずみがつついたかのいずれ、朝ボールペ ンが無くなったのは、他の看護婦さんが持ち去ったものと無理に自分を納得させること にしたのです。

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